表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使たちの騒々しい日々  作者: 三井ゆず
2.暗躍する悪友
12/24

2_03



「でもさ、あれからエミイは変わったんだよ。本気で反省したんだ」

「それはわかってる」


 その後、エミディールは大あわてで政務に復帰した。

 他の天使たちも全力で地上にはたらきかけた。


 どうにか戦争は終わったが、他国もふくめ、地上はかなり荒廃していた。

 これが、《愛の国》最後の戦争である。


 当時は当然、天上界でかなりの批判を受けた。


 だがたしかに、それ以来、エミディールは変わったのだ。

 総帥としての自覚が強く感じられた。

 政務に熱心になったのはもちろん、いそがしい合間をぬって、ときには他次元まで出かけ、あらゆる分野の有識者や実務家たちから、さまざまのことを学んだ。


 成果はほどなく出て、彼女の言うこともやることも、みるみる変わってきた。

 それにつれ、心が離れかけていた配下の天使たちも、ふたたび徐々に彼女を慕い、支えるようになった。


 おかげで人間界も見事に復興を果たし、ついには《栄えある愛の国》と呼ばれ、賞賛を浴びるまでになったのである。


 エミディールの失敗も、いまでは徐々に歴史から抹消されつつある。

 彼女の神性はいやますばかりだ。


 エミディール自身がそうするのではない。

 彼女を祀り上げることによって得をする人間、はては天使もたくさんいる。

 天上界といえど、歴史はかくも操作されるものだ。


 スークレヒトは溜息をついた。


「それはわかってるけど。でも反省したくらいで、人はそう簡単に変われるものだろうか」

「彼は人じゃない。天使だ。しかも大天使」


 ダシェルはつねに揚げ足をとることを忘れない。

 スークレヒトはまじめに応えた。


「天使でもだよ。それから、できれば彼女って呼んでほしい」

「こだわるねえ」


 ダシェルはニヤニヤ笑う。


「しかし、スークよりエミイのほうが、よっぽど男気にあふれてると俺は思うんだが」

「大きなお世話だ」

「ていうか――何万年一緒にいるんだよ。ガツンと行け、ガツンと」

「うるさいな。おまえに関係ないだろう」

「関係はないけどさ」


 ダシェルは含み笑いのまま口をつぐむ。


 天使に性別はないが、天使同士の恋愛は珍しいことではないし、ご法度でもない。


 それでもスークレヒトがエミディールへの想いを、他の天使に明かすことはない。

 ましてエミディール本人に対しては、絶対気づかれないよう、彼なりに気をつかっていた。

 こんな打ち明け話ができる相手はダシェルくらいだ。

 「総帥」という彼女の立場を思いやれば当然のことだ。


 もっとも、打ち明けなくとも見ればおのずと誰にでもわかるというのは、また別の話だ。

 気づかないのは当のエミディールくらいのものである。


 訊かれもしないのに、スークレヒトは弁解がましく呟いた。


「私はべつに――何も特別なことを望んでいるわけじゃない。ただ今のまま、友人……いや、部下として、力になりたいと思ってるだけだ」

「ふーん」


 つまらなそうに言ったダシェルが、突然、ぽんと手を打つ。


「あ、そうか。わかっちゃった」

「なにが」

「要するにおまえは、昔みたいにずっとエミイを自分の手の中においておきたいんだ」

「何だ、それ。どういう意味だ」


「エミイが自分から離れていくのが嫌なんだろ。いつまでも自分に頼っててほしいから、そうやって無用の心配ばかりしてかまいたがる」

「ちがうよ。勝手にわかったようなことを言うな」


 怒ったスークレヒトに、ダシェルは笑って立ち上がった。


「ま、いいや。今日のところは、このお兄さんが負けておいてあげよう」

「何だ、それは」

「エミイとヴェイアを見張らせたいんだろ。請け負ってやるよ」

「あ」

「その代わり、胸に手を当てて、自分の気持ちをよーく考えてごらん」

「あのね」


 振り上げたスークレヒトの手を、ダシェルはするりとかわす。

 部屋を出際に片手を挙げ、冗談めかして言った。


「気持ちを殺すと、堕天におちるよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