fünf
寂しくないよ
君たちがいるだけで
いつまでも
心に集い合うから
gentle love
「なな、ちゃん…?」
「ど、したの?」
心配そうな顔をしながら双子たちが七海に寄ってくる。
しかしななみは涙を拭うことしかできなかった。
「ごめ、あれっ…なんでだろ?涙が、止まらない。」
ぎゅっと双子の服の袖を握る。決して離れないように。無意識にそんな思いが伝わるように。
「ななちゃ、ごめね、僕、僕たち…」
「おい、瑠唯!」
瑠唯が何か言おうとした時それを遮るかのように美羽が瑠唯を呼ぶと瑠唯は突然お腹を押さえた。
「ご、ごめっ」
そして口を押えたかと思うとリビングを飛び出した。
「る、瑠唯…?」
七海は驚いて美羽を見ると美羽は舌打ちをしていた。
そして聞こえてくるのは嗚咽音。
何が起こっているの?
私は何かを見落としていたの?
しばらくすると瑠唯はタオルで口を塞ぎながらリビングに戻ってきた。
美羽は瑠唯を支えるように瑠唯の傍により背中をさすっていた。
「わりい。突然でけえ声で呼んで。」
「うう、ん。だいじょ、ぶ。」
「瑠唯、どこか調子悪いの?!」
そっとつぶやくように尋ねると瑠唯は苦笑いをするだけだった。
そんな瑠唯を見た美羽はため息をつき観念したように七海の方を向いた。
「ななちゃん、俺たち家出する気なんだ。」
突然の発言に七海は目を見開いた。
「え、?」
「なんってゆーか、もう駄目なんだよ。ここだと。」
「ここ、だと?」
「瑠唯は優しすぎて駄目なんだ。俺も、瑠唯が瑠唯らしく生きれる場所で支えてやりたい。もっと自由に暮らせる場所があるんじゃねえかって考えてる。その為に全く別の場所へ行きたいと思ってるんだ。」
「なな、ちゃん。ごめ、ごめな、さい。僕が、僕が悪いんだ。もっと、強くない、と。」
美羽はつらそうにぎゅっと唇を噛み締めながら、瑠唯は泣きながら必死に七海に伝えてくる。
「…何か、あったの、ね?」
双子たちが突然こんなことを言う子じゃなことを七海は知っている。
完全に何かを見落としていたことを確信した。
美羽はゆっくり頷くとソファへ座るのを促し説明をした。
なぜ自分がテニスを始めたのか、そしてその結果瑠唯がどうなってしまったのか。
瑠唯は時折ギュッとお腹を押さえていたが必死に辛いのを我慢をしている様子だった。
全部聞き終えた後、七海は双子の方を向き二人の手を握った。
「ごめんなさい。あなたたちがそんなに考えていたなんて私、思いもよらなかった。」
「ななちゃん。」
「二人にはいつも迷惑ばかりかけてるわね。香南さんと結婚すると決めたのも私。あなたたちは何もしていないのに。」
「ちがっ、僕は!にーちゃんが、大好きで!」
「それでも、こうなってしまったのは私や香南さんのことがあるんでしょう?」
その一言で二人とも下を向いてしまう。
優しいのは二人とも同じ。それを決定づけて言いたくないだけなのだ。
「…ごめん、ほんとうに、ごめんなさい。」
「「ななちゃん…」」
しんとするリビング。双子たちは何も言えなかった。
「二人がそうしたいなら、してもいいわ。大丈夫。お父さんたちの残してくれたお金はちゃんと大事に残してあるから。…それに、私ももう駄目かもしれない。」
「駄目って…何が?」
七海が言葉を発しようとした時、突然吐き気が起こった。
しかし瑠唯の出来事を見た手前双子たちに不安を見せたくなかった。
必死に口元とお腹を押さえる七海。そんな七海を双子が見逃すわけがなかった。
「おい、ななちゃんもなにかあったんだろ?最近にーちゃんと一緒のところ見てねえし…それに…」
「顔色、すごくわ、悪い。どした、の?」
「…」
