3.僕と暁茵姉の友情の始まり――それは『親友』としてのやつ!
「暁茵姉、おはよ~」 「あら、おはよう。玖」
彼女は不意に僕の手にあるコンビニのパンに目を留め、眉をひそめた。
「朝ごはんはそれだけ? そんなパサパサなパン一つじゃ栄養なんてないでしょ! 三食きっちりバランスよく食べなさい!」
そう言うや否や、彼女は僕の手をぐいと引き、「出来の悪い後輩を指導する先輩」のような笑顔を浮かべて、反対側の屋上へと歩き出した。
「嵐!? どこ行くのー?」
女子生徒の大声が飛んでくる。たぶん、暁茵姉の友達だろう。
早朝の日差しが校舎のガラス窓を透過して屋上に降り注ぎ、そよ風が心地よい涼しさを運んでくる。二人は並んで低い塀に腰を下ろした。
屋上は静かで、たまに数人の生徒が通りかかる程度だ。暁茵姉は自分の朝食――卵チーズサンドとパイナップルパン(菠蘿包)を取り出し、惜しげもなく僕に半分分けてくれた。
「半分あげる。私、小食だから食べきれないの」 「わぁ、暁茵姉ってば優しすぎでしょ!」 「世界一の親友で、学校一のクールビューティーが、自分の朝食を僕なんかに分けてくれるなんて……うわぁ、全校生徒の嫉妬の視線で殺されそうだよ!」
暁茵姉は呆れたように言う。
「殺されるって、大袈裟ね。私はただ、可愛い後輩を全力で口説き落とそうとしてる、しがない一学生に過ぎないわよ」 「あ、ツッコミは禁止! 私が『後輩(女の子)』だって言ったら、あんたは『後輩』なの!」
僕は視線を落とし、声のトーンを重くした。
「でも……僕、君をガッカリさせるのが怖いよ。だって君が好きなのは女の子で、僕は男の子だから……」 「僕のせいで、君の指向を無理やり変えさせるわけにはいかないし」
言葉を区切り、さらに声を潜める。
「それに、僕みたいな人間、恋愛なんて縁がないよ。香港に来た目標はただ一つ――しっかり勉強して、いい大学に入って、将来いい仕事に就くことだけ」
僕は顔を上げ、遠くの空を見つめた。浮かび上がりそうな涙を必死に堪える。
「僕みたいな人間って……キモチワルイでしょ? 自分でもわかってるんだ。僕みたいなのがカバンを捨てられたり、教科書を破られたり……そういうことされるの、当たり前なんだって……」 「ごめんなさい、暁茵姉にこんな暗い話を聞かせちゃって」
暁茵姉は沈黙していた。その目元は微かに赤くなっている。彼女は声を震わせ、静かに言った。
「あんた……今まで、ずっと辛かったのね?」
彼女の瞳の奥で涙が揺れている。
「ごめんね、私、何も知らなくて……。それなのに自分のやり方で、あんたに無理強いばかりして……」
僕は慌てて手を振った。
「だ、大丈夫だよ! 暁茵姉が謝ることじゃないって。これは全部、僕自身の問題だから」 「僕が言いたいのは、もし本当に僕みたいなのと付き合ったりしたら、君の評判に傷がつくんじゃって……」
彼女は突然顎を上げ、その瞳にひときわ強い光を宿した。
「余計な心配しないで。あんたはすごいわよ。少なくともコンピュータ技術に関しては、私よりずっと造詣が深い」 「私はいつだって教科書通りの知識しか使えないけど、あんたは教科書の外にある発想を持ってる」
彼女は僕に微笑みかけ、言葉に力を込めた。
「それにね、男の子が可愛くちゃダメなんて、誰が決めたの? あんたのことをキモチワルイとか言う連中こそ、本当の変態よ! 心がねじ曲がった変態!」
彼女は体を横に向け、遠くの空を眺めながら、感慨深げに言った。
「本当に教養のある人っていうのはね、自分と違う『すべて』を受け入れられる人のことよ」 「違う性別、違う考え方、違う生き方――それらすべてをね」
一呼吸置いて、彼女は僕の方を振り返り、優しく囁いた。
「私、以前は女の子しか好きじゃなかった。だって、男なんてみんな強引で、冷淡で、デリカシーがなくて、ただの蛮勇を誇るだけの生き物だって……勝手に思い込んでたから」
「でも、あんたが私のその考えを揺るがした」
彼女の声は柔らかく、それでいて確信に満ちていた。
「あんたは可愛くて、気配りができて、繊細で……。試合に勝っても、それを鼻にかけて偉そうにしたりしない」
僕はもう我慢できなかった。唇が震え、ついに涙が決壊する。
「暁茵姉ぇ……うわぁぁ……ッ」
僕は彼女の胸に飛び込んだ。肩の震えが止まらない。彼女は優しく僕を抱きしめる。 屋上には今、互いを救済し合う二人だけが残されていた。
この光景は、傷ついた二つの魂の交錯であり、真摯な感情と無限の包容力が芽吹いた瞬間だった。




