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2.生徒会長がぐいぐい迫ってくるんだけど、どうしよう

嵐暁茵の唇の端がフッと吊り上がり、軽蔑の色が混じる。その眼差しは氷の刃のように鋭く、どこか楽しむような響きで問い詰めてきた。


「私と付き合うのが、何か不満なの? 自分が勝者で私が敗者だからって、私のこと見下してるんじゃない?」


心臓が跳ね上がった。僕は必死に平静を装い、首を横に振って否定する。


「あ……違います……そ、そうじゃなくて……僕は男の子なんです。ごめんなさい、僕……」


彼女は乾いた笑いを漏らし、指先で自分の顎をトントンと叩いた。その声には明らかな嘲笑と怒りが滲んでいる。


「はぁ? いつまで私を愚弄するつもり? 男の子? 私の目の前にいる、この黒髪ロングで、可愛らしくて清楚な顔立ちの後輩こうはいちゃんが、男の子だって? そんな見え透いた嘘で私を騙せると思ってるなら、いい度胸ね!」


彼女の声のボリュームが上がり、疑念のすべてを僕にぶつけてくるようだった。教室の空気が一瞬で凍りつき、クラスメートたちの好奇心と緊張が入り混じった視線が突き刺さる。


心の中で無数の思考が渦巻く。正直、一番苦手なタイプだ。こういう強気で、目の前の真実さえ容易には信じない人……。 僕は唇を噛み、絞り出すような声で言った。


「だ、騙してなんか……ないです。僕、本当に男なんです……」


手のひらにじわりと汗が滲む。僕は震える手を伸ばし、ポケットから二つの証明書――身分証と学生証を取り出した。


彼女は鼻で笑い、手を伸ばしてそれを受け取る。蛍光灯の下でカードの光沢が微かに反射した。彼女はそれを目の高さまで掲げ、わざとクラス全員に見えるようにした。


そこには、氏名と写真の横に『性別:男』の文字がはっきりと刻まれている。


僕の声は微かに震えていたが、努めて冷静さを保った。


嵐暁茵の視線は、その『性別:男』という三文字に釘付けになり、半秒ほど凍りついた。だが次の瞬間、彼女は再び顎を上げ、驚きと不服が入り混じったような笑みを浮かべる。


「へぇ? 用意周到じゃない。私を騙すために、身分証と学生証まで『事前に入念に偽造』してきたわけ?」


彼女は揶揄するような目で僕を見やり、周囲の生徒たちを見渡した。


「みんな見た? これが彼の言う『真実』ですって」


クラス中が騒然となる。驚きの眼差し、ひそひそ話、そして多くの視線が僕と生徒会長の間の歪な攻防戦に注がれる。だが、それ以上に感じるのは羨望と嫉妬の眼差しだ。やっぱり、みんな彼女のことが好きなんだ……。


僕は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そしてゆっくりと目を開け、声を低く、しかし力強く繰り返した。


「騙してなんかいません。僕は……本当の男です。ただ……ずっとこういう生き方をしてきただけで、このことを隠すために誰かを騙そうなんて思ったことはありません!」


室内が不意に静まり返り、僕のわずかに震える呼吸音だけが残った。嵐暁茵は小首をかしげ、その瞳の奥に驚愕と疑惑が走り、やがて捉えどころのない感情へと変わっていった。


この瞬間、僕と彼女の間にあるのは単なる性別の矛盾ではない。誠実さ、アイデンティティ、そして二人の間にある見えない壁を巡る、深い対立だった。


「うん、決めた」


嵐暁茵は両手を腰に当て、さっきまでの対立などなかったかのように、きっぱりと言い放った。


「たとえあんたが本当に男の子だとしても、私、あんたと付き合うわ」


僕はその場で固まった。思考回路がショートし、彼女の言葉を消化しきれないうちに、追い打ちがかかる。


「私が彼女になって、あんたが彼氏になるだけの話でしょ? 何か問題ある?」


……問題だらけだよ!?


