表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/19

1.入学試験中に告白されたんだけど、どうしよう

深セン坪山・駅前路東・九龍セントラル学院 入学試験リアルタイム実況


「現在、スクリーンに映し出されているのは、本校生徒会長――嵐暁茵ラン・シュウヤンさんの戦績です!」


女性教師は一呼吸置き、その目尻には称賛の笑みが浮かんでいた。


「現在、彼女はすでに10個の『フラッグ(Flag)』奪取に成功! 隠しスコアとボーナスポイントを合わせ、個人スコアは驚異の3320ポイントへと急上昇しました!」


会場にいる生徒たちは皆、息を呑んで見守っている。数字が増えるたびに走る衝撃を肌で感じているかのようだ。常に冷静な審査員席からも、感嘆の声が漏れ聞こえる。


嵐暁茵。その名前は今、誰の心にも重く響いていた――それは単なる成績の象徴ではなく、全選手の上に傲然とそびえ立つ、揺るぎない高峰のようだった。


「嵐暁茵さん、まさに破竹の勢い! 向かうところ敵なしです!」


女性教師の声には、隠しきれない興奮と称賛が混じる。


「試合開始からわずか5分――400秒足らずで、ファイアウォールとスイッチの全インバウンド・アウトバウンドルールの展開を完了させました。彼女の思考は、コマンドと完全に同期しています!」


スクリーンには、嵐暁茵の集中した横顔が映し出されている。眉を寄せ、眼光は鋭い。 直後、彼女は『狩人ハンター』と化した。ペネトレーションツールを操り、対戦相手のトラフィック・パケットに対して、狂ったようなスキャン、スニッフィング、そしてキャプチャを開始したのだ。


脆弱性は彼女の目には透明であるかのように映り、その攻撃の軌跡は稲妻のごとく降り注ぐ。対戦相手の防衛線は次々とこじ開けられ、見る者を戦慄させた。


講堂には一時、キーボードとマウスを叩く音、そして遠くのLEDスクリーンに内蔵されたファンの低い唸り声だけが響き渡る。世界中が呼吸を忘れ、彼女の指先の舞だけを見つめているようだった。


画面が切り替わり、嵐暁茵の端末画面が映し出される。女性教師の声が講堂に響く。少し緊張の色が混じっていた。


「おっと! 嵐暁茵さんのターゲットが、今年唯一深センから勝ち上がってきた新人、洛玖ルオ・ジュウくんにロックオンされました! 手慣れた様子でターミナルを開き、『nmap -sS』コマンドを入力! 洛玖くんの全ポートに対して高速スキャンを開始しました!」


スクリーン上で文字列が高速で更新されていく。緑色のスキャン進捗バーは鋭利な光の刃となって、隠された防衛線を次々と突き刺していく。


女性教師のトーンが再び上がる。


「さらに『Wireshark』に切り替え、洛玖くんのネットワークを流れる全パケットのディープ・インスペクション(深度監査)を行っています!」


会場の生徒たちは固唾を呑んで見つめる。WiresharkのGUI画面では、数千ものパケットが波のように押し寄せ、その一つひとつが詳細に分解・分類されていく。どんな微細な異常も逃れることはできない。


女性教師の声には、崇拝と緊張が入り混じっていた。


「洛玖くんは先ほど一気に1200ポイントを獲得しましたが、この状況……少々分が悪いかもしれません!」


男性教師も低い声で同意するように口を挟む。


「その通りですね。嵐暁茵さんが洛玖くんの防衛線を突破すれば、彼女の勝利は揺るぎないものになるでしょう」 「本校の生徒会長として、彼女の実力は侮れません。その集中力と決断力は、全校公認の『最強』ですから!」


彼の言葉が終わるや否や、会場からはどよめきが起こった。それは嵐の前の静けさでありながら、瞬発的な爆発力を孕んだ緊張感でもあった。


そして今、僕――洛玖は、重なる電波と無数のコマンドによる狙撃の真っ只中にいた。


手首が少し冷たい。心臓は胸の中で戦太鼓のように激しく打ち鳴らされている。僕はそっと目を閉じ、深く息を吸い込んだ。耳元で交錯するファンの音とキーボードの反響音――それが攻防戦における、最もリアルな旋律だ。


