表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使たちの騒々しい日々  作者: 三井ゆず
1.いとしの総帥と軍神の事情
9/24

1_08

 スークレヒトは突然、不安に襲われた。


 何につけ新しもの好きのエミディールのことだ。

 もしかしてヴェイアへの執着は、現在の女房役スークレヒトに飽きたことの表れではないのか――

 ありもしない心臓が、たちまち早鐘のように打ちはじめる。


 が、なんとか平静をたもち、努めておちついた声で言った。


の女王とその配下たちが、天界でどう評価されているか、ご存じないわけではないでしょう」

「うん。じつは、それも私とラゼオスが心配していることなのだ」

「? おっしゃる意味が、よくわかりませんが」


「地上では、《愛の国》と《霧の帝国》は、地理的にかなり近いよね」

「ええ」


 地上では、両国は、険しい無人の山脈をはさんだ隣同士に位置する。

 だが、これまでほとんど交流がなく、刃をまじえたこともない。


 山の高さもさることながら、《霧の帝国》は今もつねに直接国境を接する国々と戦うのに忙しい。

 いかなる意味でも、《愛の国》との外交にさく余力がない。


 とはいえ、二国とも急速に技術と交通手段が発達し、そろそろ接触がはじまる気配がある。


「もちろん、われわれとしては平和な交流を望んでいるのだけど」

「《霧の帝国》の女王が、それを望んでいないと?」

「そう。というより、戦をしかけさせて《愛の国》を滅ぼそうとしている可能性がある」

「だったらますます危険ではありませんか。なぜそんな国のものを出入りさせるのです」


「……イレインは違うんだ。彼は、われわれとの国とを、平和的に結びつけることができるかもしれない」


 それは突拍子もない考えに聞こえた。


「なぜそうなるのです」


 おまけに、またイレインて言ったし――。

 スークレヒトは憮然としている。


「怒るなよ。イレインはむしろ、《霧の帝国》が支配欲で硬直化して、天から堕ちるのを防いでいるかもしれないんだ」

「ですから、どうして」

「どうしてって言われても。……でも、私一人の判断じゃないよ。ラゼオスもそう言ってる」

「根拠になっていません」

「だからさ、おまえも一度、イレインと話してみてくれれば……」

「絶対に危険です! 二度とヴェイアを出入りさせるべきではありません」


 スークレヒトの勢いに、エミディールは、ややたじろぐ。


「落ちつけってば、スーク」


 それは無理な相談だ。スークレヒトの表情はますます険しい。

 エミディールはちょっと困ったように言った。


「で、でも……そうだ、ダシェルもそう言ったよ」

「誰が何と言おうと、私は認めません。地上人が珍しいのはわかりますが、浮かれすぎではありませんか」

「なんだ、その言い方」


 売り言葉に買い言葉で、エミディールも口調が荒くなる。

 が、スークレヒトはそれを無視して退出の支度を始めた。


「ちょっと。聞けよ、スーク」

「いいえ。考え直してください。失礼します」


 スークレヒトは大きな音を立ててドアを閉めた。

 その音が予想外に大きすぎ、自分でもびっくりする。

 その瞬間、言いすぎたかな、と後悔したが、今さら戻るのも体裁が悪い。


 彼はできるだけ急ぎ足で廊下を去った。

 他の宮廷人や警備員が、何事かと振り向くのも気にしない。

 いや気にしているのだが、それだけに早く立ち去ってしまいたい。

 自慢じゃないが、小心者なのだ。


 あとに、エミディールのとまどった声が小さく響く。


「おーい、スークってば。今日の報告はどうなってるんだー?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