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「あなたの隣を歩きましょう?」  作者: イチイ アキラ


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 エピローグ。


 クロエがエリオットの婚約者に。

 それはクロエが吃驚するほどに。反対の声がまったくなかった。

 そう、まったく。

 一部「手回ししっかりしてやがる……」と察して触らぬ神に祟りなしと黙った聡い者たちはいたが。


 何より美少年が卒業式で跪いて、長年の秘めた想いを憧れの年上の女性に告げるというのは多くの皆さまの心を奪った。

 男性女性関わらず、年上に憧れめいた気持ちを抱いたことはあろう。それを思い出し何とも胸がキュン(・・・・・)となった方々多数。

 演劇にしたいと許可を求めてくる劇場も多く――そして劇もまた話題になった。

 婚約者に虐げられていたヒロインは、実はとても美しく――格好良く。酷い元婚約者をダンスで見返すことがまさに華やかで劇向きであったのが良かったのだろう。

 実話ベースだということも、それもまた後押しとなった。

 背が高かったことで娘役が出来なかった女優さんがとても輝いて。新たな人気を得ることもできたのは、また新しい演劇の始まりとなった。


 そしてこれは予想外であったが。

 テレンスの店を「彼があの婚約者のモデル」と見に来る観客がいて。

 彼はそこでプライドを――あのプライドを、捨てた。

 彼はいっそ客寄せとそこで自分を見世物とした。

 むしろそれは新たなプライドとなったのか。彼にも守るべき店や家族ができたのだから。それを守ることこそ本当に大切なこと。

 そして金を稼ぐことの大変さを。

 爵位を買うためにマイン家の先代たちがどれほど苦労したか、テレンスもメアリーもその頃には現実がみえていた。

 何より。別れ際に兄に言われた「小ささ」を、彼なりに考えることができたのだろう。

 彼の店の品物は、センスは本当に悪くなかった彼が選んで仕入れる品だから。やがて見世物がなくても売れるようになるだろう。



 ネージェン侯爵の次なる奥方が優秀な方が寄り子貴族たちにしてもありがたい。

 領地管理科目の首位だなんてすごいし、総合でも三位という。

 安心しかない。

 それに同じ派閥なだけの関係よりも――侯爵夫人になっていただけた方がダンスのお相手を、他の派閥貴族より優先していただける!

 そんな下心が夫人や娘たちから。

 だってほら、寄り親貴族は寄り子貴族のデビュタントを受け持ったりもするし。ダンスの相手がいないときは責任を持っていただけるし……と。

 その年からネージェン侯爵家は派閥貴族たちからの、そうした夜会の開催を期待されるようになり。

「結束力が高まるのは、良いことだし……」

 寄り子貴族たちからその際は是非にクロエ様にダンスのお相手をと、望まれることも。それはまた後のお話。


 クロエの気持ちはといえば。

 エリオットにずっと好かれていたことに吃驚した。しかもエリオットは一度はクロエのためを思って身を引いたほど。それほど想われていたなんて。

 クロエだって、女の子だ。

 どれだけ背が高かったとしても。

 あんなふうに告白されて、心ときめかないわけがなく。

 婚約を解消されて、やっぱり悲しかったし、学園在学中に蔑ろにされ続けた悲しみもある。最終学年の一年間はとくに酷かったし。

 それをエリオットが吹き飛ばすほどのことを――告白をしてくれた。

「クロエ姉様をあきらめなきゃいけないとずっと我慢していました。クロエ姉様がお家を継ぐために頑張っていることもわかってたし……でも、頑張っているお姿に、また惹かれました……」

 エリオットはずっとずっと、ある意味クロエ以上の我慢をしていた。

 恋心を封印するという。

 それに互いに跡取りという立場もある。


 クロエはグラフティー子爵家を。

 両親が残した家を継ぐために頑張ってきたから……と、なったのだが。


 王太子殿下(偉いひと)が、あっさりと。


「グラフティー子爵家、別に継いでから結婚しちゃえば? あ、結婚したあとに継いでも良いよ?」


 グラフティー子爵家はネージェン侯爵家の中にあるわけで。派閥でやっかいなことにも、ふらふらするわけでもなし。乗っ取りにもならないし。

 ならば別に良いんじゃない、と。

 これは本当に、グラフティー子爵家がネージェン侯爵家の寄り子だから許された特例でもある。

 何よりもグラフティー子爵家を守りたかったクロエの気持ちを。

 もちろんあれこれ、本当あれこれあるのだけれど、王太子の一言は強い。王家からの直々のお赦しだ。

 後にネージェン侯爵家の誰かに――それこそクロエの子に、分家として――きちんと管理できるなら良いよ、と。

 領地管理科目をしっかり修めて卒業したクロエなら大丈夫だ、とも。

 むしろ本当に、ネージェン侯爵家のような大きな領地持ちの奥方にきちんとした身分や爵位があるのも都合が良い。

 肝心のグラフティー子爵の領地の民たちも。彼らはむしろネージェン侯爵家からそこまで求められる領主であることの方もありがたかったのだが。

 残された一人娘様のクロエが頑張ってくれていたのもネージェン侯爵家から派遣された管理人たちからもよく聞いていたし。

 なにより。良く治めてくれていた亡き子爵たちの忘れ形見が幸せであってくれたらと、むしろそのことの方に喜んでくれた。

 ネージェン侯爵たちは領民に慕われていた友人のおかげだと思わず涙を。

 