僕は完全に沈黙し、意識のすべてを仮想マシン(VM)内部のトラフィックへと集中させる。押し寄せるスキャンと監査の波に、全神経で対抗するために。


時間が凝固したかのような感覚。緊張と期待が体内で混ざり合い、狂おしいほどの炎となる。


5... 4... 3... 2... 1...


下唇を強く噛みしめる。マウスとキーボードの間の指先がわずかに震え、心音はドラムのように急かす。スクリーンのデータストリームは潮のように押し寄せているが、僕の準備はすでに整っている。


今だ!


喉の奥で低く唸る。長く潜伏していた豹が獲物に飛びかかるように、一瞬で夜の闇を引き裂く。


僕は迷うことなくWiresharkのキャプチャ画面へ切り替え、ターゲットソースに素早く『VirtualBox』の仮想NICを選択。スイッチを行き交うデータパケットの捕獲を開始する。


画面上で緑、青、白の三色のパケットタグが一斉に躍動する。まるで夜空を舞う銀色の流星のように、黒い背景の中で複雑な紋様を描き出す。


周囲の生徒たちが慎重にハードウェアファイアウォールを設置・設定するのとは対照的に、僕の戦略は極めて大胆だ。VM上でファイアウォールのルールを一切有効にせず、VirtualBoxのネットワークモードをあえて『ブリッジモード』に設定したのだ。これにより、仮想マシンはまるで実在する端末のように、教室のコアスイッチへと無防備に接続される。


そして、僕は『Whonix』を静かに起動した――匿名化のために生まれたシステムだ。わずか数秒、数行のコマンドの後、僕のVM上に一見完全なファイアウォール環境が形成される。『iptables』のルールは巧みに定義され、外からのトラフィックはすべてこの偽の「防壁」に入り、音もなく僕がプライベートネットワーク内に構築した『ハニーポット』システムへと誘導される。


表面上、僕にはスキャンやスニッフィングを防ぐ堅牢なファイアウォールがあるように見える。だが実際には、その壁はきらびやかな幻影に過ぎない。すべての攻撃トラフィックは、僕が詳細に分析し、反撃するための「蜜の壺」へと誘い込まれているのだ。


深く息を吸う。胸の中で血液が赤い激流となって脈打つのが聞こえる。画面の前で、パケットデータは魚の群れのように僕の罠へと泳ぎ込んでくる。Wiresharkのインターフェースには、新たなプロトコルの詳細とフィンガープリントの特徴が次々と表示される――その一つひとつが、相手をハッキングし、主導権を奪還するための鍵となるかもしれない。


今、僕はもう緊張した新入生ではない。この場の攻防のリズムを支配する指揮者コンダクターだ。心の奥底で冷静さと自信が点火され、闇夜に咲く花火のように輝き出す。作戦は開始された。勝負はこの数秒で決まる。


※ハニーポット(Honeypot):コンピュータ用語で、不正アクセスやハッカーの攻撃を検知・防御するための「罠」を指す。昆虫を誘き寄せる蜜の壺に原理が似ていることから名付けられた。


理論上、嵐暁茵のような校内トップクラスの使い手が、こんな罠に軽々しく引っかかるはずがない。彼女の攻撃は一矢一矢が千錘百錬の射手のように、迅速かつ正確で、隙がない。


観客席からは、彼女が嵐のように脆弱性を席巻する凄まじい勢いしか見えていないだろう。だが、その奔放な鋭さの裏に、慎重かつ緻密な計算があることに気づく者は少ない。 コマンドを実行するたび、彼女は脳内で反復検証を行っている。わずかなミスが相手に付け入る隙を与えることを恐れているのだ。