「俺、俺もういやだ!!!なんでこんな目に合うんだよ!俺たちが何をしたんだよ!!なんでこんなっ、家族が幸せに暮らすのを夢見のそんなにいけねえことなのかよ!!」
突然机をたたきながら美羽が叫ぶ。その瞳からは涙が浮かんでいた。
「み、美羽…」
「ななちゃん!言ってくれよ!!俺もういやなんだよ!俺ができることなら何でもするから!笑顔で居てくれよ!!」
「ぼ、僕も、頑張る、から。ななちゃん、一緒に、頑張ろう?家族、だよ?」
その言葉に七海ははっとする。
家族
その言葉は日向家の人たちにとってとても大きな言葉。
「家族…」
「そうだよ!俺たち家族じゃねえか!話してくれよ!」
双子たちがじっと七海を見てくる。その真剣なまなざしに七海はふっと笑う。
にっこりと笑いながら双子の方を向く。
「あのね、二人とも…私ね、もしかしたら香南さんと別れちゃうかもしれない。」
「「へ?!」」
突拍子もない言葉に今度は双子が驚く番だった。
それでも笑顔を変えず話す。
「私ね、香南さんとの間の子供ができたの。」
「「ええええええええええ?!」」
それからは七海の説明が始まった。
双子が中学に入り、香南との子供が欲しいと思っていたこと。
けれど香南が頑なに拒否をすること。
しかし、子供ができてしまったこと。
双子たちはただただ言葉を失うしかなかった。
「私はね、子供を殺したくない。だからね、生みたいと思ってる。例え香南さんにおろせと言われても離婚を突き付けられてもこの子を産みたい。それだけこの子が生まれることを願ってるの。」
「…まじかよ…」
「あか、ちゃん…」
二人の目線はお腹に集中した。さするとどこか暖かさが宿っているように思われた。
「だから二人とも生きたい道を選んで。私も、考えないといけない。もう迷惑かけられないから。」
「「…」」
再び静かになるリビング。誰もが言葉を発したいが何も話せなかった。
何分たったのかわからないほど沈黙が続いた頃、美羽がソファから立ち上がった。
「だめだ!やっぱ外出よう!家で悶々としてるからいつまでたっても暗いままなんだ!これじゃあ日向家じゃねえ!」
「美羽?」
「ななちゃん!俺たちと一緒に家出しようぜ!今からななちゃんのこと言っても多分間に合うし。」
「言っても…?」
そういえばと七海は美羽に問いただす。
「あなたたち、どこへ家出するつもりだったの…?」
「あーいってなかったな。俺たちドイツに行くつもりだったんだ。」
「へ?!ど、ドイツ?!」
開いた口がふさがらないとはこのことだった。
「レオンに頼んでしばらくドイツに滞在させてもらうことにしたんだ。飛行機の座席とか俺たちどうとったらいいかわかんねえし。」
「…本気の家出だったのね…」
「日本じゃ、どこ行っても、同じだって。だから…」
「もう、二人とも、本当にいざとなったらやることが大きいんだから。」
くすくすと七海が笑う。それにつられて双子たちも笑う。
そして七海にふとある思いが浮かび上がる。
やってみる価値は、あるかもしれない。
「いいわ。私も家出する。」
翌日昼ごろ香南は日向家へ帰ってきた。
「ただいま。」
しんとする家。こんな日向家を見るのは初めてだった。
「…七海?」
すたすたと廊下を渡りリビングへ入る。しかし誰もいなかった。
ふとホワイトボードが目に入る。
そこには大きな文字が並んでいた。
『香南さんへ 突然で申し訳ありませんが、家出をします。しばらくしたら戻ります。 七海』
『にーちゃんへ 俺たちも家出します。もしななちゃんのことを想うなら一生懸命ヒントを探してください! 美羽・瑠唯』
「家、出?」
香南の手からばさりと荷物が落ちる。
残されたのは香南ただ一人となったのだった。




