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天使たちの騒々しい日々  作者: 三井ゆず
2.暗躍する悪友
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 テレビには、今まさに行われている王子の結婚披露宴が映し出されている。

 豪華絢爛な大広間で、贅を尽くした装いに身を包んだ老若男女が、ダンスと食事と会話に華を咲かせていた。


 と、ふと音楽が止み、人々のダンスの足が止まる。


 直後、楽隊はひときわ明るく高らかに、マーチの冒頭を響かせた。

 大広間中央の入口が開き、招待客が興奮してさざめく。

 拍手喝采の中、運び入れられてきたのは、巨大なウェディング・ケーキだ。


 ケーキが正面のふたりの前に到着すると、新郎新婦に儀式用のナイフが手渡される。


 花婿は《愛の国》の末っ子、第四王子のアンセル。

 二十歳になったばかりの見目麗しい青年は、文武両道、絵に描いたような明るい素直な性格で、家臣や諸侯からの信望もあつく、将来を期待されている。

 さらに人懐こい笑顔と気さくな態度は、国民にも人気が高い。


 花嫁は隣国の王女で十七歳。名はシェリーゼ姫。

 まだどことなく幼さを残してはいるが、しとやかにアンセルに付き随う可憐さは、《愛の国》の人々の好感を誘う。


 親同士がきめた結婚ではあるものの、ふたりは幼いころから相思相愛の仲だ。

 これは彼らにとっても両国にとっても、待ちに待った幸せな結婚である。


 ふたりはナイフをともに握り、はにかんで微笑み、見つめあう。

 そして息を合わせるように、そっとケーキにナイフを入れた――。


「なんだ、あれ!」


 ダシェルとスークレヒトは同時に叫んだ。


「”愛”じゃないぞ!」


 ウェディング・ケーキにはふつう、”愛”や”希望”、”幸せ”が、これでもかとばかり詰め込まれている。

 「結婚配達人」と呼ばれるジェディスの部下が、祝福のしるしとして授けるものだ。

 地上人の目には見えないが、ケーキを切ると、それらが虹色や金色、ピンク色の霧のように、ふわふわと会場全体を包み込む、はずだった。


 だが、いま出てきているものは、それとはまったく違っている。


「これ、”疑惑”? ”不安”、”不審”……”羨望”」

「こっちは”怒り”……”嫉妬”……”欺瞞”……」


 ほかにも、次々にあらゆる悪意と悪徳がもくもくと噴出し、みるみるうちに会場を覆っていく。

 スークレヒトとダシェルはおもわず顔を見合わせた。


「うわあ。姐さん、入れ間違えたかな」

「そんなわけないだろう!」


 いつにもまして気にかけていた、末っ子王子の結婚式だ。

 ジェディスがこんな当たり前のことを間違うわけがない。

 誰かの陰謀に決まっていた。それも、天界人の。


 スークレヒトが真面目に応じると、ダシェルはへらへら笑う。


「冗談だよ、冗談」


「くだらん冗談はやめてもらおう!」


「い?」


 ダシェルは目をぱちくりしてスークレヒトを見た。

 反射的に、スークレヒトはぶんぶん頭を振って否定する。

 実際、叫んだのは彼ではなかった。


 地上人の招待客の一人が言い放った声が、テレビを通じて聞こえたのだ。

 その男は、さっきまで穏やかに談笑していた相手と、いきなり喧嘩を始めたのである。


(そうか――こんなふうに怒れば、ダシェルでもびっくりするんだな)


 スークレヒトは感心してうなずいた。

 ただ、彼自身があれほど思い切りよく怒鳴るには、いささか心構えが必要だ。

 スークレヒトは、ひそかにスーハー深呼吸をして、大声を出すシミュレーションなどしてみる。


「なあ。何に納得してんのか知らねーけど、あれ、どうすんだ?」


 ダシェルは呆れ顔で、テレビの画面をコンコンと叩いて示す。


「へ?」


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