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4.アニ研の部長は未来予知ができる?まさか……そんなわけないよね

「玖、行くわよ!」


春風が心田を吹き抜けるような、凛とした声。 僕は校舎の廊下の突き当たりで、放課後の暇つぶしに買った最新号の『〇〇ジャンプ』を手にしていた。 耳元で突然響いた曉茵姉の優しくも断固とした声に、僕は呆気にとられ、顔を上げてその姿を捉えた。


曉茵姉は少し身体を斜めに向け、静かな瞳に笑みを浮かべて振り返る。その視線の先には、まるで僕一人しか存在しないかのようだ。


「ねえ、一緒に『アニメ研究会』に入らない?」


彼女はふわりと微笑んだ。 心臓がドクリと跳ねる。胸に大岩を乗せられたように息が詰まった。脳内は大混乱だ。 僕が『オタク』だってバレた!?


僕は必死に平静を装ったが、心の中は複雑だった。もし彼女がアニメを嫌っていたら? もしこれから僕を『キモチワルイ・オタク』として見るようになったら、どうしよう?


だが、彼女の瞳にある誠実さと期待は、午後の陽光のように眩しく、僕には拒絶することなどできなかった。 僕は唾を飲み込み、震える声で、それでも勇気を振り絞って答えた。


「は……はい。」


曉茵姉の笑顔が空気中に広がっていく。彼女は満足げに頷くと、まるで僕の返事を予期していたかのように、手を挙げて指差した。


「じゃあ、とりあえず三階の部室へ行きましょ」


僕は彼女の後ろをついて歩きながらも、心臓がバクバクしていた。


廊下の両側の壁には、色とりどりの部員募集ポスターが貼られている。 水彩絵の具で描かれた艶やかな花鳥風月が、美術部の静寂と躍動感を鮮やかに表現している。バスケ部の写真では、部員たちが激しく競り合い、飛び散る汗が星のように輝いている。弁論部のポスターには、哲学的な問いかけが並び、思索を誘う……。どれもが、この学園生活の広大さを物語っていた。


曉茵姉は歩きながら、僕に説明してくれた。


「来週は軽音部の新入部員選考があるわよ。音楽に興味があるなら、行ってみてもいいかもね」 「あ、うん……」


僕は上の空で頷いた。 曲がり角に差し掛かった時、一枚の異質な募集ポスターが目に飛び込んできた。


『君、世界を敵に回す覚悟はあるか? 僕と契約して、魔法少女になってよ!』


鮮やかな赤と深海のような青が交錯する背景に、手描きの魔法陣とキュートなマスコットキャラクター。まさに中二病全開の代物だ。 僕は不安に襲われた。――もし曉茵姉が本当はこういう『萌え文化』に全く興味がなくて、ただ僕に合わせてくれているだけだとしたら、気まずすぎるんじゃないか?


曉茵姉は躊躇いなく木製のドアを開けた。蝶番がキィと軽い音を立てる。 中から楽しげな笑い声が溢れ出し、とても温かい雰囲気だ。室内は明るく、二列に並んだ長机の上には、新刊のライトノベルや各種アニメ雑誌が所狭しと広げられていた。


「おや、誰かと思えば? 泣く子も黙る生徒会長サマの降臨だ!」


一人の茶目っ気たっぷりな女子生徒が早足で出迎えた。彼女こそがアニメ研究会の部長だ。小柄な体型で、カールした毛先が肩で跳ねていて、まるで小さな向日葵ひまわりのようだ。彼女は手を後ろで組み、興奮気味に僕と曉茵姉を迎えた。