そのプレッシャーの中では、僕が仮想ネットワークの深淵に、無形で致命的な罠――ハニーポット・ファイアウォールを仕掛けているなど、誰も予想できないだろう。


彼女は慎重に進めていたが、この「防壁」に対する警戒を緩めた。目の前にあるのが本物の鉄壁だと信じ込み、すべての攻撃が僕の静かに盗聴する『罠のネットワーク』へ流されていることに、全く気づいていない。


ネットワーク層に隠密のハニーポットを仕掛けただけではない。僕は最も重要な『フラッグ(Flag)』の値にも細工を施した。 本来、プログラムにデフォルト設定されている文字列はこうだ。 flag{u9019u662fu6d1bu7396u7684u0046u006cu0061u0067u503cuff0cu6821u9a57u78bcu70bau0031u0033u0038}


この一見複雑なUnicodeコードは、僕が他者と対抗するための唯一の『勝利の切り札』。 僕は、会場の誰もが思いつかない操作を行った。このコードの末尾を書き換えたのだ。 flag{u9019u662fu6d1bu7396u7684u0046u006cu0061u0067u503cuff0cu6821u9a57u78bcu70bau0031u0033u0083}


こうすることで、たとえ彼女が僕の表面上の『ファイアウォール』を突破したとしても、手に入るのは一見正しく見えながら、大会システムでは識別されない「偽のフラッグ」となる。


キーボードで最後の保存コマンドを叩く。心の底には一抹の不安があった。この『トリック』は巧妙だが、もし彼女がわずかでも違和感に気づけば、すべての努力が自分に跳ね返ってくる諸刃の剣だ。


だが、このリスクこそが、この対決で僕に唯一の勝機をもたらす。時間はチクタクと進み、戦火はまだ止まない。けれど僕の胸には、すでに勝利の微かな光が灯っていた。


※CTF(Capture The Flag):ネットワーク攻防戦をシミュレートした競技。セキュリティ専門家やハッカーが合法的に技術を競い合う。Flag値とは各PCにある特定の文字列のことで、他者のPCに侵入してFlagを獲得し、運営委員会に提出することで得点となる。


「入ってきた!」


心臓が大きく跳ねた。目の前のWiresharkの画面が一瞬にして大量のパケット情報で埋め尽くされる。断片的なTCPハンドシェイク、TLSハンドシェイク、そしてHTTPリクエスト。その一行一行が星屑のように微かに明滅している。


息を凝らし、フィルタ機能を使ってターゲットを彼女のIPアドレスに絞り込む。データは点呼を受けたかのように次々と浮かび上がり、鮮明になっていく。画面右下のパケットカウンターが急上昇する。この瞬間、僕は彼女を本当に「視認」した。


すかさず相手のハード・ソフト両面のファイアウォールの特徴を分析する。やはり彼女も、わずかな痕跡を残していた。特定のポートの応答時間がわずかに遅い。パケットヘッダに見慣れないオプションが混じっている。


僕は数行のコマンドを打ち込み、慎重に『細工されたパケット(crafted packet)』を注入して彼女のフィルタリングルールをテストする。データがVM内を行き来するたび、僕の心も揺れ動く――これは忍耐と緻密さの勝負だ。油断すれば、計画はすべて水泡に帰す。


長い攻防の消耗戦の末、ついに彼女は小さな隙を見せた。無数の探査とパケット送信により、彼女のファイアウォールの状態が不安定になり始めたのだ。CPU使用率が突如急上昇し、ICMP応答にもわずかなパケットロスが生じている。直感が告げている――彼女は疲れている。速度が鈍っている、と。


予想通りだ。この瞬間まで粘れば、過信か疲労によって、彼女は必ず深層の罠を見落とす。


理論上、本物のハードウェアファイアウォールは専用の組み込みOSで動作しており、通常のペネトレーション手段で反撃するのは困難だ。だが、僕が仮想ネットワーク内に潜ませたこのハニーポット相手なら、話は別だ。


