華は歌い続ける★
ある日、ギルドラとの会話にて――
番外編のようなオマケの話し。
ここを飛ばしても話しは通じます。
今となっては砂糖という甘味料は滅多にお目にかかれない。
それはいつものようにどんよりした曇りのある日の話し。
ギルドラが何やら楽しげに笑いながら建物に入ってくる、何事かと思い見ていると包みを取り出し差し出してきた。包みの上に四角く小さな白い物が乗っている。
「なんだこれは」
「角砂糖、さっき馴染みの商人から貰ったんだが……食べるだろ?」
砂糖だなんて随分久しぶりに見た。くれると言うなら遠慮なく貰おうと俺は手を伸ばし、それを指先でつまみ上げる。
甘い。
口に入れるとそれは直ぐに溶けていく、優しい甘さの余韻だけを残して。
久しぶりに摂取した糖分のおかげか少し体の疲れがとれたような気がする。実際糖分にそのような効果があるかは分からないが。
俺が甘さの余韻に浸っている間に、ギルドラが隣りに座っていた。最早それは当然の行為で、妙に近いだとかそういう事は既に慣れたせいか気にならなくなっていた。慣れとは実に恐ろしい。
「お前とゆっくり話した事なかったな」
「そうだな、その必要も無かったしな」
「相変わらず可愛げないな、お前は」
額を突っつかれた。
わざとではない、ただ本当に必要性を感じなかったからそう言ったまでだ。
もっとギルドラを知り、距離が縮まってしまったらいずれ来るであろう別れが辛くなる、俺はそれを恐れている。
「じゃあまず、将来何になりたいんだ?」
「……こんなご時世だからな、生きていられたら充分だ」
「うわ、可愛くない! 全然可愛くない」
俺に一体何を求めているのだろうか、ギルドラは可愛くないを連呼する。どうやらこの受け答えは、お気に召さなかったようである。
「次、好きな食べ物は?」
「忘れた」
「ああ、記憶喪失だっけか?」
「いや、覚えてる」
「どっちだ!?」と言うギルドラを横目に俺はだんまりを決め込む事にした。
思い出したら食べたくなるから、あまり考えたくはない。
「じゃあ、次は」
「まだあるのか……」
「生まれ変わったら何になりたい?」
考えたこともない事を問われ、俺は悩み黙り込んでしまう。だが不意に記憶の端もふもふとした生き物がちらついた。欠伸をしている平和そうな生き物。
――ああ、あれだ。
「犬」
「は?」
「犬になりたい」
沈黙、暫く建物が静まり返ったかと思うとギルドラが勢い良く笑い出した。よく笑う男だ。
初めてギルドラを見た日は、顔の左半分が髪で覆われ異様な雰囲気を出し、残された右目の鋭い眼差しに射抜かれ、俺は身を強ばらせたが、案外ギルドラはよく笑うし表情も豊かだ。
「ちなみに理由はあるのか?」
「俺が見た犬は、朝も昼も関係なく寝ていた」
「……だから?」
「俺も一日中眠っていたい」
基本、俺はあんまり活発な方ではない。体を動かす事自体元々好きな方ではなかったが、運動が出来ないというわけではない。
俺の言葉を聞くと、ギルドラは頭を抱える。
そう言えば、犬なんてもう随分見ていないな。
「子供らしさの欠片もない奴だな」
「悪かったな子供らしくなくて」
つっけんどんに言葉を返すと、ギルドラは少し考えた後とんでもない事を言い出す。
「じゃあ今から犬になりきれよ、犬体験って事で」
いくら俺が生まれ変わったら犬になりたいとはいえ、まだ俺は人間だ。
とは言え、少しなら付き合っても良いと何故か思えた。
「先ず何をしたらいい」
「ダメだろ、話すときは"わん"だ!」
「…………わん」
俺は渋々頷き、言われた通りに鳴いてみる。
雰囲気が出てきたような気がする。
「ほらほら、よしよし」
ギルドラに頭を撫で回され、擽られる。くすぐったいが心地良い。俺は調子に乗って犬のように相手の手に体をすりつける。
飼い主の愛を一心に受けられる犬はやはり贅沢で羨ましい生き物だ。
だが、やはり俺はまだ人間で居たい、というより人間だ。
「もういい」
「なんだ、もういいのか?」
俺は頷く、流石に今は人間なのだから体を撫で回され続けられると恥ずかしくなってくる。
ふと、ギルドラを見るとギルドラはクスクス笑っていた。俺はからかわれたのだと直ぐ理解した。
俺は、らしくもなくぷいっとそっぽを向き拗ねたような素振りをしてみた。
「おいおい、そんなにむくれるなよ。角砂糖もう一つやるからさ」
俺の様子を見てギルドラは角砂糖を差し出してくる、甘いものにつられたと思われるのは不服だが、俺はギルドラを許すことにして砂糖を受け取る。
甘いな。
だが、嫌いではない。
砂糖の甘さも、ギルドラに対して甘い自分も。
嫌いではない。
◇◇◇◇
ふと俺は過去に交わした言葉を思い出していた。いつの間にか窓からは、オレンジ色の光が差し込んでいた。 まだ、ギルドラは戻っては来ない。
街はもうすぐ、夜を迎える。
次回からまた本編に戻ります。
「甘味は一時の甘い夢を見せる」がテーマになってるのかな…多分。