「会長サマ、その後輩クンが噂の『運命の人』かい? さあさあ、早くみんなに紹介してよ!」


僕は少し硬直したまま、入り口で呆然としていた。心臓は早鐘を打ち、耳まで熱い。部員たちが一斉に振り返り、好奇の視線を投げてくる。


僕の躊躇いを見て取った曉茵姉は、そっと僕の腕を組み、低く優しい、しかし確固たる声で言った。


「玖、どうしたの? 具合でも悪いの?」


胸が締め付けられる。僕は慌てて気まずさを隠そうとしたが、声は周囲の喧騒にかき消されそうなほど小さかった。


「ち、違います……ただ……曉茵姉、本当はこういうの興味ないですよね? 僕に合わせてくれてるだけなんじゃ……」


彼女の瞳がわずかに揺れ、横顔でフッと笑った。


「確かにアニメとかゲームとか、よく知らないわ。でも、嫌いじゃない。私って堅苦しい人間だから、少しはリラックスできる趣味があってもいいでしょ?」


その言葉が終わらないうちに、アニ研の部長が目を輝かせて歩み寄り、手を差し出した。


「嵐曉茵会長、ようこそ!」


そして急に口調を変え、中二病全開モードに入った。


「会長、貴公には世界を敵に回す覚悟があるか? 愛する後輩のために、貴公はこの世界すべてを敵に回して戦えるか!?」


周囲がドッと沸き、一気に空気が熱くなる。 曉茵姉は少し考え込み、不意に真顔で言い放った。


「ええ。世界を滅ぼすことになっても、構わないわ」


その瞬間、空気が凍りついた。 曉茵姉、どうしてそんなに……あっさりその設定に乗っかるの!? 重い、重すぎる。その愛の重さは、僕には受け止めきれないよ……。


僕は深呼吸をして、引きつった笑みを浮かべた。


「い、いや、結構です。世界滅亡は流石にちょっと……」 「僕は洛玖です。もし皆さんが嫌でなければ、アニ研に入部させてください。これから……よろしくお願いします」


僕は隣の曉茵姉を一瞥し、視線を長机を囲む部員たちに向けた。


「こちらは、うちの学校の生徒会長、嵐……」


「紹介には及ばないよ。彼女を知らない奴なんていないさ――生徒会長、氷山の美女、オールラウンダー戦士、嵐曉茵!」


部長の視線が再び僕に戻る。その瞳には悪戯っぽい光が宿っていた。彼女は軽く瞬きをし、まるで何か面白いオモチャを見るような顔をした。


「へぇ? 面白いね。会長と君は……まだ『魂の伴侶』の契約は結んでないようだね? 玖ちゃんちゃん、君の星回りにはハーレムの相が出ているよ! 今後、君の恋人は山のように増えていく。それにひょっとすると、会長サマが君としたかったアレやコレ、他の誰かに先を越されちゃうかもよ~」


玖ちゃんちゃん? 僕は心の中で驚き、呟いた。なんでまた新しいあだ名が増えてるの? どうしてみんな僕に変なあだ名をつけたがるんだ?


部長の意味深な視線に射抜かれ、動けなくなる。彼女はニヤリと笑った。 そして視線を転じ、曉茵姉に向かって眉を動かしてみせる。


「茵茵ちゃん、頑張らないとね~。他の泥棒猫に持っていかれちゃうよ~」


茵茵ちゃん? そのあだ名、可愛いな。メモっとこう。


曉茵姉は長い沈黙の後、雪のように白い頬を染め、小声で言った。


「そ、そんなことないわよ! うちの玖は、チャラ男なんかじゃないもの!」


その声は少し震えていたが、強がりな響きがあった。 待って、何? うちの……玖???


部長は急に真面目な顔になり、しかし口調はどこか中二病じみた予言のようだった。


「さあてね。私には『未来予知』の能力があるんだ~。さっき運命の記述をちょいと覗き見したんだけどね。玖ちゃんちゃん、君は未来で、様々な世界線の人間と複雑に絡み合うことになる」


「おや? 待てよ、さっきは見逃してたけど、まさか……こんなことが……うん……面白い~」


「たとえ君が浮気者じゃなくても、多種多様な女の子たちが猛烈なアタックを仕掛けてきた時、理性を保てるかな? 茵茵ちゃん、貴公は二十四時間体制で彼に張り付いて、誘惑されないように守り抜けるかい?」


「無理だね。特にこの白黒つかない曖昧な関係のままじゃ、何の権利があって彼を束縛するんだい?」


部長の指先が机をトントンと叩く。 僕は無意識に小声で抗議した。周囲の騒がしさにかき消されそうになりながら。


「もうやめてくださいよ……いくらなんでも、言い過ぎじゃ……」


それを見た部長は、急にまたふざけた口調に戻った。


「おっ、嫁を守る気かい? ん……まあいいや、二人とも気楽にいきなよ。私の予知なんて百発百中ってわけじゃないし、さっきの話も全部デタラメの冗談ってことにしておいてよ~」


アニ研の部長が本気なのか冗談なのか、もう僕には判別不能だ。 いくらなんでも、彼女が本当に未来予知の超能力を持ってるわけないよね……? まさかこれが、伝説の中二病フィールドってやつ?

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