第五話 家族
ちょっと短いです。人物紹介的な話なので……
「今日はいつもより早かったんだね」
アキラはミーナを抱えて月夜と一緒に一階に下り、リビングのソファに座った月夜にお茶を出して自分も月夜の向かいに座った。
「論文が思ったより早く出来上がってね。今日は他に予定を入れていなかったから、たまには早く帰ろうと思ったのさ」
「論文できたんだ。今回のテーマはなんだっけ?」
「学者の間では幻と言われていた古代陽国の実在と彼の国の女王傑紀晶についてだよ。陽国は倭の国の東にあって、西の邪馬台国と覇権を争っていたといわれているんだ」
「この間出てきた遺跡がその国の物なの?」
「私はそう確信している」
この家の主である秋山月夜は28歳にして大学教授であり専門は考古学、特に弥生時代を研究している。
非常に研究熱心な人だが一方で若くして結婚している。しかし、奥さんも考古学者をしていたがとある遺跡の発掘調査中に落盤事故があり、すでに亡くなっている。
その後遠い親戚であるアキラが両親を交通事故で亡くし親戚の家を転々としていると聞き、広すぎる家で一人は不便だからと二年前アキラを引き取ってくれたのだった。
それからは二人で家事を分担しつつ、穏やかに暮らしている。時々両親のことを思い出すが、悲しい気持ちはなく、楽しかった思い出が浮かんできては今の幸せを噛み締めている。
「学校はどうだい? 相変わらず琢磨君と仲良くしているかい?」
「うん、すごく仲良しだよ!」
「それはよかった。そういえば猫の具合はどうだい?」
「傷はすっかり治って、元気になったよ。ご飯もちゃんと食べてるし」
「そうか、でももう一度病院で診てもらった方がいいかもしれないね」
「わかった、明日ミーナさんを連れて行くよ」
「ん? 名前ミーナにしたのか?」
「え、あ、うん、そうだよ」
「よかったなミーナ、いい名前をつけてもらって」
月夜は足下で丸まっていたミーナを抱え上げて頬ずりをしだした。ミーナが必死に抵抗するも猫の姿ではどうしようもない。暴れるのを喜んでいると勘違いした月夜は余計にスキンシップを図る。
―――アキラ、助けて~!
とうとう念話でSOSを発したミーナをアキラは月夜の腕から救い出し、自分の膝の上にのせた。
感謝の意を込めてニャーと鳴いたミーナにアキラは苦笑を返した。
「相変わらずアキラは動物によく好かれるね。私も一度でいいからそんな風に触れ合いたいよ」
「本当にどうしてなんでしょうね? 月夜さんは動物が好きなのに、動物に全然懐かれないですし」
「きっと私は呪われているんだ・・・・・・」
「そんなことないですよ。きっといつか仲良くなってくれる動物に出会えますよ」
月夜はアキラの慰めを聞いても、そうかなー、と言って落ち込んでいる。
それを見たミーナは少し可哀相なことをしたかと思い、アキラの膝上から降りてゆっくりと月夜に近づき、控えめに月夜の足に身体を擦り寄せた。すると月夜はたちまち笑顔になってミーナを抱き上げ、頬ずりをし出した。
「ミーナ、お前はなんて可愛いやつなんだい!」
「ニャ、ニャー!?」
「はは、月夜さん程々にね」
両親は死んでしまったが、今は月夜がいる。時に父のように、時に兄のように接してくれる月夜のことをアキラは本当の家族だと思っている。どの家でも厄介者扱いされていたアキラを引き取って、暖かい生活をくれた月夜のことがアキラは大好きだ。
今日みたいな楽しい日々がずっと続けばいい。アキラはそう思わずにはいられなかった。
架空の国と実在?の国とごっちゃに出てきますが気にしないでください。