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「話を戻したいんだけどね、ダシェル」
ひとしきり友人に笑われてやった後、スークレヒトはこわばった顔でまじめくさって言った。
「エミディール様がおっしゃってたけど、ヴェイアが天の硬直化を防いでいるっていうのはどういう意味だ?」
「さあ。意味はわかんない」
「……あのねえ。君とラゼオス殿は、そう言ってヴェイアに会うよう、エミディール様にお勧めしたんだろう」
「会うように言ったのはラゼオスのおっさんで、俺じゃない」
「でも、君も賛成したんだろ? いいかげんなことをするなよ」
のらりくらりしたダシェルに、スークレヒトはまたイライラしてくる。
するとダシェルはおもむろに両手を挙げて、降参のポーズをとった。
「いいかげんに申し上げたわけではありませんよ。失礼だな」
「どういうことだ」
「調べた結果、少なくとも相関関係はあると見ている。理由はまだわからない。現在調査中だ」
「……ごめん」
たしかに、調査はダシェルの専門だ。エミディールが彼にそれを命じても、何の不思議もない。
スークレヒトが謝ると、ダシェルは肩をすくめて少し笑った。
「あんまり心配しなさんな。エミイはエミイなりに、何か考えがあるんだろ」
「……エミイと呼ぶなよ。エミディール様と呼べ」
「……へいへい。で、そのエミディール様がだ。いまさら、おまえに心配されるようなタマか?」
「それはそうなんだが」
エミディールの総帥としての手腕は、他次元の天上界からも賞賛を浴びるほどだ。長い間、彼女はうまく国を治めている。
スークレヒトが心配するようなことは、何もないのかもしれない。
「しかし……」
「しかし? 何だよ?」
「エミディール様は、ちょっと極端なところがおありだろう」
スークレヒトの懸念は、どうしてもそこにある。
その言葉に、ダシェルもはっとしたように顔を曇らせ、言葉を濁した。
「……そりゃ、昔はな」
その反応に、スークレヒトは勢いづく。
「昔だけじゃないよ。ついこの間も、毎食あんぱんとかいうのを食べてたじゃないか。毎日毎日」
するとダシェルは一転、呆れ顔だ。
「勝利の天使とあんぱんは同じレベルかい?」
「そういうわけじゃないが」
「……それくらいは食わせてやれ」
ダシェルは冷めた目をして静かに言う。
やはり、自分は細かすぎるのだろうか。スークレヒトは悩まないでもない。
いや。だが。しかし。
気を取り直して、毅然と反論した。
「だけど、あんぱんだって何が起こるかわかるもんか。何もなかったのは、たまたまだよ。あのときだって――」
ダシェルがはじめに何を思い出したのか、スークレヒトはよくわかっていた。
ずいぶん昔の話になるが、エミディールはかつて、これまた異次元の人間界の娯楽品、「おんらいん・げーむ」なるものに夢中になり、天界時間で三日ほど政務を忘れて没頭していたことがある。
だが彼女が戦争ゲームに夢中になっている間に、あろうことか、地上の《愛の国》は実際に近隣諸国との交戦状態に陥った。
それまで何の兆しもなかったにもかかわらずだ。
スークレヒトにとっても苦い経験である。