力の覚悟
それは心地よく
それは熱く
それはとても穏やかで
gentle love
初めての中間テストを終えると校内のトーナメント戦が始まる。
夏の大会に向けメンバーを決める重要な試合だった。
瑠唯にも手伝ってもらいようやくルールを覚えた俺は、初めてトーナメントに出場することになった。
テニスコートの周りには一般の生徒や親族の人もいたりした。
俺は初めての試合、初めての観客に緊張していた。
「日向、緊張してんのか?」
俺を気に入ってくれているAチームのコーチが話しかけてくれた。
すると一年で一番強いといわれている藤堂もそばへやってくる。
俺のことを面白いと気に入ってくれ、今では一年で一番仲がいい。
「大丈夫か?こういう時は手に人を書いてだな…」
「それ、お前やって効いたことあんのかよ」
「いーや、ないな。っていうか緊張しねえし。」
にやりと笑った藤堂が俺の方をバンバン叩く。正直とてつもなく痛い。
「ま、初めてなんだし気楽にやれよ。んで早くAチームに上がってこいよな。お前と練習できんの楽しみにしてるんだから。」
「わーってるよ!」
頬を音が鳴るくらい強くたたくとラケットバッグからラケットを取り出す。
ネットの具合も上々、よし、いける。
「しっかしお前のラケットいつみてもいいもんだよなあ。今度貸してくれよ。」
「いやだよ。俺の宝物なんだから。」
グリップを強く握る。にーちゃんとななちゃんが一緒に選んでくれたとっておきのラケットだ。
今日のことは家族に言っていない。初めての試合なんて恥ずかしくて見てもらっても困る。
「日向、試合だ。」
「はい。」
リストバンドをつけるとコートへ向かう。
そこで知る初めての熱さ。こんな場所俺は知らない。いつも練習しているときとまるで違う空気に、俺は飲み込まれそうになった。
『ゲーム山本、4-1』
息が上がる。あんなひどい練習でこんなすぐに息が上がることなんてなかったのに、なんてひどいんだ。
相手の山本という人物は俺より一つ上の先輩で今Bチームだ。ペーペーの俺に勝って弾みをつけて大会メンバーになろうって魂胆だろう。
悔しい。全然いつもの力が出てこない。頭ではどこに動いて打てばいいということをわかっているのに体が全然動いてくれない。
休んでいるのに全然体が休んでくれない。畜生、俺はこんなところで躓いてる余裕なんてないのに。
ホイッスルが鳴り次のゲームの始まりを告げた。
サーブは俺で必死に打つものの調子の出ないプレイは全く通用しない。
にやにやと笑う先輩によけい腹が立つ。
『15-0』
くそっなんで、どうして
『30-0』
動けよ、動いてくれよこのポンコツ。
『アドバンテージ』
あと一歩のところで届かないボール。
『ゲーム山本、5-1』
「あー!くそっ!!!」
思わずラケットで足を殴りそうになる。どうなってんだよ!
何でこんなに動いてくれねえんだよ!
