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想いと力  作者: 阿利縄沙方
第一章 出会い編
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第七話 空中戦②


 ミーナは全力で竹林を駆けていた。彼女の制止の声を聞かず飛んでいってしまったアキラを追いかけてはいるが、猫の姿では限界がある。先ほどから断続的に魔弾の白い光が見えるのでアキラはまだ撃墜されてはいないようだ。

 置いて行かれたのにはもう一つ理由がある。一般人が近づかないように竹林を入ってすぐのところに、気休め程度の効果しかないが人払いの魔符を貼っていたのだ。

 もともとミーナが得意なのはガイナス式魔法ではなく、魔符や魔法陣・呪文を用いる正統黒魔術である。ガイナス式のように自由度は低いが毎回安定して魔法が使え、あらかじめ魔符に魔力を込めておけば自身の魔力を使うことなく魔法を発動できる。ミーナはもしものために簡単な魔法を魔符に込めておいたのだ。

 その内の一枚を新たに発動した。効果は身体強化。持続時間は短いがこれで何とかアキラに追いつけるだろう。竹の間を縫いながらミーナは黒い風となって駆けた。

 程なく竹林を抜けた。抜けた先はすでに山の斜面で、広葉樹がまばらに立っているだけなので青空が見えた。

 空では激しい攻防が繰り広げられていた。交錯する白と黒の軌跡。白はアキラ、黒が鳥型魔物だ。

 しかしアキラのスピードが先ほどよりも格段に速い。よく見るとアキラは普段着ではなく白いローブを身にまとっていた。


「ローブで風を防いでいるのね。けど、それにしても速い……」


 素早い動きについて行けていなかった先ほどとは違い、アキラは魔物と同じくらいの速さで空を駆け、速度を維持したまま魔弾を放っている。

 飛行の軌道がまだ直線的で、魔弾の照準もなっていないが、今のアキラは魔物と十分互角に戦っていた。


「貴方は、一体何者なの?」


 アキラは一昨日まで魔法を知らなかった。魔法にふれたその日に実戦を経験し、あまつさえ戦いに勝利している。そして今日、二度目の実戦で、教えてもいない防護服を自分で作り出し、激しい空中戦を繰り広げている。

 明らかに異常だ。普通より魔力が多いということだけでは説明がつかない。何かアキラには秘密があるように思える。ミーナでは想像もつかないような、大きな秘密が。

 助言をしようと考えていたことも忘れ、ミーナはただ目の前の戦闘を見ていた。


 ●


 景色が物凄い勢いで後ろに流れていく。視界が何度も回転する。気を抜くと今自分が上下どちらを向いているのもわからなくなる。

 後ろを振り返って見ると、魔物の身体が大きくなっている。先ほど地上に落ちたときさらに生物を取り込んだようで、今ではアキラの身長と同じくらいの大きさになり、その姿はまさに怪鳥というに相応しい。

 変わったのは姿だけではない。魔力があがったのか敵も魔弾を放つようになった。一発が小さく速度も大したことはないが、散弾銃のように放たれるため完全に避けるのは難しい。掠った程度ではローブがちゃんと防御しているが、直撃ではどうなるかわからない。

 後ろを飛ぶ怪鳥がくちばしを大きく開いた。アキラは慌てて右にロールする。

 アキラの左側を敵の黒い魔弾が通り過ぎる。しかし避けきれなかった一発がローブの裾を掠めた。


「後ろをとられたままじゃまずい。何とか回り込まないと」


 しかし敵の方がトップスピードも飛行能力も上だ。単純に回り込むことはできない。

 さらに悪いことに、初めて使った防護服の魔法に多数の魔弾、常に全速力で飛び続けたこともあり、アキラの膨大な魔力でも残量が心許なくなってきた。早く決着をつける必要がある。

 そうこうしているうちに再び魔物がアキラの後ろについた。相手が攻撃する前にアキラは魔弾を一発撃って右に飛んだ。魔物は攻撃を易々と避け、白の魔弾は空の彼方へ。

 完全に後ろをとられる前に射撃、そして左旋回。今度も魔物は避けて魔弾を撃ち返した。さらに左に飛びつつ直撃軌道の敵の魔弾三発に対しアキラも三発撃ち、うち二発が相殺し一発が逸れ、相殺しきれなかった一発がアキラに直撃した。


「うわっ!」


 衝撃で吹き飛ばされたがすぐに持ち直した。今のでローブが半分ほど消し飛び、下のブレザーが焦げたが身体にダメージはない。もう一撃でブレザーも撃ち抜かれ大ダメージを受けるだろうが、今は魔法の仕掛けの方に集中しなければならない。

 上昇しつつ最後の魔弾を放つ。それは最早敵を狙ってはいない。しかし魔物にその理由を考えられるような知能はないのか、構わずアキラを追い翔る。

 アキラは自身の出せる最高速度で上昇し、突然急ブレーキをかけ魔物に振り返った。

 

「来い、魔弾!」


 叫び声を上げるもアキラの持つ杖からは何も出ない。魔物は好機とばかりにアキラへ真っ直ぐつっこむ。

 十分すぎるほど接近し魔物が止めをさそうとくちばしを大きく開いた。


「アキラ!」


 地上から聞こえた黒猫の声は、その後に続いた爆発音にかき消えた。

 

