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<第一章>by上官
どうやら他人というものはどうにも目立ちたがりであるらしいのだと、友人に愚痴の様な響きで溢すと、彼は苦笑しながら否定を返してきた。曰く、僕が薄いのである、と彼は言った。お前は、と彼は眉を寄せる僕に向かって言葉を重ねる。
お前は、なんてーのかな、存在感ってやつが無いんだよな。他人と特別何が違うってこともないんだけど、気が付くと居なくなってるっていうんだろうな。下手な犬猫よりよっぽど目が離せないんだよな、いつの間にか居なくなってるんだもん、お前。
失礼とも取れる発言が、実の所僕の人となりを的確に表しているように感じられたもので、余計に腹が立った。確かに、人よりは主張することが苦手なのは事実だ。しかし、彼の言い分ではまるで僕が空気の様ではないか。どう言ってこの憤りをぶつけたものか、と思案していると、困ったように彼は僕の背中を叩いてきた。
そんなに怖い顔するなよ、だって事実じゃないか。先生にも、名簿が無いと出席すら取って貰えないじゃないか。名前はそんなに憶えにくいってこと無い筈なのにな“吉澤 颯”ってなぁ。ハヤテだろ?漫画の主人公っぽいのになぁ…実際は脇役なんだけど。
この友人はどうしてこうも一言多いのだろう。崩れた顔で笑う彼に一言「楽しくない冗談だよ」と不満を告げる。けれど、彼の言ってくることに偽りはないのだ。結局のところ僕は人より目立たない、目立たないだけならまだいい方で、時たまに発言自体相手に届かないことがあるものだから、日常さえままならないことがある。こんなに困っているのに、どうしてこうも友人としてはかなり親しい立場の彼は申告さもなく笑っていられるのだろうか。こんなにも悩んでいるというのに!
そりゃ、お前、俺はもう慣れたもんよ。
そんなことを自慢げに言われても困るのだ。彼だけが忘れないなんて意味がないだろう。人間は社会の中で生きているものだ。彼は一体、僕にどうやって生きていけと言うのか。問題自体もよく理解していないに違いない。この友人は、成績は良い癖に、抜けているところが否めないのだから。僕としては、もっと根本的に解決をしていきたいのであって、例えば好きな女子の眼に止まりたいわけではないから、彼にこれ以上なにか言っても無駄だろうと確信した。
そろそろ昼休みも終わりだな。授業に遅れると面倒だから、もう行こうぜ。
遠くで予鈴の鳴る音が聞こえていた。裏庭での昼は人が少なくて快適だけれど、移動が面倒だなんて思う。彼よりはマシなのだけれども。彼の教室は僕より遠い。授業棟からして、学校の一番奥にある場所なのだ。そういう日頃の不便さを知っているから、僕は他人がとやかく憧れを口にするように、Sクラスというものにそれほど価値を感じない。途中まで一緒に歩いたところで、僕は校舎へ、彼は一旦外に出て教室へ戻る。後ろから、思い出したかの様に彼が叫んだ。
「あぁ、そうだハヤテ!お前、今日妙な拾い物はするんじゃないぞ」
彼は昔から妙な占いが得意だった。それなりにあたるので、それなりに信じていた僕は頷いて、彼の安心したような笑顔を皮切りに足を進めた。