 もともと卒業後、ニ年から三年くらいは爵位を受け取りと結婚の準備のはずだった。そこにクロエは侯爵夫人になる準備――勉強が加わった。

 しかしてエリオットはこれから学園に入学である。彼が卒業するまでクロエにはまた三年は時間ができたことも。

「んふふ、心配いらないわよぅクロエ」

 けれどクロエにはセリーヌから待ったがかかる。


「あなた、私と一緒にずっと侯爵夫人になる勉強もしていたんだから」


 弟の恋心をひっそりと察していたセリーヌだ。だから自分の勉強の際には何かとクロエにも机に並ばせていた。

 同じく察して教えていたクラリスも苦笑するしかない。

「お姉様、さすが!」

 喜んだエリオットだったが――彼もまだまだ。


「ふふふふ、義妹になったらならもう遠慮はいらないわよね! 公の場で弁えてなんて、もう必要なく! 義姉として一番にダンスをしてもらう権利はあるわよね!」


「エリオットくん、一番の敵は身内だったぞ……」

「そうみたいですね義兄上……」

 セリーヌの夫となる侯爵子息とエリオットは、そこで協定を結んだ。

 互いの婚約者とのダンスは譲れないと。

「……でも一番は、三年でクロエの自信(・・)を育てなきゃ」

 セリーヌとクラリスは、それも。

 テレンスによって逆方向に育ったそれ。背とは真逆に。勉強の出来とはまた違うところを。

 もう彼女に「自分なんて(・・・・・)」という思いを育てさせないようにしなければ。

 クロエはセリーヌのこれからは名実ともに「妹」であるし、エリオットには「姉」ではなく「妻」に――侯爵夫人に望まれるほどの存在なのだから。

「僕も頑張りますよ!」

 これから三年間。学業とともにクロエを口説くことを。何年も封印していたことを。

 エリオットはまだ知らない。

 健康を取り戻したクロエの従姉妹のシャーリーが同い年で同時期に学園に通うと。彼女はその為に帰国をしたのだ。

 クロエを慕う彼女もまた、ライバルとなることを。

 まだまだ、これから。



「姉さん女房は金のわらじを履いてでもてありますわいな」

 すっかり親しくなったスピカがそんな不思議なことを言って腕組みしてうなずいている。

 彼女にはこれからも派閥貴族たちから期待されまくっているクロエの衣装をデザインしていただきたいし――三年後には。

「背が高いお人にも似合うフリルありのデザインもありますとも! お任せください!」

 頼もしい妹弟子だ。



 エリオットの条件は。

 学園を総合三位以内で卒業すること、だけであった。


 すでにクロエのために女性パートすらこなす覚悟を決めた少年だ――いや、男に、他にどんな試練を与えられようか。

 ……いや。

「父様やお祖父様さまの血を引いているから……うん、これから成長期だし僕も背が高かくなれそうだから、そのあたりは心配していないのだけど……母様の方の遺伝が強かったら、ちょっとだけどうしようかなぁ……」

 あまり背に差があるとやはりクロエが何か言われるかもと懸念して。

「成長痛の痛みなんていくらでも我慢できるけど」

 ネージェン侯爵デリックは学園時代から亡きクロエの父のグラフティー子爵と並ぶくらい背が高かった。そのあたりも友情が深まるところもあったのだろうか。

 弟の悩みに同じ血を引く姉が首を傾げる。

「あら? お母様側の伯父様たちも背が高いわよ?」

 それにクロエ自身はエリオットの方が背が低くなっても気にしないと思うが。

「……うーん、そこじゃなくて」

 エリオットは言いにくいともごもごしていたが、姉に敵うわけがなく。

「……髪の方」

 ……あー。

 セリーヌは母方の眩しい(・・・)方々を思い浮かべる。確かにもごもごするわけだ。

 そればかりは頑張ってもどうにかなるかは、まさに()のみぞ知る。




 そして三年後。

 首席の入場は一番最後。

 そこで夜明けの空色をまとって入場したのはエリオットだった。彼は三位どころか堂々と一位を。これならばどこからも文句はあるまいと、本当に覚悟が決まっていることだ。

 エスコートされる背の高い婚約者は先頃グラフティー子爵家を継いだ女性――彼の色である灰色味ある銀のドレスを。

 その裾はフリルがたっぷりと美しく。 


「クロエ姉様――いえ、クロエ。これからも僕とダンスを踊ってくれますか?」

「はい」

「たまにはまた僕が女性パートを踊りましょうか?」

「ふふ……ありがとう、エリオット様」

「あ、ダンスだけじゃないんでした」


 あなたとダンスを。

 でも、それだけでなく。


 かつて言われて彼女が背を丸めたことを。


「これからも隣にいてください」


 日々も。いつでも。



「あなたの隣を歩きましょう?」

 


 こうして隣を歩くなと言われた少女は、隣を歩きませうと幸せになりました、とさ。


 始まりの台詞をお終いに覆したかったので頑張りましたです。

 奥方も爵位もっているというの、変則ですが無きにしもあらずらしいので。クロエ嬢やエリオットくんたちの戦いはまだまだこれからです。

 何より姉さん女房は金の草鞋を履いてでも、です。幸せにおなり。


 此度もまた短期集中連載、お付き合いありがとうございました!また次のお話まで、またしばし…。


 もしもまだお時間ありましたら

「こりゃあきまへんわ。現実みよ」

https://ncode.syosetu.com/n5871kw/

 スピカ登場。


「あなたのために頑張ったんじゃあないです」

https://ncode.syosetu.com/n4242lp/

 こちらもよしなに。

 こちらの登場人物のジェイラスくんは実はクロエたちと同級生、同じ卒業生でした。彼は友人たちに見放されなくて良かったね…。


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