この『ファイアウォール』最大の脆弱性は、すべての攻撃トラフィックをあえて通過させ、誘導している点にある。本当のコアシステムは、とっくに僕のプライベートネットワークに置かれている――そここそが、僕が音もなくすべてを支配する真の舞台なのだ。


まずは彼女のPC上のソフトウェアファイアウォールに対抗策を講じて…… それから、こうして……


えっと、彼女のフラッグは sys ディレクトリにあるのか。なら、まず彼女のPCにある sudo の脆弱性を突いて root 権限を取得して、それから vim でフラッグファイルを確認して……。


視線を相手システムのファイル構造へと移し、すでに取得したシェル権限を通じて、素早く /sys ディレクトリを特定する。案の定、フラッグは水面に浮かぶ真珠のように、静かにそこに横たわっていた。


深呼吸。焦って root ユーザーで操作してはいけない。まずはターミナルで sudo の脆弱性を利用した権限昇格(Privilege Escalation)を行う――彼女のシステム内の古い sudo バージョンを特定し、即座に sudo -l で利用可能なパラメータを検出。入念に磨き上げた自動化スクリプトで root 権限を奪取する。


ついに、プロンプトが $ から # へと変わった。心の中で密かに笑う。 完璧だ!


続いて vim /sys/flag.md を実行。見慣れた文字列がついに画面中央に現れた。目が輝く。指は飛ぶようにコピー操作を行う。


僕のフラッグ値より少し短いな……まあいい、今は気にしている場合じゃない、急いで提出だ。


時間は差し迫っている。僕は迷わず大会の提出画面に切り替え、その『フラッグ』を貼り付けた。両手はわずかに震えていたが、ゆっくりと『Submit(提出)』キーを押した。


成功!


力が抜けたように息を吐き出す。胸は激しく上下し、汗が首筋を伝い落ちる。巨大な喜びと解放感が一瞬にして全身を満たした。まるで生死をかけた激戦を生き延びた戦士のようだ。


その瞬間、焦燥、緊張、圧力のすべてが愉悦の光の粒となって脳裏を駆け抜けた。重い頭を上げると、壇上の教師たちの驚愕の表情、生徒たちの震撼する視線、そして僕の『大逆転』の瞬間を捉えた無数のスクリーンショットが目に飛び込んできた。


今、僕はもう「カモ」と見なされていた新入生ではない。闇の中から歩み出た、真の勝者だ。


画面中央のリアルタイム・ランキングボードが激しく点滅した。頂点で輝いていた『嵐暁茵――3320ポイント』の行が、一瞬にして赤く塗りつぶされ、転落する。 『0ポイント』。 直後、その下の行に『洛玖――4520ポイント』が表示され、数字は奔流となってディスプレイ全体を覆い尽くした。


女性教師が叫ぶような声を上げた。信じられないといった震えが混じっている。


「信じられません! 戦局が完全に覆りました! 深センからの新入生、洛玖くんが、なんと生徒会長のフラッグ値を先に提出しました!!」


その叫びは、隅々の生徒の耳にまで届いた。 彼女の興奮と驚嘆は止まらない。


「隠しポイントとボーナスを含め、洛玖くんの総スコアは4520ポイントに到達! 対する嵐暁茵さんはスコアがゼロになっただけでなく、敗退です!」


会場の誰もが、この突然の逆転劇に打ちのめされていた。多くの生徒が口をあんぐりと開け、目の前の光景が信じられないといった様子だ。


男性教師は眉を深く寄せ、身を乗り出してモニターの変化を見つめている。


「この展開は……本当に予想外です! システム監視によれば、嵐暁茵さんは確かに洛玖くんの端末への侵入に成功していました――ですが、なぜ彼女は最後まで正しいフラッグ値を提出しなかったのでしょうか?」


彼の低く力強い声は、真実を探ろうとする鋭さを帯びていた。 あたりは静まり返る。


「正しいフラッグさえ即座に提出していれば、彼女の独走で勝利は確実だったはずです。それなのに、こんな重要な瞬間に、彼女は動かなかった……一体何が起きたというのですか?」


