third day-3-
脆いガラスのように
割れて割れて
その後には何が残ってる?
gentle love
「Kanan…」
怯えたようにレオンが香南に呟くが香南の瞳には何も映っていなかった。
お付きの人は急いで二人を剥がしレオンを守る。
香南はそれでもなお荒い呼吸をしながらレオンを睨む。
「香南さん!!」
七海は香南を後ろ抱きしめる。
しかしいつものように手を取ってくれない。
暖かさが何もない。
香南が大声で叫んだからかスタッフが駆けつけてきた。
お付きの人がやんわりとなんでもないというような説明をしてくれたようでそれ以上の詮索はなく、去って行った。
確かにこのままずっとここにいるわけにもいかない。
けれども二人をこのままにしておくわけにもいかない。
香南を抱きしめながら意を決しお付きの人に話しかける。
「Ah…I want to talk with Kanan.Would you look after twins? 」
今は香南と二人で話がしたかった。しかしレオンをこのままにしておくこともできない。
だから双子にレオンの傍についてて欲しかった。
双子の方を見ると怯えたように、それでもじっと待っていた。
お付きの人を見ると少し睨んだような眼をし七海を見つめていた。
「Did you heard about Leon?」
「I want to know about Japan.」
「Are you kidding?He is unrelated to you. 」
冗談だと鼻で笑われる。レオンが七海にとって関係のない子だと。
違う、もう、関係なくなんかない。
「No.」
七海はお付きの人を見上げる。
「He is not unrelated to me.I want to help him.」
その言葉にお付きの人は眉をひそめる。
そしてため息をつくと床に座り込んでいたレオンを起こす。
「Come on,There are many snack and tea here.」
双子たちに部屋へ来るよう促すと双子はこちらをちらちら見ながら七海の判断を待っていた。
「私は香南さんを見てるからレオンくんと遊んでて。ちゃんと迎えに行くから。ね?」
「わ、わかった」
「ななちゃん、にーちゃんと、きてね」
二人は頷くとレオンの傍に着いていった。
「香南さん、何か飲みますか?えっと、お茶は…ないけれどコーヒーや紅茶は入れることができますけれど…」
やっと立たせて部屋まで戻りソファに座らせ尋ねる。
しかし、首を横に振るだけだった。
こんなに沈んだ香南を見るのは初めてでどうしたらいいのかわからなかった。
しかも、香南が英語だけでなく他の言語も話せることは知らなかったのである。
どうして言ってくれなかったのだろうか。
「ななみ、」
「はい!」
七海が香南の隣で座ってどうしたらいいか悩んでいると香南から声をかけられた。
「抱きしめても、良いか?」
「はい!もちろんです!!」
どんとこい!という様に笑顔で答えると香南に抱きしめられた。
それはとても脆い何かを掴んでいるかのように弱い力だった。
七海が香南の頭を撫でると少しだけ空気が柔らかくなる。
「私、ここにいますよ?ちゃんと、香南さんの隣にいます。ずっと、ずっと」
七海は撫でながら呪文のように香南に呟く。
するとぎゅっと抱きしめる力が強くなった。
「俺の母親は、アルコール中毒で死んだんだ。」
撫でていた手が止まる。
「その根本的な原因は俺の父親だ。俺の父親は俺ができたと知るととんずらこいて帰って行った。どこに?自分の母国にだ。」
「…」
「俺の父親はドイツ人だ」
七海は眼を見開く。
それでも香南の話は止まらない。
「しかも資産家の息子で、日本にはたまたま遊びに来ていた。そして母親と知りあって、愛し合って。なのに子供ができた途端逃げるように莫大な金だけ渡して帰国した。」
「…」
「大好きだった人物が突然消えて、母親はパニックに陥っただろうな。けど俺を出産して、初めは俺が父親に似ていると嬉しそうに俺の頭を撫でてくれた。そしていつか行こうとドイツ語を学ばせた。俺は母親が喜ぶから頑張ってドイツ語を覚えた。」
「…」
「それが変わり始めたのは俺が小学生のころ。母親がだんだん俺を見なくなってきた。」
ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。
「目が、父親に似てるから、そんな目で見るなと。似てるのに同じじゃない。お前なんかいらない。お前なんか、うまなければよかった。俺のこの目はだんだん負の物と認識されたのか、目を見るたびに暴力をふるう様になった。その頃からアルコールに溺れてた。」
「かな、さ」
「けど、いつか見てくれると思ったんだ。俺の頭を撫でてくれたあの頃のように。だからドイツ語はずっと勉強してた。幼い時に覚えたものって意外に覚えてるもんなんだな。」
嘲笑う様に香南が呟く。
「そしてある日、キッチンから何かが割れる音がしたんだ。何かと思って行ったら母親が顔をうずめて何かブツブツと言っていた。心配だったんだ。近づいたら、」
香南の体が徐々に震えている。
「いいんです、香南さん、もう!」
「俺を、押し倒して、くちびるを重ねてきて」
「香南さん!」
「けど違う香南だって言うとこんどは、おれをころしにきた。あんたがいなければって。ばけものだって。」
「…」
「俺がいなければよかったのか?俺が、生まれなければよかったのか?とても恐ろしかった。そしていとも簡単に俺の大事なものを奪っていくお金持ちも。あの時母さんと一緒にいきていく道を選んでくれていたら…母さんは…母さん、も…お、れだって…」
七海が香南の唇に自分のそれを重ねる。
とても長い間に感じたそれは短くそっと唇を離す。
「私は、香南さんが好きです。かなんさんが、っだいすき、なんです。」
「なな、」
「美羽も、瑠唯も香南さんのことが大好きなんです。なつさんも、周さんも、燎さんも、皆、皆、香南さんを愛してる。」
七海も香南をぎゅっと抱きしめる。
そして少し離れると香南を真正面に見据える。
「だからっ、だから!生まれなかったらなんて、言わないでくださいっ!いなければなんてっ、私は、私はっ誰にも奪われない!!あなたの大事なものだから!!」
「っ」
香南の目が見開かれる。
七海は女神の様に微笑む。
「私は、香南さんを愛しているんです。」
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香南のエピソードに関してはclarity loveのpainにて記載されておりますので、気になる方はご覧ください。