熟トマト
いえろーぴーぽーかむひあー
伊藤園の『熟トマト』には、こんな売り文句が書いてある。
「完熟トマトのおいしさ
畑で真っ赤に完熟したトマトを収穫・搾汁し、お届けします」
それはつまり、こういうことだろうか。
…
……
………
『完熟』
「やだ、ちょっとドコ触ってるのよう。くすぐったいじゃない……いっ、うぅぅ……
んっ、あっ、くぅ……ん……ねえ、(収穫)まだなの?
私、もう食べ頃なんだけど……つっぅう……ねえ、焦らっ……さないでよぉ……
あん、あ、あぁ、やだ、完熟しちゃう……
(収穫の前に)真っ赤になっちゃうぅぅう!!」
『収穫』
「ちょっと、やめてよ、最近完熟したばっかりなんだからぁ。
イヤ、まって、駄目、そんなとこ(側面)押さえられたら、傷んじゃう、やわらかいとこ(果肉)、ぐちゅぐちゅになっちゃう……
触っちゃダメェ……ヤッ、ヘタの所、弱いから、触らないでよぉ……らめ、そんなところ(茎)にハサミ当てたら、いや、イヤなのぉ
おねがいぃ、ちゃんと支えといてくれないといやなのぉ、あっ、アッ、(茎から離れて)トんじゃう、(ちゃんと支えられていないと地面に)オチちゃうぅーーーーー!!!」
『搾汁』
「ぐっへへへ……」
「ちょっとあんた、搾汁もしないでなにエロ小説なんか読んでるの!」
「ぁんだよォ、トマトなんて、コンベアに乗せといたら機械が勝手に搾るだろうがよォ……
大体、最近ご無沙汰でたまってんの、お前も分かってるだろ。これぐらいの息抜き、大目に見てくれたっていいじゃねえかよぉ」
「はいはい、ぐだぐだ言ってないでさっさと仕事しな。家族も増えるんだから」
「へえへえ、分かりましたよ。ったく」
「……ねえ、あんた」
「何だよ」
「今日、お医者様に診てもらったら、安定期に入ったって。だから、ね?
あんまり激しい事は出来ないけど、最近ちょっと張ってきたし、ほら、
……今晩、搾ってみる?」
「…………うぅぉぉおおおお!! 搾るぞお!!
全力でトマトしぼっちゃうぞぉおお!!! そぉおい!」
(駆けていく音)
「ふふっ。……ホント、いつまで経っても子供みたいな人なんだから、ねえ?」
(下腹部を優しくさする)
『お届け』
「つぅっ……ひっ、ひっ、ふぅー、ひっ、ひっ、ひぎ、ひぎいいぃ……」
「おっ、おい、どうしたあ」
(駆け込んでくる)
「はっ、はっ、はあっ……あんたァ…」
「おおおおおぉおう、何だぁ、俺は何すりゃ、いいいいんだ」
「いぎっ、いぃい、はっ、はっ、手、を……はぁ、
手を、握ってて……」
「お、ぉお、こうか、……なあ、しっかりしろよぉ、俺がついてるからよぉ」
(しわくちゃに笑う)
(1,2)「ふん~~~~~」(もう一度、ゆっくり吐いて)「ふぅぅううぅぅ~~~~」
「頑張れ、ちくしょう、何も出来ないけどよぉ、
俺がついてるから、頑張ってくれよぉ」
(2,3)「ふぅうううううううぅうう!」
「オギャー、オギャー」
「産まれ、た…の?」
「おお! そうだぞ! ありがとう、ありがとうよぉ。本当に、ほんとうに頑張ったなあ」
「……ねえ……あんた……」
「うん、どうした」
「あの子の、顔を見せてくれないかぃ」
(医者に目配せをして)「おう、いいぞ、ちょっと待ってろ」
(産湯を使った赤ん坊を抱き取る)
「……ふふっ、真っ赤だね。トマトみたいに真っ赤っかだ」
「う゛、うぅ、そう゛だな、完熟トマトみたいに真っ赤だな」
(鼻を啜る音)
「何…泣いてんだい、酸っぱいトマト食べたみたいな顔してさぁ」
「ばがやろぉ……完熟トマトは、あめえんだよぉ」
「そうだねえ。お天道様のお恵みだものねえ」
(もう一度鼻を啜る)「……ああ、そうだ。この子は、お天道様が届けてくだすった、俺とおめえの、子供だからよぉ」
………
……
…
熟トマトは、甘い。そして、さらさらに滑らか。
……ちょっと、コンビニ行って来ます。
自分が思ったより少しばかりゲスではなくて、ちょっと安心した。
一度で良いから、「らめえ」って使ってみたかった……
……使っていない、だと……




