第3話 はじめての学校
朝。
「……なんでオレ、こんな早く起きてんの?」
四宮 礼は、ランドセルを前に腕を組んでいた。
黒くて四角くて、やけに重たい。
「今日は学校だ」
後ろで、監視役が腕を組んで言う。
「がっこう……」
「人間の子供は、そこで学ぶ」
「死神なのに?」
「今は人間の子供だ」
礼は、むっとした。
「冥界には学校なんてなかったぞ」
「その結果が、今だ」
「ぐっ……」
礼は言い返せなかった。
*
「おーい! レイー!!」
外から元気な声が聞こえる。
神谷浩太だ。
「はやく行こうぜ! 遅刻するぞ!」
「遅刻ってなんだ?」
「先生に怒られるやつ!」
「それはイヤだな……」
礼は、ランドセルを背負った。
少し大きくて、ちょっとだけ不格好だ。
「似合ってる!」
浩太が笑う。
「……そうか?」
礼は、なんとなく照れた。
*
学校は、思っていたよりも騒がしかった。
「うわ、子供だらけ……」
「ここ、小学校だからな」
教室に入ると、たくさんの視線が集まる。
「転校生です。四宮 礼くんです」
先生の言葉に、ざわっと教室が揺れた。
「……四宮 礼だ」
礼は短く名乗る。
「よろしくー!」
「名前、かっこいい!」
「無口?」
礼は、どうしていいかわからず、
とりあえずうなずいた。
*
問題は、授業中に起きた。
「では、この問題がわかる人?」
先生が言った瞬間――
礼は、すっと手を挙げた。
「はい」
「じゃあ、四宮くん」
礼は立ち上がる。
「……冥界では」
「冥界!?」
クラスがどよめく。
「あっ」
礼は、はっと口を押さえた。
「えっと……夢の中の話だ!」
「夢?」
「そう、夢!」
監視役が、廊下の外で静かに額を押さえた。
*
次の授業。
「給食です!」
「きゅうしょく?」
配られた皿を見て、礼は固まった。
「……これ、食べ物?」
「失礼だな! カレーだぞ!」
一口食べて――
「!!!」
礼の目が見開かれる。
「……うまい」
「だろ?」
礼は、夢中で食べた。
あまりに夢中で、全部食べ終わってしまった。
「……オレの分も」
「それはダメ!」
*
昼休み。
校庭で、子供たちが走り回っている。
「レイ、鬼ごっこやろうぜ!」
「鬼?」
「捕まえるやつ!」
礼は、にやっと笑った。
「それなら得意だ」
――五秒後。
「速すぎ!!」
「待てって!!」
礼は止まった。
「あ……やりすぎた?」
子供たちは、一瞬黙ってから――
笑った。
「すげー!」
「もう一回やろう!」
礼は、少し驚いた。
(……怒られないんだ)
*
帰り道。
「学校、どうだった?」
浩太が聞く。
「……よくわからない」
「でも?」
「……悪くない」
礼は、小さく笑った。
そのとき。
道の向こうに、浩太の父親が立っていた。
何気ない視線。
――だが、礼は一瞬だけ、足を止めた。
「……」
胸の奥が、ひやりとする。
「どうした?」
「……なんでもない」
浩太の父親は、礼をじっと見てから、
静かに目をそらした。
(やはり……妙な子だ)
その夜。
「今日は、失敗が多かったな」
監視役が言う。
「……でも」
礼は、ランドセルを見つめた。
「また、行ってもいいか?」
「……ああ」
こうして――
死神の子供は、
はじめて“人間の世界で学ぶ”一日を終えたのだった。




