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第2話「深淵の底と星の光」

 背中を突き刺すような岩の冷たさで、レオンはゆっくりと目を開けた。

 目が暗闇に慣れてくると、ぼんやりと周囲の景色が浮かび上がる。

 そこは、見上げるほど高い天井を持つ巨大な地下空間だった。

 青白い発光ゴケが岩肌に点在し、かすかな光を投げかけている。

 空気を吸い込むと、土の匂いと古い苔の匂いが混ざり合った淀んだ空気が肺を満たした。

 体を動かそうとすると、全身の骨が軋むような激痛が走り、思わず声が漏れる。


「ここは……迷宮の底か」


 掠れた声は、静かな空間に小さく吸い込まれて消えた。

 肩の傷はどす黒く固まっているが、手足を動かすことはできる。

 奇跡的に致命傷を免れたのは、落ちた場所が柔らかいキノコの群生地だったからかもしれない。

 レオンは震える腕で地面を押し、ゆっくりと上半身を起こした。

 その時、静かな空間に微かな音が響いた。

 シュウ、シュウという、風の漏れるような苦しげな呼吸音が聞こえてきた。

 音のする方へ目を凝らすと、空間の奥、発光ゴケの光がわずかに届く場所に、巨大な何かが倒れていた。

 足を引きずりながら近づいていくと、その正体が徐々に明らかになる。

 青白い鱗に覆われた、見上げるほど大きな竜だった。

 しかし、その美しい鱗は無数の傷でボロボロに引き裂かれ、深い切り傷からは銀色に光る血が流れ出ている。

 まぶたは苦痛に硬く閉じられ、呼吸をするたびに巨大な胸がゆっくりと上下していた。


『伝説の神獣……天星竜……』


 レオンは昔、古い書物で見た絵を思い出した。

 空の星を司ると言われる、はるか昔のおとぎ話に登場する存在だ。

 なぜそんな神聖な生き物が、こんな迷宮の底で死にかけているのかは見当もつかない。

 竜の体から流れ出る銀色の血は、周囲の土を淡く光らせている。

 その光景は悲惨でありながら、どこか神々しいほどの美しさを持っていた。

 レオンは自身の痛みも忘れ、竜の巨大な頭のそばに歩み寄った。

 竜の鼻息は熱く、湿った空気を震わせている。

 レオンは無意識のうちに、血まみれの竜の鱗にそっと手を伸ばした。

 ひんやりとした硬い感触が手のひらに伝わる。

 その瞬間、竜のまぶたがわずかに開き、透き通るような金色の瞳がレオンを捉えた。

 威圧感や恐怖は全くない。

 そこにあるのは、ただ静かな命の終わりを受け入れているかのような、深く澄んだ光だった。


『こんなに美しい生き物が、冷たい暗闇でたった1人で死んでいくなんて』


 レオンの胸の奥で、熱いものがこみ上げてきた。

 誰からも見捨てられ、暗闇に落ちた自分自身の姿と、目の前の傷ついた竜の姿が重なる。

 助けたいという強い願いが、レオンの心臓を激しく打ち鳴らした。

 その時、レオンの体の奥底から、今まで感じたことのない温かい波が湧き上がってきた。

 心臓の鼓動に合わせて、手のひらから淡い金色の光がこぼれ落ちる。

 光は水面を伝う波紋のように竜の鱗を覆い、ゆっくりと広がっていった。

 レオンの隠された真のスキル、魂の共鳴が覚醒した瞬間だった。

 テイマーとしての力は、魔物を服従させるためのものではない。

 魂と魂を繋ぎ、互いの痛みを分かち合い、命の波長を合わせるための力だ。

 光に包まれた竜の体から、苦しげな呼吸音が少しずつ和らいでいく。

 レオンは手のひらから伝わる竜の命の鼓動を感じながら、ただひたすらに祈るように光を送り続けた。

 洞窟の冷たい空気が、少しずつ温かなものへと変わっていく。

 青白い苔の光と、金色の共鳴の光が混ざり合い、真っ暗だった迷宮の底を優しく照らし出していた。

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