彼女の口調はおかしい。僕をからかっているようでありながら、妙に真剣だ。 口を開きかけたが、言葉にならない。彼女は一歩一歩距離を詰め、その瞳を爛々と輝かせている。


「私、あんたみたいに可愛い男の子なんて見たことないもの」


その声には興奮と得意げな響きさえ混じっていた。それはまるで、珍しい希少生物を捕獲した時の興奮だ。


「どう? 何か不満? 私と付き合うのは嫌?」


本能的に後ずさりしようとしたが、背後はすでに教壇の縁だった。彼女の影が山のように覆いかぶさり、逃げ場はない。


「私は生徒会長よ!」


彼女は顔を上げ、自身のプライドと自信を隠そうともせずに言った。


「この学校の無数の人間が憧れる妄想の対象なのよ。そんな私から告白されるなんて、光栄に思うべきじゃない?」


……そんなセリフ、本人の口から言うことか!?


教室を見渡すと、クラスメートたちの反応は僕以上に大袈裟だった。 ざわめきが広がり、視線が僕と嵐暁茵の間を行き交う。驚愕、羨望、興奮、そしてほんの少しの野次馬根性。


会長の圧倒的なオーラと視線にロックオンされ、息をするのも苦しい。さっき負けたのは彼女のはずなのに……どうして僕が劣勢に立たされているんだ!? この人、常識が通じない……。サイバー攻撃の攻防より、恋愛領域での侵略性のほうがよっぽど恐ろしい!


僕は声を絞り出した。教室のざわめきにかき消されそうなほど小さな声で。


「か、考えさせてください……まだ心の準備ができてないし、お互いのことよく知らないし……まずは……お友達から、どうですか?」


理性を総動員して、早鐘を打つ心臓をなだめる。


「それともう一つ……」


一呼吸置き、勇気を振り絞って彼女の真剣かつ挑発的な瞳を見つめ返す。


「聞きたいんです。生徒会長はどうして僕と付き合いたいんですか? 何か、そうしなきゃいけない理由でもあるんですか?」


嵐暁茵はふっと、ふざけたような軽薄さを消し去った。眼差しが一気に真面目で厳粛なものに変わる。彼女はじっと僕を見つめ、僕の表情の変化を一つも見逃さないかのように観察している。何も言わず、ただ静かに僕を見つめていた。


一瞬、全身が硬直したような感覚に陥る。今更ながら気づいた。彼女の目鼻立ちは、あまりにも精巧で立体的だ。僕と同じ175センチの身長なのに、目の前に立つと妙な圧迫感がある。ピンク色のロングヘアが光を受けて微かに輝き、信じられないほど長いまつ毛、少し上がった口角、そして洗練された冷ややかなオーラ。


