zwie
積もっていったものは
何だったのだろうか
雪のように
溶けてなくなるのだろうか
gentle love
「か、香南さん…」
「どうした?」
香南がご飯を食べ終え、二人はゆったりとテレビを見ていた。
香南の仕事が昼ぐらいからで久々に話せる時間ができたのだった。
「お仕事ご苦労様です。一段落ついたんですか?」
「ああ、やっと次のシングルが形になった。出来上がりを待つだけだな。」
「ふふっ楽しみですね。」
「…そうだな。次もいろいろと決まっているからまた忙しくなるが…」
少し悲しそうに香南は微笑んだ。
「美羽、Bチームに上がったんだな。すげえな。」
「はい!今度お祝いをしようって言っているのですが、美羽は忙しいからいいって言うんです。たまにはゆっくり休んでもいいと思うのですが、美羽はもっと上に上がりたいらしいです。」
「全国で一位になりたいと言ってたもんな。…俺もテニス上手い人にいろいろ聞いてリラックス方法とか体のほぐし方とか聞いてみる。」
「ありがとうございます!!美羽もきっと喜ぶと思います!」
「瑠唯もこの間の中間テスト学校内で一位取ったと聞いたし…双子のパワーは計り知れねえな。」
「そうですね。中学生になってからますます二人に圧巻されてます。私の支えもいらないみたいに…」
「なな、それは違うだろ。七海がいるから双子が頑張ってるんだろ。」
しかし、七海は堪えたように俯く。そして香南の蒼い瞳をじっと見つめた。
「香南さん、双子は中学生になりました。これからもあの二人の成長を見続けていきたいと思っています。けれど、私は新しく宝物が欲しい。新しい家族を迎えたいと思っているんです。香南さんとの、大切な宝物」
突然のことに香南は驚いた様子だった。
七海はそれでも香南の瞳に訴えかけた。
「それは、つまり俺との子供が欲しいということか?」
「はい。」
香南はじっと目を閉じた。何か考えている様子がありありと浮かんだ。
何か悪い事を言っている気がするほど長い時間の沈黙があった。
好きな人との子供が欲しいと思うこの気持ちは悪い事でもない、当たり前のことなのに。
目を開いた香南は背を預けてたソファから少し離れ姿勢を整える。
「…本気で言っているんだな?」
「はい。」
香南は右手で左腕をぎゅっと握るとため息をつくそして決意を持ったかのように言葉を発した。
「七海、わるい。俺は自分の子供が欲しくない。」
やっぱりかと思う気持ち、断言されショックな思いが七海の心を交差する。
震える唇をぎゅっと噛みしめ気持ちを整え話し始める。
「なぜ、とお聞きしてもいいですか?」
「養子だったら…迎えてもいいと思う。けれど、自分の血が半分流れている子供は絶対見たくない。こんな瞳の色をした日本人気持ち悪いだろ?」
「いいえ!!!香南さんの瞳はきれいです!!私は大好きです!それに私の瞳の色が遺伝する可能性だってあるんですよ?」
七海が必死に首を横に振るが香南はそれさえも遮った。
「それに…ヒステリックな女性と、いらないものは捨てて逃げる男性、こんなやつらの血が自分には流れてるんだ。今、こうして俺がこんな暖かい場所に入れるのは奇跡に近い。けど、これ以上この瞳は増やしたくない。この血は世の中に入らない。俺だけで、十分だ。俺、だけで…」
「香南、さん…」
「七海、ほんとにごめん。何度でも謝る。けれどこれは、俺がずっと思っていたことだ。今度施設を見に行ってもいい。俺のいた施設もまだあるはずだし…」
香南の話している最中に七海は立ち上がる。
こんなことは初めてで香南も顔をあげ七海の顔を見る。
七海の瞳は震えていた。煌めく水滴が今にも零れ落ちそうだった。
「ちが、違うんです!!!違うんです!」
「七海…」
「すみません。もう、この話は良いです。私、食器を洗ってきます。」
「いや、今日は俺が…」
「良いんです!香南さんは明日もあるんですし、ゆっくり休んでくださいね。」
痛々しい笑顔を見せ七海はキッチンへ向かった。
香南も辛そうに眼を瞑ると一足先にベッドへと向かった。
この瞳さえなければどんなに幸せだったろうか
この血さえ流れていなければどんなに自由になれただろうか
そう思わないわけがなかった。
香南はため息をつきそっとベッドに寝転がる。
双子が成長するにつれ、考えないわけがなかった。
自分と、七海の子供。
想像するのは必ず自分に似た青い瞳の子供。
冷徹な性格なのだ。それが怖くて、恐ろしくて、気持ち悪くて。
自分の母親のように暴力を振るう。お前はいらないと断言してしまう。
そう考えるだけで体が震えてしまった。
育てれる自身もなかった。
愛情を注げる自身もなかった。
「ごめん、ごめん七海…」
顔を腕で覆いそっと呟く
そうでもしないと自分の中の何かが溢れ出そうだった。
ごめん、七海
それでも俺は、俺は―
唇を噛み締めると何度も頷く。
これは正しい事なのだと、これが一番幸せな人生を歩めるものなのだと。
その日七海は一緒に暮らし始めて、初めてベッドに帰ってこなかった。
ベッドはいつもより広く、いつもより寒くて仕方がなかった。




