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天使たちの騒々しい日々  作者: 三井ゆず
2.暗躍する悪友
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 よく見ると、大広間は早くも、阿鼻叫喚のちまたと化そうとしていた。

 あっちでもこっちでも、言い争う声や、給仕に文句をつける声、あるいは日頃の教養が滲み出てしまうのか、ダンスとみまごうばかりの地団駄、オペラかと聞きまちがうほどの罵声などが飛びかっている。


 どうやら、ケーキからいまだ噴出し続けている悪意の霧に、みな影響されているらしい。

 めったに見られない光景ではあるが、むろん、高みの見物というわけにもいくまい。

 とくに今日は、会場の半数が国外からの来賓だ。

 放っておくと、外交問題に発展する可能性がある。


(まずは応急処置だ。配下の小天使を地上へと集めて――)


 と、スークレヒトは急に、背中がぐにゃりと曲がるような急激な脱力感をおぼえた。

 バランスを崩し、立っていられなくなる。


「おい、どうした」


 ダシェルがとっさに手を差し伸べ、支え起こそうとした瞬間。

 またしても、スークレヒトの背中で警報アラームが鳴り響く。

 同時に今度は数百枚のパネルが、ふたたび殺人的勢いで放射状に飛び出した。


「何すんだよ!」


 ダシェルは器用にそれを避けながら叫ぶ。


「スーク。仏の顔も三度って言葉を知ってるよな?」

「ごめん。でもまだ二度目だよ」

「へえ? 覚えとけ。今度やったら、ただじゃ済まさねーからな」

「毎回ちゃんと音が鳴るじゃないか。それより、会場の地上人に異変が起きてる。調べなきゃ」


 脱力感がおそったのは、異変を知らせる装置が作動したからだ。


 だが、スークレヒトがパネルの生体反応をチェックするまでもなかった。

 テレビに映る人々が、まるでさっきのスークレヒトと同じように、次々と倒れ伏していく。

 王子も王女も、王たちも、招待客も、皆。


「”眠り”だ」


 ダシェルがぽつんと言った。

 最後に全体を覆うように立ち込めているのは、深い”眠り”の霧である。

 だがそれは、心地よい眠りではない。苦しい悪夢をともなう眠りだ。


 スークレヒトは飛び出しているモニターの値を参照した。

 たしかに皆一様に、体内レベルが睡眠時の状態に切り替わっていく。


 だが、とりあえず、今のところ命に別状はなさそうだ。

 それが確認できただけでも、スークレヒトはいささかほっとした。


 しかしまだ安心するわけにはいかない。


 スークレヒトは急ぎ、地上を巡回中の部下たちに力を送る。

 一刻も早く地上人を覚醒させるよう、小天使たちに働きかけるのだ。


 スークレヒトが念をおくるのに集中し始めたとき、


「スーク!」


 開いた窓から、いきなり女天使がとびこみ、スークレヒトの襟元をひっつかんだ。


「ジェ、ジェディス!?」


 それは、結婚の天使ジェディスだった。


「おいコラ、人ん家だぞ、どっから入ってんだよ!」


 ダシェルが、この際とんちんかんな文句をつけると、ジェディスも負けじと言い放つ。


「うるさいわね、この役立たず! 何を見張ってたのよ!」

「んだとぉ」

「ちょっと。ケンカは……」


 スークレヒトが襟をつかまれたまま仲裁に入ると、ジェディスはダシェルに向かって舌を出す。


「そうだ。あんたを相手にしてる暇ないんだわ。とにかく来るのよ、スーク! 一大事なの!」


 言うなり、ジェディスはそのまま空に舞い上がる。

 スークレヒトは子猫よろしく首根っこをつかまれたまま、彼女にさらわれ地上へと向かった。


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