違う……僕は何を考えてるんだ……。 ……それに胸だって、完璧な形とバランスで……。


違う違う! 一体何を考えてるんだ僕は!? 頭を振って、暴走しそうな思考を必死に追い払う。


その時、ついに彼女が口を開いた。


「わかったわ」


笑みを収め、その声には幾分かの優しさが混じっていた。


「あんたの提案、受け入れてあげる。――あんたの中では、私たちは『友達』。でも私の中では、『あんたを口説く権利を放棄しない』。これでどう?」


彼女はさらに一歩近づく。少し鼻にかかった彼女の吐息が聞こえる距離だ。


「私がどれだけ完璧な彼女か、思い知らせてあげるわ」


冗談でも、適当な言葉でもない。それは熟慮の末の宣言だった。心が震え、思わず半歩下がる。


「それから……告白した理由、だったわね」


彼女は口調を変え、再びあの自信満々な笑みを浮かべた。


「私は可愛い女の子が好きなの。正確に言えば、可愛いものすべてが好き」


彼女はそう言いながら小首をかしげ、まるで芸術品を鑑賞するように僕を見つめる。


「それと、自分より強い人が好き」


言葉を区切り、誇り高く、少し強がりな調子で続ける。


「あんたは可愛い。その上、私より強い」


彼女は僕の目の前まで歩み寄り、指先で僕の額をトンと突いた。その瞳には、冗談なのか本気なのかわからない光が揺らめいている。


「CTFの試合で私に勝った後輩レズビアンなんて、あんたが初めてよ」 「あと、もう『生徒会長』って呼ばないで。私には名前があるわ。嵐暁茵よ。あんたは、洛玖……よね?」


「は、はい」


「じゃあ、あんたの彼女候補として、これからよろしくね、ジウ~」


え? 今、なんて呼んだ? 僕は瞬きをした。反応が追いつかない。


「会長……今、僕のこと……玖って?」


「ええ、そうよ。私の可愛い玖~」


彼女は当然とばかりに、甘ったるく笑う。 『会長』なんて他人行儀な呼び方はナシよ!


不意打ちの呼び捨てに心臓を殴打され、ショートしたかのように頭が真っ白になる。 唇を噛み締め、小声で言った。


「そ、それじゃあ僕も……呼び方、変えます……」


顔を上げ、引きつりそうな笑顔で言ってみる。


「よろしくお願いします、暁茵姉。」


「あんた――ま、いいわ。『暁茵姉』って呼び方も悪くないし」 「どうせ正式に付き合い始めたら、その呼び方も変えさせてあげるから。ね、玖~♡」


「今日は他の学科の入試テストもあるから、私、もう行くわね~」 「またね、私の愛しい玖~」


昼休み・理事長室


重厚な一枚板のデスクが激しく叩かれ、乾いた音が室内に響き渡る。


「新入生に負けただと? それが何を意味するか、わかっているのか!?」


鋭い目をした中年男が、歯軋りしそうな形相で、直立する嵐暁茵を睨みつけている。その声は怒りと威圧感に満ちていた。


「申し訳ありません、お父様……いえ、理事長……」 「あの新入生は確かに強かった……私の予測できない手をいくつも繰り出してきて……」 「定石通りの防衛では、防ぎきれませんでした……」


「コンピュータの技術など知らん。私が知っているのは一つだけだ」 「我々『嵐家』は、香港ライオンロックの頂点に立つ一族だということだ!」 「この家に『敗北』という言葉はない!」 「何事においても最高であれ! 完璧であれ!」


「その新入生がそれほど優秀だと言うなら、嵐家のために利用する方法を考えろ」 「本当に価値があるなら『取り込め』。単なる運だけの能無しなら、そんな小僧に時間を浪費したお前の責任、ただでは済まさんぞ!」


「……彼? 小僧?」 「お父様……洛玖は……女の子では?」


「ふん、何が女の子だ。ただの内気なオカマ野郎だ」 「資料は見た。深センから来た貧乏人だ。身元はシロ、背景も後ろ盾もない」 「少し色仕掛けでもすれば、あんな奴、イチコロだろう」 「そういう手合いを釣るなんぞ、造作もないことだ」


「できることなら、政略結婚でも何でもして、あいつを一族に取り込め」 「お前のような小娘が、女同士で遊んでいるなど言語道断だ」 「レズビアンごっこになんの生産性がある? 男と結婚せずして、どうやって嵐家の跡継ぎを残すつもりだ?」


「……理事長……」


その瞬間、彼女の心臓が針で刺されたように痛んだ。 洛玖はただの可愛くて強い後輩の女の子だと思っていたのに。彼は本当に……男の子だったのだ。 彼を騙したくない。家族の利益のために、彼を誘惑なんてしたくない。


