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天使たちの騒々しい日々  作者: 三井ゆず
1.いとしの総帥と軍神の事情
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「どうした? ぼんやりして」

「えっ?」


 突然エミディールに話しかけられて、スークレヒトは我に返る。

 テーブルには、いつのまにかエミディールがみずから淹れてくれた茶が置かれている。

 天界の茶は、清涼にして仄かに甘い。その香りが鼻腔をくすぐった。

 エミディールがにっこり笑う。


「おまえらしくないな。日課の報告に来たのだろ」

「は……」

「なんだ、悩みごとか?」

「そういうわけでは」


「ふーん? ……だが、なにか言いたいことはありそうだな」

「え」


 エミディールにしては、やけに鋭い。

 スークレヒトはぎくりとする。

 しかしこの際だ。ちょうどよい機会と思い、はっきり言うことにした。


「エミディール様は、近頃ずいぶん《霧の帝国》の戦士をお気に入りのようですね」


 つい口調がとげとげしくなる。

 にもかかわらず、エミディールは拍子抜けしたようにくすくす笑った。


「なんだ。最近、来るのが遅いと思っていたら、そういうことか」


 からかうような口調さえ、明るさに満ちて、すこしもかげりがない。

 その屈託のなさに、スークレヒトはかえって苛立ちをおぼえる。


「そういうこと、とは?」

「おまえ、私がイレインと話しているのが嫌で、遅く来るのか」

「……イレイン?」


 思わずむっとして聞き返すと、エミディールは悪びれるでもなく小首をかしげる。


「あれ、ちがった?」

「イレインというのは、イレイン・ヴェイアのことですか」

「その話をしてるんだろ? ほかに誰かいるのか」

「いません」

「……」

「……」

「じゃ、どうしてそんなことを訊くんだ」


 たしかにそうなのだが、スークレヒトが言いたいのはそんなことではない。

 いったい、いつからファースト・ネームで呼ぶほど親しくなったのだ。

 しかし、それは言えない。

 あわてて頭の中で次の言葉を探していると、エミディールは腰に手を当て説教口調でこう言った。


「ねえ、スーク。おまえ、そろそろ、その人見知りは直したほうがいいと思うよ」

「……は?」

「子どもみたいじゃないか。もう何万歳になるんだ」

「いえ。べつに人見知りしているわけでは」


 完全に誤解されているらしい。

 鋭いなどと気にするだけ無駄だった。

 スークレヒトが溜息をつくと、エミディールは疑わしそうに彼を睨む。


「だったら、どうして会いたくないんだ」


 だんだん話が面倒になってきた。

 こうなると、スークレヒトはなるだけ真相を追求されないよう、逃げの一手だ。


「……会いたくないわけではありませんよ。お邪魔にならないよう遅めに来ただけです」

「邪魔になどしないよ。待っていたのに」


「しかし、ずいぶんお話がはずんだのではありませんか。来る途中、ヴェイアとすれちがいました。お部屋から出てきたばかりのように見受けられましたが」


「だからさ。おまえが来ると思って、イレインのこともとどめておいたのだ。帰ってしまったが。惜しかったな」

「……もしかして、それであんな人間時代の戦の話なんかさせていたんですか」


 するとエミディールは、おや、という顔をする。

 その顔が、すぐにむっとした表情に変わった。


「なんで知ってるんだ。さては、扉の外で聞いてたな」

「!」


 しまった。

 スークレヒトはあわてて口をつぐんだが、もう遅い。


「だったら入ってきてくれればよかったのに。変な気をつかうな。おまえにも、イレインとは親しくなってほしいと思っているのだ」


 エミディールは子どものようにぷんと口をとがらす。

 ちょっと笑ってしまいつつ、スークレヒトは邪推した自分にちくりと胸が痛む。


「と、仰ってもですね。ふつう、他人ひとが話しているのに入っていかないでしょう」

「ほら、やっぱり人見知りだ」

「そうではなく。私はそんな不躾ではありませんよ」

「立ち聞きするほうが、よほど不躾だとおもうんだけど」

「……」


 気まずくなって、スークレヒトは、ごほんと一つ咳払いをする。


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