するとぼそっと山本先輩がつぶやいた。
「あれだけ練習してもらって、そんな高いラケット使ってんにこの程度かよ。」
顔が真っ赤になる。そして気づいたら先輩に近づいていた。
「なんだって?!もういっぺん言ってみろ!!」
「日向!」
コーチが制止するがどうも止まらない。俺だって一生懸命やってるんだよ。
なのになんなんだこの言いぐさは。
先輩の胸倉をつかみ殴るモーションに入ったとき、俺が一番聞きなれた声が聞こえてきた。
「美羽!何やってるの!!」
手はピタッと止まるとその方向を見る。
すると瑠唯が怒った表情でこちらを見ていた。
先輩の胸倉を話すと周りの人も一安心したのかほっとした様子で休憩に入る。
瑠唯はコーチに事情を話し、ベンチのほうへ向かってくる。
「瑠唯、お前どうしてここに…」
「同じ学校、だし…来てほしくないのかな、って思った、けど、僕、どうしても見たくて…」
「…もう見るな。こんな試合見てほしくねえ。」
「けど!」
「帰れ!」
こんなに瑠唯を怒鳴りつけたのは初めてかもしれない。瑠唯は一瞬驚いていたがそれでも眉をひそめ俺に立ち向かってきた。
「いやだっ!僕、美羽の頑張ってる姿、応援したい!!それにっ」
瑠唯はスコア表を指さす。
「まだ負けてないっ!美羽は、美羽は強いんだ!絶対勝てるっ!」
「瑠唯…」
「僕は、美羽がいつも頑張ってるの、知ってる。今の美羽は、美羽じゃない。本来の力が、出せたら美羽は絶対勝てる。」
「けど俺は…」
すると瑠唯は突然俺の足をパンパンと叩き、次は俺の腕をほぐす。
最後に俺の頬を引っ張った。
「いでででで」
「これで、美羽は、大丈夫。あとは…」
そっと小声で今の試合で相手の選手の気になった癖、ウィークポイントを話してくれた。
どうやら瑠唯は観察力も優れているようだ。
ホイッスルが鳴ると瑠唯はポンポンと肩を叩いてくれた。
「大丈夫。」
そうだな。大丈夫だな。
それ以降は本来の力を取り戻したのか1ポイントも取られることなく、俺は初勝利を収めた。
「やったな!すげえじゃん日向!」
「あー、まあ、な。あれ?」
辺りを見ると瑠唯はすでにいなくなっていた。
首をかしげていると藤堂やほかの一年生たちも祝福に訪れてくれていた。
「山本先輩プライドたけえし俺達にはいつも先輩ぶるし、一泡吹かせてくれて感謝だぜ!」
「にしても突然やってきたやつのおかげだな。あれからの怒涛の反撃がすごかった。」
「あいつ誰だ?何となく日向にそっくりな感じもしたけど…」
「あーあれ俺の双子の弟。」
「え」
一同全員が驚く。まあ性格全然違うし、体鍛えた今体格も大分違ってきたからあまりわかんねえかなとも思う。すると一人がボソッとつぶやいた。
「いや、お前が双子なのはその…知ってたけどあいつだったんだ。」
噂はちゃんと知っているのだろう。しかし瑠唯の存在はとてつもなく小さなものとなっているらしい。
「あんな大きな声出せるやつだったんだな。」
「俺、初めてあいつの声聞いたぜ。」
「なんだお前ら瑠唯のこと知ってんのか?」
すると話していた藤堂がちょっと気まずそうな顔をする。
「まあ、最初のころちょっと話題になっただろ?それで話しかけたことはあったんだけど一向に返事くれねえし何もしゃべらねえから誰も近づかなくなったんだよ。」
「班で同じになってちょっと挨拶がてらしゃべろうと思っても首降るぐらいしかしてくれねえし…」
今までは自分に一生懸命すぎて瑠唯の学校生活のことなんて頭に回らなかったが、そんなことになっているとは思いもよらなかった。
黙ってしまった俺を見てさすがに言い過ぎたと思ったのだろう。藤堂達は一生懸命俺に謝ってくるが俺に謝ってもしょうがない問題である。
「あいつかなりの人見知りなんだ。緊張して言葉が出ないのかもしれねえ…機会があったらまたしゃべってやってくれよ。」
俺はみんなにそういうと、ラケットバッグを背負いコーチのほうへ向かった。
今日の反省会と夜の練習のために。
それから翌日2回戦で先輩とあたり6-2で勝つ。
しかし次の試合、つまりは夏の大会のメンバーになれるかなれないかの瀬戸際の試合でAチームの先輩とあたり6-3で負けてしまい夏の大会出場への切符はなくなった。
けれどこの大会で試合というものの恐ろしさを知ったし、俺の現時点の実力がだいたいわかった。
Bチームへの昇格もあり藤堂には申し訳ないがもう少し俺のAチーム昇格は後回しとなったのだった。
gentle久しぶりの更新です。
一周年を記念してclairityのちょっと変わった?シリーズを書きましたのでもし見たいという方がいらっしゃれば私のトップページからfantasy loveという作品へ飛んでいただければと思います。