  ●


 爆発が起こりアキラと魔物は黒煙に包まれた。直前で白い光が見えた気がしたが、あれほどの爆発でアキラが無事である保証はない。


「アキラ、アキラ……」


 ミーナはか細い声を出し、その場に立ちすくんだ。目の前で起きたことが信じられない、信じたくない。

 ミーナの瞳から涙が一筋流れた。


「嘘よ、そんなはずない……また、私は」


 その後に続く言葉は、黒煙から白が抜け落ちてきたことで引っ込んだ。全体的に黒く焦げてはいるがその白装束を見間違えることはない。


「アキラ!?」


 固まって動けなかった身体は一瞬で拘束から解き放たれ、落下地点へ駆け出した。

 アキラは意識がないのか頭から落ちていたが途中で覚醒し、地上ギリギリで反転・制動をかけ、ゆっくりと両足で地面を踏みしめた。

 

「アキラ!」


 ミーナはすぐさまアキラへ飛びつき、その全身を隈無く調べ、特に怪我がないとわかるとペタンと地面に座り込んだ。


「よかった、無事で……」

「心配かけてごめんなさい。けど、僕やったよ」


 そう言って出されたアキラの手の中には雀が二羽横たわっていた。怪我はなく単に眠っているだけのようだ。


「これは……」

「魔物が取り込んでいた鳥さんだよ」

「そうよ、魔物は! どうやって倒したのよ?!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてミーナさん」


 噛み付かんばかりの勢いで迫ったミーナは、アキラに宥められて少し落ち着きを取り戻した。

 疲れたと言うアキラのために近くの木の下に並んで座った。アキラはぼろぼろのローブとブレザーは解除し、普段着に戻った。


「それで、何が起こったのか説明してもらいましょうか? 本当に心配したんだから」

「それは本当にごめんなさい……」


 明らかにしゅんとなったアキラを見てちゃんと反省していると思い、話の先を促した。


「反省してるならいいわ。それよりもどうやって倒したのか話しなさい」

「ありがとう。それでどうやったかだけど、まず敵は速すぎてしっかり狙っても簡単に攻撃を避けられちゃうでしょ? だから絶対に避けられない攻撃をすればいいと思ったんだ」

「その考えはわかるけど、絶対に避けられない攻撃なんてどうやるのよ」

「避けられないような状況を作ったんだ、僕を囮にして。決着の前に僕が何発か魔弾を撃ったのを覚えてる?」

「ええ、全部避けられていたけど」

「あれはわざと避けられるように撃ったんだ。そして避けられた魔弾を空中に留め、後は僕につっこんで来たところへ留めておいた魔弾を四方から魔物にぶつけたんだ。敵がどこに飛ぶかわかっていて、待ち伏せして囲んでしまえば絶対に避けられないでしょ」

「な、なんて無茶で出鱈目な……」


 あの高速で繰り広げられた戦闘の最中に自分を囮にするような戦法を思いつくなんて。それに魔弾を空中に留めておくのもその間ずっとイメージを保たなければならない。空を飛び回って敵の攻撃を避けつつ空中の魔弾にまで意識を向けるなんて、尋常でない集中力が必要だ。

 それをアキラは目の前でやってみせた。失敗すれば自分の命を落とすような場面で。


「アキラは、怖くなかったの? 一歩間違えれば死んでいたかもしれないのよ?」


 ミーナは思わず問いかけた。

 アキラは一瞬驚いた顔をした後、声を上げて少し笑った。


「はは、確かにそうだね。そんなこと考えもしなかったよ」

「ちょっと、ふざけないで! 私は真剣に話してるんだから!」

「ごめん、でも本当に自分が死ぬなんて思わなかったんだ」


 そう言うアキラの顔はどこまでも真剣で、ふざけているようには見えなかった。


「それじゃあ、どうして……」

「信じてたんだ。ミーナさんが僕にくれた魔法のこと。僕がずっと望んでいた、誰かのための力を」


 本当に嬉しそうな、でもどこか悲しそうなアキラの笑顔からミーナは目を離せなかった。そんなミーナをアキラも見つめ返した。

 何か言わなければ、そう思っても何を言えばいいのかわからない。頭の中にあるのは疑問だけだ。

 何故そこまで力を欲しているのか。

 短い間だが一緒にいて、アキラが私利私欲のために力を求めているわけではないことはわかる。だからこそどうしてそこまで必死なのかがわからない。好戦的な性格でもなく、むしろ穏やかで平和を好んでいると思う。

 アキラの使うガイナス式魔法は自分のイメージを信じれば信じるほどその力は増大する。その行為は自分を信じることと同義だ。

 アキラを信じさせている想いとは何なのか、考えても答えは出ない。その答えはアキラの心の中にだけ存在する。

 

 暫くしてアキラが帰ろうと言い出すまでミーナは思考の海に沈んでいた。

 







季節は夏でそこそこ暑いですが、魔法のローブですので蒸れたりしません。イメージでなんとかなるのです。気にしないでください。

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