彼女は奥歯を噛み締め、低い声で答えた。


「……承知いたしました。善処します」


そう言うと拳を固く握りしめ、逃げるように理事長室を出た。 その瞳から、先ほどの明るく強い光は消え、複雑な葛藤の色が浮かんでいた。


授業に向かおうとしていた僕は、曲がり角で見覚えのある姿とぶつかった。


「暁茵姉? どうしたんですか……」


彼女は答えない。ただ近づいてきて、僕の腕を強く掴んだ。 突然のことに反応できずにいると、次の瞬間――


彼女は猛然と、僕の唇を奪った。


何の前触れも、優しいムードもない。 彼女の唇は温かく、しかし焦燥に駆られ、言葉にできない感情を押し付けるような、決別のような口づけだった。


僕は呆気にとられ、反応することさえ忘れていた。 十数秒後、彼女は僕の下唇を軽く噛み、それからゆっくりと離れた。


「あんた……本当に男なのね?」


僕は小声で答える。


「……うん」


だったら私……私は本当は『ゆり』で、女の子しか好きじゃなくて、しかも性格は最悪で、その上今……あんたに無理やりキスをした。こんな私と……まだ友達でいてくれる?


「……うん、いいよ」 「僕は……カッコいいと思う。自分の好きなものを貫いて、自分らしくいる暁茵姉のこと……すごく、尊敬する……」


彼女は何か言おうとして口を開いた。その瞬間、瞳から涙がこぼれ落ちた。 彼女が……泣いている。


僕は驚いて、慌てて彼女の腕を引き、校舎の屋上へと連れて行った。あそこなら静かだし、人目にもつかない。


風は少し冷たいが、天気は晴れていた。


「暁茵姉、一体何があったの?」 「それに……実はさっきの、僕のファーストキスなんだけど……」


僕はうつむき、顔が火が出るほど熱くなるのを感じた。 でも、ファーストキスのことより、彼女の涙のほうが気がかりだった。 あんなに強かった彼女が、どうして泣いているんだろう?


それとも……僕は他人のことを何もわかっていないだけ? 強く見える人ほど、実は心が脆いものなのかな……?


「もしある日、私が……あんたを騙して……」 「私の汚い私欲のために……あんたを『利用』したとしても……それでも私と友達でいてくれる?」


「うん、いるよ」


僕は静かに答えた。


「どうして? どうしてそんなに優しいの……」


「僕、自分が優しいなんて思わないけど……」 「暁茵姉は、この学校でできた僕の最初の友達だから」 「僕たちのこの関係を、大事にしたいんだ。本当に、大切にしたい」


「それに……僕、他人との付き合い方がよくわからなくて」 「さっき考えたんだ……女の子同士なら、キスやハグは普通の愛情表現なのかなって」 「暁茵姉はまだ僕が男だって実感がないのかもしれないし、だから君が悪いことをしたとは思ってないよ」


「それに……理論的に言えば、さっきのキスは、僕が君の得をしたことになるし……」 「もし本当に君が僕を利用したとしても、僕みたいに何の取り柄もない人間が……君の目に留まって、役に立てるなら……」 「それはそれで、光栄なことだと思う」


言い終わるや否や、彼女はまた顔を寄せてきた。 僕は驚いて身を引いたが、彼女は僕の頬に軽く口づけをしただけだった。


涙声で、彼女は言う。


「やっぱり……性別なんて関係ない」 「私は、あんたが好きなの」 「あんたが、あんただから」 「私、さっきよりもっと、あんたのことが好きになった」


「この『好き』って感情は、友情よね! そう、あんたは私が信頼できる親友だもの、そうでしょ?」


僕は急に慌てふためいた。


「だから、これからも友達でいます! 僕が男だとわかっても……それで興味をなくさないでくださいね。よろしくお願いします!」


「あはは、いいわよ。じゃあ私も頑張る」 「あんたを私に惚れさせてみせる。友達としての好きじゃなくて、恋人としての好きにね」 「あんたに、私のこと……『本当の彼女』だと思わせてみせるから!」

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