埋まらない心
そして君は
傷跡を深めていく
激しい波に
飲み込まれながら
gentle love 埋まらない心
「ななちゃん、俺テニス部に入るから。」
「え?!」
「えっ…」
入学式の日の夜、兄ちゃんのいない夜ご飯の中俺は突然宣言した。
ななちゃんはもちろん、瑠唯もとても驚いていた。
「テニス部って…毎年全国行ってるんでしょう?」
「そうそう。俺一番になりたくて。」
「いち…ばん?」
瑠唯が不思議な顔をしているがそれにうなずく。
「うん。頭よくないし、運動しかできないから。いいか?」
部活をするのはただではない。もちろん親代わりのななちゃんの承諾が必要だった。
ななちゃんのほうを真剣に見つめているとななちゃんはふわりと微笑んだ。
「頑張るだけ、頑張りなさい。応援してるから。」
その言葉にほっとして今日先生に聞いたテニス部に入るのにかかる費用、スケジュールを伝えた。
ななちゃんはその練習量と費用に驚いていたけど最後には大きくうなずいてくれた。
翌日、すぐに俺は入部届を提出しテニス部に入ることとなった。
「一年B組日向美羽です!初心者ですが、強くなって全国で一位になりたいと思っています。よろしくおねがいします!」
例の噂を聞いた人たちがざわめいていたがそれをかき消すように大声で言った。
先輩たちや顧問の先生は驚いた様子だったが、この大勢いる進入部員の中でパンチの効いた挨拶には好印象を持ってくれたようだった。
その日は体力測定やミニゲームを行った。
全国のに行くほどの部下のため部員数もたくさんいる。しかも全員が同じようなレベルでないためチームを分けて練習メニューを変えていた。
俺はミニゲームもくそもなかったためA,B,Cあるチームの中のC、しかも特別メニューつきのCチームどん底から始まった。
そこではボールも打たせてもらえずひたすら体力づくりと素振りの練習だった。
現実は甘くない。いくら運動能力が長けているからといって初めてやることばかりで四苦八苦していた。
もちろん日常生活もがらりと変わった。
朝の練習が6時から始まるため一年の自分は5時半に集合、そのため朝起きるのは4時半。
家事をしてくれているななちゃんに迷惑はかけたくないからと朝ごはんは自分で作ると言ったけれども逆に怒られてしまいありがたく朝食とお弁当は作ってもらうことにした。
放課後は8時まで練習でそのあと片づけ、さらに特別メニューが待っていた。
そこでは俺のことを気に入ってくれたAチームの先生が指導してくれた。
大体終わって帰るのが9時半過ぎ。しかし瑠唯は先にご飯を食べずに俺の帰りを待ってくれていた。
何度も待たなくてもいいと話したが、自分に出来る応援はこれぐらいしかないと何を言っても聞かなかった。
後々瑠唯は俺のために特性栄養スポーツドリンクを開発し毎晩それを作ってくれるようになるのだが、それはまた後の話である。
「へへっ、今日も、ちゃんと全部終えれたぞ」
疲れた体にムチをうちながら岐路についていた。
正直テニスをなめていた部分もある。こんなに普通に運動する時の筋肉と違う筋肉を使うとは思いもよらなかった。
何よりここ数日でのハードな運動量に運動シューズが耐えれなくなり、壊れてしまった。
まだテニスシューズを手に入れる暇もなかったため臨時で使っていたのだがそれさえ壊れてしまってはどうすることもできなかった。
ため息をつきながら玄関の戸を開ける。
「おかえり。」
するとそこには兄ちゃんが立っていた。
「ああ、ただい、ま…」
入学式の日から兄ちゃんも忙しく、自分も忙しくなったため久々の再会だった。
「ご飯まだだろう?今出来たところだから食べよう。」
「えっにーちゃん作ってくれたの?!」
「ああ。ななよりも味が落ちるけれど、良かったら食べてくれ。」
「まじで?!やった!ありがとう!にーちゃん!」
兄ちゃんが荷物を持ってくれ喋りながらリビングへ向かうとななちゃんと瑠唯が準備をしてくれていた。
全員が座ると同時にいただきますを言って食べ始めた。
「美羽、瑠唯改めて中学入学おめでとう。」
突然言われ俺と瑠唯は照れる。
「ありがと!」
「ありがとう」
「美羽は、その…かなり強いテニス部に入ったんだってな。」
ななちゃんから情報を仕入れていたのだろう。俺に話しかけてきた。
「そう。全然しらねー所から始まったから大変だけど、やりがいはあるよ。」
「そうか」
兄ちゃんはまるで自分の事のように嬉しそうに笑っていた。
「瑠唯もやりたいことがあるんだったら言うんだぞ?」
「う、うん…ありがとう。」
瑠唯がテレながらお礼を言っていたが、兄ちゃんはまだ何かつけたい様子だった。
「にーちゃんどうしたの?」
「ああ、それでな、入学祝をあげたいと思っているんだが…」
「えっまじで?!」
「瑠唯はもうリクエストを聞いてて準備したんだ。けど美羽にはなかなか聞く時間がなくて…結局勝手に選んでしまったんだ。」
そしてリビングの端からあるものを取り出した。
「え、これラケット場バッグじゃん」
「ああ。いろいろ人伝いに他人が選んでも無駄にはならないものを聞いてそれにした。中にはテニスボールとかも入ってる。」
ラケットが何本も入りそうなラケットバッグを受け取る中を確認する。するとそこにはボールのほかにもこまごました必要品が入っていた。
「その、俺には全くわからない世界だから、何もアドバイスしてやれねえけど、応援しているからな。」
「にーちゃん…」
「しばらく大きな仕事もないし、ラケットやシューズ買いに行こう。お勧めの店を教えてもらったんだ。」
「良かったわね。美羽。」
「…うんっ…」
隣からは瑠唯がタオルを差し出してくれていた。
俺は隠すように必死にタオルで目をこする。
それを3人は笑いながらみていたが、ふてくされると困ったような顔をしてくる。
大好きな家族
大好きな温もり
守りたいんだ
俺の全てで
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