ほんの少しの違和感
たった一センチ
それが狂うだけで
全てが壊れてしまうような不安
gentle love
瑠唯と一緒に食事をするようになってしばらくたちある変化が訪れた。
一つ目は瑠唯である。
初めはとても楽しそうに笑っていた。
しかしどこかまたよそよそしくなった。
最初におかしいと思ったのはある日のご飯に誘いに来た時だった。
「ごめん、ぼ、ぼく…その、先生に、質問しに、いって、くるね。みんなで、たべ、てて。」
そう笑いながら言うと教科書と弁当を持ってどこかへ去ってしまった。
次の日は小テストがあるからと拒否られてしまった。
それから瑠唯は何かかんかに理由をつけて俺達とご飯を食べなくなった。
瑠唯のクラスメイトのテニス部のやつらに聞いても首を横に振るだけで特に何も知らないようだった。
夜に事情を聴こうとするが、テニス部の練習が忙しく宿題を何とかするのが精いっぱいで寝てしまい聞くことができていない。
ななちゃんに瑠唯のことを聞くのもおかしいと思い聞けずにいる。
休み時間や放課後部活に行く直前を狙って行こうとも思うがなかなか行くことができない。
それがもう一つの変化であった。
もう一つの変化、それはラブレターが俺に大量に来るようになったこと。
ようやく、自分が有名になることが現実味を帯びてきたのだ。
有名なテニス部の、なおかつ一年ルーキーの藤堂と一緒にいるからか、それとも俺の怒涛の追い上げを見ているのか知らないがラブレターが届くようになった。
小学生のころにも何通かあったが、それは本当に一桁レベルだった。しかし今は来る数が半端でない。
もともと告白はちゃんとその場へ行ってお断りするのをしなければならないという義務感が自分の中にあったため毎休み時間、放課後は告白を断りに各所へ行っている。
「美羽くう~ん、私ぃ、美羽くんがね、好きなのぉ」
「ごめんね。今の俺にはテニスしかないから。」
持ち前の作り笑顔で丁寧に答える。
今の俺には彼女なんて作る暇なんかない。
今守りたいものは家族で、それを守るために俺は今動いているから。
それに、やはり女は信用できない。
ななちゃんは家族だから論外だし、ことちゃんも小さいころからお世話になってるし、ちゃんと本当の気持ちを言ってくれるから何も心配はない。ってか家族みたいなものだし。
けれど今まであってきた女の子や女は計算高い人が多い。
今目の前にいる彼女だって、自分の魅力を最大限わかって目をなるべく大きく開け瞬きしたり、内またにしたり。
はたまたなぜ小鳥みたいな細々とした声で語尾を伸ばさなければならない。
正直、気持ち悪い。
こういうやつは必ずそのあとににーちゃんのことを聞かれていたのだ。
「カナンはうちにいるの?」
「カナンは何が好きなの?」
冗談じゃない。誰がそんなこと答えるか。
うちにいるのは日向香南であの歌手のカナンではないのだ。
こういった計算高い女はもう十分である。
変なこと聞かれる前に早々に立ち去ろうとか細く泣いてる相手に背を向け部活へ向かう。
俺だって暇じゃないんだ。
今日も死にそうになりながら部活を終えなければならないのだから。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
いつもより少しだけ早く帰れた俺はドアを開け疲れた声でただいまを言う。
するとななちゃんの声が返ってきた。
そしてリビングへ向かうとちょうど自分の部屋へ向かおうとしていた瑠唯と会った。
前会った時よりもどこか顔色が悪い気がした。
「あ、美羽、おかえりなさい。」
「た、だいま…って瑠唯ちょっと」
瑠唯は笑顔でおかえりを言うとそそくさに部屋へ戻ろうとしていた。
このチャンスを逃してはならないと瑠唯の手を引っ張る。
「なに?」
「瑠唯、ちょっと聞きてえことがあるんだけど…あとから部屋行くし」
そう、中学になって俺たちは一人部屋になった。
成長期になって身長も伸びるし、思春期がはじまるだろというにーちゃんの意見からだった。
隣の部屋だし別に今までと変わりはないと思っていたが、まさかこんなに部屋が変わるだけでなかなか会えなくなるとは思いもよらなかった。
瑠唯は少しだけ眉をひそめるとゆっくりとうなずいた。
俺は急いで風呂に入りご飯を食べるとすぐさま瑠唯の部屋へ向かった。
ノックをすると瑠唯は「どうぞ」と返事をしてくれた。
俺はためらわず入ると、さすが瑠唯と言ったきれいな部屋がそこにはあった。
「瑠唯いつもこんなきれいなのか?」
「まさか。テストもないし…今美羽が来るって、聞いたから急いで、片付け、た。」
「いやそれにしても綺麗。俺の部屋も綺麗にしてくれよ~」
「僕がやっても、いいの?」
「ったりめーだろ?別に隠すようなものなんかねえし。」
俺が笑顔でそう答えると瑠唯はどこか悲しそうに右手で左手を抑えながらそっかと呟いた。
「っと、明日もはええし、ちゃっちゃと聞くな。」
「う、うん…」
「瑠唯何で俺達…いや俺を避けるんだ?なんか俺したか?」
途端に左手を抑える力が強くなったように見えた。
「何も、…」
「だったらどうして一緒にご飯食べてくれねえんだ?」
「いつも、用事が、あって…」
瑠唯は嘘が苦手だ。だからこそ余計にわかる。
「嘘だろ?!俺には言えねえことなのか?」
瑠唯は目をぎゅっと握るとお腹を押さえ始めた。
「る、い…?」
「ごめ、美羽…僕が、いけないんだ。僕が、もっと、もっと…かっこよかっ、たら、美羽の、自慢できる、兄弟、だったら…」
「おい、大丈夫か?」
俺は瑠唯に寄り添う。しかし瑠唯は首を横に振ると立ち上がると俺を部屋から出した。
「僕は、だいじょ、ぶ…だから、僕に、関わらないで。」
ぱたんと閉じられたドア。
それはいつの間にか開いてしまった俺と彼の心の間隔でもあるようだった。




