第8話 授業参観はドキドキ!?
その日、学校は朝からざわざわしていた。
「今日は授業参観です」
先生の言葉に、教室がざわっと揺れる。
「じゅぎょう……さんかん?」
礼が浩太に小声で聞く。
「親が見に来る日だよ」
「親」
礼の動きが止まった。
「……来るのか?」
「そりゃ来るだろ。うちも父ちゃん来るって」
礼はゆっくり振り向いた。
教室の後ろ。
監視役が腕を組んで立っている。
「……まさか」
「来る」
監視役が即答する。
「誰が!?」
その瞬間、教室の扉が静かに開いた。
コツ、コツ、コツ。
入ってきたのは――
黒いスーツを着た、やけに威厳のある男。
礼の父、死神である。
だが今は、完璧な“人間の父親”の姿。
「四宮 礼の父です」
低く、よく通る声。
教室の空気が一瞬で静まる。
「……来るなって言ったのに」
礼が小声でつぶやく。
「聞いていない」
父は当然のように答えた。
*
一方。
教室の反対側には、神谷浩太の父親も立っている。
静かな視線。
礼の父と、ほんの一瞬、目が合う。
――空気が冷える。
だが。
「今日はいい天気ですね」
礼の父がにこやかに言った。
「……ええ」
浩太の父も、穏やかに返す。
(なんだこの緊張感!?)
礼は机の下で頭を抱えた。
*
授業開始。
「では、音読をします」
礼の番。
立ち上がる。
「えー……」
文章を読む。
だが、途中で止まる。
「どうしましたか?」
「……“命の大切さ”とは」
教室が静かになる。
礼は、ちらりと父を見る。
父は、微動だにしない。
「……守るものがあるってこと、です」
ぽつり。
教室が少しざわめく。
浩太が、にやっと笑う。
*
そのころ。
後ろで保護者同士のひそひそ話。
「四宮さん、どちらのお仕事を?」
他の保護者が聞く。
礼の父は、ほんの一瞬考えた。
「……夜勤です」
「夜勤?」
「ええ。命に関わる仕事を」
ざわっ。
「お医者さんか何か?」
「……似たようなものです」
(似てない!!)
礼が心の中で叫ぶ。
*
さらに事件は起きる。
「次は親子でミニゲームです!」
「なに!?」
礼の顔が青ざめる。
父は静かに前に出る。
「勝負か」
「違うから!」
ボール運びリレー。
だが、父の動きが完璧すぎる。
速い。
無駄がない。
姿勢が良すぎる。
「なんであんなキレッキレなんだよ!」
浩太が爆笑。
だが次の瞬間。
浩太の父も本気になる。
目が、わずかに鋭くなる。
空気がぴりっとする。
(やめろ……!)
礼の額に汗。
だが。
父は、わざとボールを落とした。
「あ」
コロコロ。
周囲が笑う。
「惜しいですね」
「ええ」
浩太の父も、わずかに口元をゆるめた。
緊張が、ほどける。
*
帰り道。
「レイの父ちゃん、すげーな!」
浩太が笑う。
「……来なくてよかったのに」
礼はむくれる。
父は隣を歩く。
「悪くなかった」
「なにが」
「おまえの答えだ」
礼は顔を上げる。
「守るもの、か」
「それがあるなら、人間界も悪くない」
監視役が後ろでうなずく。
その少し後ろ。
浩太の父が、静かに二人の背中を見ていた。
(……あの男も、ただの父親か)
完全な確信には至らない。
だが、警戒は消えない。
*
夜。
「二度と来るな」
「また来る」
「来るな!」
洋館に響く声。
階段が、くすくす笑うように揺れた。
こうして、
ドキドキの授業参観は終わった。
死神の子供は今日も、
人間の中で、少しずつ生きている。




