第一話 出会い①
初投稿です。自己満足のために書いたモノなので読みにくいかもしれません。暇つぶしに読んで頂けたら幸いです。
キーンコーン、カーンコーン……
静かだった教室に終業のチャイムが鳴り響く。授業をしていたのはこのクラスの担任で、授業終了と同時にホームルームを始めた。特に配布物も無かったのか軽い連絡事項だけを告げると、終業の挨拶を手早く済ませ教室を出て行ってしまう。しかしこれはいつものことなので生徒の誰も気にする者はいなかった。むしろ早く解放されるため歓迎されている。
帰り支度を整えぞろぞろと教室を後にする生徒たち。部活動に向かう者、帰路につく者などそれぞれ目的を持っている。
そんな中未だ教室の窓際の席に座る生徒がいた。男子の制服を着ているが肩に少し掛かるくらいの黒髪と整った顔立ち、そして華奢な体格のせいでどこか儚げな少女のような印象の少年に一人の男子生徒が話しかけた。
「アキラ、さっさと帰ろうぜ」
アキラと呼ばれた少年は鞄に教科書などを仕舞いながら男子生徒に顔を向けた。話しかけた男子生徒も背が高く精悍な顔つきをしている。この二人がそろうとまるでどこかの国の王子様とお姫様のようだ。
「あ、琢磨くん。ちょっと待って」
「たく、相変わらずトロいよなお前」
「あはは、ごめんね」
「本人に治す気がねぇ……」
琢磨と呼ばれた男子生徒はいつもの会話なのか、言葉ほど責めている風にも気にしている風にも聞こえない。そこには半ば諦めが滲んでいたが。
アキラは漸く用意を終えて席を立ち、琢磨と共に教室を出た。琢磨と他愛無い会話をしつつ、すれ違う教師や知り合いに一々挨拶をしていく。
下駄箱で靴を履き替え玄関を出ると、二人はゆっくりとした歩調で進む。校舎から校門までの距離はたいしたことがないが目一杯時間をかけて、会話を楽しむ。
「そういえば最近この近所で古い石碑や地蔵が沢山壊されてたらしいぜ」
「そうなの? ひどいことするんだね」
「父上がそういう古い物がすきだからかなり頭にきてた」
「ははは、おじさんは昔から骨董品とか好きだもんね」
「母上に怒られてもコレクションがこそっと増えてるしな……」
そう言って二人で笑っている内に校門までたどり着いた。
実は一緒に帰るといっても二人一緒なのは大抵校門までなのだ。
校門前に着くとそこには黒い高級外車が停まっていて、その前に立っていたスーツ姿の男性が琢磨にお辞儀する。
「お帰りなさいませ琢磨様。アキラ様、いつも琢磨様と仲良くしていただきありがとうございます」
「ただいま。いい加減その言い方やめろよな、恥ずかしい」
「琢磨様の大切なご友人ですので」
「こんにちは、高山さん。今日のネクタイもいい柄ですね。似合ってます」
「ありがとうございます。いつも褒めて頂き、選んでくれる妻も喜んでおります」
そうお礼を言うこの四十代の男性は、琢磨の実家である一条家に仕える執事の高山で、琢磨がまだ幼いころから琢磨付きで身の回りの世話をしている。
「それじゃあアキラ、また明日な」
「うん、また明日。お稽古頑張って」
車に乗り込み手を振る琢磨にアキラは手を振り返した。琢磨の乗る高級外車が静かに発進し、角を曲がって見えなくなるとアキラは反対方向に歩き出す。
琢磨の一条家は昔京都で呉服屋を営んでいて、そこから分家してこちらにやってきて今では呉服にとどまらず様々な業界で実績を上げている。その一条グループの次期当主である琢磨は中学一年生の身でありながら、日々いろんなお稽古事で当主たる能力を育てているのだ。
多少寂しさもあるが琢磨本人が望んでいることなのでアキラは琢磨のことを応援している。
それにアキラの通う私立桜花大学附属中学校は所謂御曹司やお嬢様が数多く在籍していて、校門の前には沢山のお迎えの車が停まっていたりする。ここでは琢磨のような境遇の人は結構多いのだ。庶民であるアキラには想像しかできない苦労があるのだろう。
そんなことを考えつつ梅雨明けで久しぶりの青空に気分を良くして、自然と足取りも軽やかになっていた。
暫く上機嫌で歩き、自宅まで残り半分ほどまで来た。一週間ぶりの太陽は燦々と輝いていて少し汗ばんできた。
帰ったらシャワーでも浴びようと考えていたその時、突然の頭痛がアキラを襲った。
「っ!?」
頭が割れるような激痛に堪らずその場に座り込む。
―――助けて……
激痛の中頭に響く若い女性の声。
痛みに呻きつつ辺りを見回すが人影は無い。しかし助けを求める声は止まない。
―――助けて、誰か……!
「だ、れ……?」
誰にとなく問いかけた声だったが、返事があった。
―――やっと繋がった! 私はここよ……
喜ぶ声は次第に弱まり、とうとう声は途切れ頭痛だけが残った。
痛みの中女性の必死な声が頭から離れない。混乱していたアキラだが、女性を助けにいかなければならないという気持ちだけは何故か確かに感じられた。
「待ってて、今行くから……」
アキラは朦朧とする意識の中、何者かに導かれるように一歩一歩懸命に足を動かす。
導かれた先は近所の自然公園内の林だった。頭痛もすでに消え、導くものは無くなっていたが、アキラは躊躇うことなく林の中に入っていく。
「僕を呼んだのは誰? 僕はここだよ、返事をして!」
叫びながらさらに奥へと分け入る。すると林の奥から呻き声のようなものが聞こえてきた。
音のほうへ急ぐと、そこには一匹の黒猫が倒れていた。近づいて見ると、どうやら怪我をして動けないようだ。アキラは傷口に触れないようにそっと黒猫を抱いた。
「お前かい? 僕を呼んだのは……」
アキラの呼びかけに答えるように黒猫は小さく鳴くと、意識をなくしグッタリしたまま動かなくなってしまった。黒猫が首に提げた深紅の珠が妖しく光る。
アキラは自分を呼んだのはこの黒猫だと直感し、疑問は後回しにして黒猫を家に連れて帰ることにした。
この出会いが御堂晶のその後の人生を大きく変えることとなる。