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「あなたの隣を歩きましょう?」  作者: イチイ アキラ


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1/1

01


「隣を歩くなと言っているだろう!」

「は、はい……」

 クロエは肩を縮め、身をすくめた……その背が少しでも小さくなるように。

 それを見て、彼女の婚約者であるテレンスはまだ不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 クロエは彼に気が付かれないようにため息をついた。せっかくお呼ばれした夜会だが、この様子ではまた今日も「壁の花」となるのだろうなと。


 クロエは踊るのが昔から好きだったが、今では誰にも誘われない。

 婚約者のテレンスでさえ、婚約者の義務として開始に一度相手をしてくれたら良い方だ。

 今夜はどうだろうか。せっかくの機会だから一回くらいは踊りたい。


 彼はピートル子爵家の次男。

 同じネージェン侯爵家の寄り子貴族な関係でもあった。

 グラフティー子爵家の娘であるクロエの為に、その後見人であるネージェン侯爵家が整えてくれた婚約でもあった。

 同じ寄り子貴族同士。家格も同じ子爵位。

 歳も同じく。

 同じくで、すべて何ら問題はない。


 また同じ――クロエの背が、テレンスにも並んでしまうことを除けば。


 クロエ・グラフティー。

 彼女は学年、いや学園1、背が高い少女であった。



 テレンスがそこまで低いわけではないが、こうして夜会などになると。クロエが踵がある靴を履くとテレンスよりわずかに高くなってしまう。けれどもこうした場で踵のない靴を履くのは幼い子供くらいなものだ。子供だとしてもおませな子は背伸びして(・・・・・)数センチは高いものを履きたがるくらいだし。

 テレンスだけでない。クロエを誘う男性は踊り始めると同じ位置に目線があることに皆さま驚かれ……二度目はない。


 そんな背伸びも必要のないクロエは最終学年。

 もうすぐ卒業を控えている。


 卒業をしたらネージェン侯爵家に預かっていただいているグラフティー子爵を継ぐことになっていた。

 テレンスとの婚約はそのために整えてくださったもの。

 継ぐための確認などもたくさんあるから卒業してすぐに結婚とはいかないだろう。二年か三年は準備に必要となる。それは他の貴族の跡取りたちでもそうなろう。女性はウェディングドレスの準備もある。

 準備はまた、ネージェン侯爵にお世話になることになる。


 何故ネージェン侯爵がそこまで。


 それは、クロエの両親は事故で亡くなっていたからだ。

 クロエを一人残して。

 それは十二歳の冬だった。 

 とても寒い冬だった。

 路面の凍結のせいで馬車が何台かぶつかる大事故があり、それにクロエたちが乗ったグラフティー子爵家の馬車も巻き込まれた。

 クロエだけが無事だったのは両親が彼女を抱きしめ、全ての衝撃から守ったからだ。

 そのおかげでクロエもそれなりに酷くはあったが打ち身でだけ助かった。代わりに両親が徐々に冷たくなっていく感覚を――。


 その頃の記憶は少しおぼろげだった。ショックのあまりに脳が耐えられていられないのだろうと医師からは。

 駆け付けてくださった母の姉と、ネージェン侯爵夫妻がクロエの代わりに葬儀なども取り仕切ってくださった。


 そして一人残されたクロエのことも話し合われた。


 本来ならば伯母のところに身を寄せるのが筋だ。唯一の身内であったから。

 けれども伯母のところもその頃はクロエどころではなく。伯母は本当はクロエを引き取りたいと最後まで頑張ってくれたが、その事情によりクロエの方が断った。十二歳ともあればそれくらいの分別がついていたからだ。

 その代わりにネージェン侯爵家がクロエの後見人となった。

 もともと寄り親貴族としてグラフティー子爵位を王家からの許可のもとクロエの成人まで預かる話にもなったし、そこにクロエ自身を預かることになっても問題はない。そうしたことは過去に前例もいくつもあった。


 それに以前からネージェン侯爵家とは寄り親貴族ということだけでなく、こっそりと交流があったのだ。


 ネージェン侯爵と父が。

 そしてその妻同士も学園時代からの友人であったのだ。


 互いに爵位を継いでからは他の寄り子貴族たちに「贔屓している」と思われないように、それなり直に会う機会は減らしたが。季節の手紙は欠かさなかったし夜会の際や催し物のときには会えることを楽しみにしていた。

 それがこんなことになるならもっと……と、後悔もした。

 ならば、亡き友人の子を引き取るのは友としても――貴族としてもあるべきだ。

 寄り親貴族であるならばなおのこと。


 いつか子供たちも分別がつく頃には顔を合わせたい。子らが皆、十歳を越えたら――そう思っていたのに。まさかこのような形でクロエがネージェン侯爵家に引き取られることになろうとは。


 ネージェン侯爵家でクロエは夫妻の子らと分け隔てなく育てられた。

 クロエがそこに増長せずきちんと弁えていたからこそ、ネージェン侯爵家の子らと分け隔てなく育ててくださったのだろう。公の場ではそうはいかないが、食事や諸々、家の中では家族のように。

 夫妻には娘と息子が一人ずつ。

 クロエより一つ年上のセリーヌは妹ができたと喜んでくれたし、三つ年下のエリオットも幼いながらにクロエを労って歓迎してくれた。

 良い家庭教師も。

 まさか二人と同じ家庭教師の方をつけて頂けるだなんてとクロエの方が恐縮するほどに。


 そうして――あっという間に五年。


 学園入学前にテレンスという婚約者を紹介してくださり。彼もグラフティー子爵家をともに盛り立てていこうと――初めての顔合わせで言ってくれていたのだが。


 その五年ですくすくとクロエの背が伸びたことに。

 だんだんとテレンスは――物理的にも離れた。


 ――隣を歩くな、と。



 背が高いのが今回の主人公。

 そしていきなりすでに人生ハードモードです。大変。


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