彼の疑問は周囲の生徒にも伝染した。傍観していた選手たちも顔を見合わせ、技術的なミスや戦略の失敗について囁き合い始める。


女性教師が再びマイクを握る。その声には、先ほど以上の興奮と喜びが満ちていた。


「たった今! 洛玖くんが驚異的なスピードで、最後の対戦相手のフラッグ値もロックオンしました――彼は! 他者すべての希望を粉砕しました!」


彼女は豪快に机を叩き、得意げな笑みを浮かべた。


「この試合、最初から最後まで彼の手のひらの上でした! 彼こそ正真正銘のダークホース! 彼以外の全員のスコアはゼロ! この勝利は、彼一人が独占しました!」


その瞬間、会場からは山崩れのような拍手と喝采が巻き起こった。多くの生徒が狂喜して僕に拍手を送り、立ち上がって称える者さえいた。


誰もがこの前代未聞の逆転劇に酔いしれている。短い静寂の後、男性教師も思わず賛辞を漏らした。


「私がこの大会を司会して以来、これほどドラマチックな逆転劇は見たことがありません――恐るべき新人が現れましたね。洛玖くん、見事です!」


全員の視線が僕に集まる。スクリーンに輝く自分の名前、周囲の歓声と称賛。胸には興奮と、言葉にできない感動がこみ上げてきた。


観客席では、スーツ姿の中年男性が、非常に鋭い眼差しで嵐暁茵を見ていた。


不意に、嵐暁茵の瞳孔がきゅっと収縮した。次の瞬間、カミソリのように鋭い視線が放たれる。彼女は低く、しかし衝撃波のような声で呟いた。


「クソッ……!」


教室全体が、見えない電流で切り裂かれたかのようだった。誰もが眉間から胸の奥まで貫くような威圧感を感じた。彼女の視線は鷹のように僕を睨みつけ、僕を一片残らず剥ぎ取ろうとしているかのようだ。


その口調には、いつもの威厳はなく、抑えきれない複雑な感情が混ざり合っていた。


「新入生、あんた……一体どうやったの?」


言い終わらぬうちに彼女は一歩踏み出し、微かに震える指先でスイッチとファイアウォールの構成図を指差した。試合の設定が彼女の脳裏で再生されているのだろう。眉間の皺には、自責と不可解さが滲んでいる。


「私……すべてのインバウンドルールを完璧にしたはずよ。ファイアウォールのACLも、スイッチのVLANもDMZも、何度もテストして展開したのに。あんたが入り込める隙なんて、あるはずがない!」


彼女は深く息を吸い、さらに声を張り上げた。


僕は顔を上げることができなかった。頬が火が出るほど熱い。喉は乾ききっているが、余計なことを言う勇気もない。視線を落としたまま、地底から漏れ出る気流のような声で、ぽつりと答えた。


「ぼ、僕……フラッグの値を、書き換えたんです……」


彼女の目がカッと見開かれた。まるで雷に打たれたかのように、金切り声に近い叫びが飛び出す。


「はぁっ!? マジで!? やるじゃんっ!」


彼女の顎が机につきそうになるほど驚愕し、目の前のノートPCスタンドをひっくり返しそうになった。群衆は、呼吸音さえ聞こえるほど静まり返る。


続いて、彼女は僕の肩を掴んだ。爪が制服の生地に食い込む。だが次の瞬間、彼女の手は離され、抑えきれない震えを見せた。


「フラッグの書き換え? あんた、まさか……そんな手が使えるの? 狙いは何? 私の時間を稼ぐため? 侵入成功と思わせて、提出させるのは永遠にエラーになる値……そうやって反撃の機会を作ったわけ?」


僕は反射的に身を縮め、頭をさらに低くした。声は風前の灯火のように震えている。


「ル、ルールのどこにも、フラッグを書き換えちゃダメとは書いてなかったから……。僕、君のフラッグファイルなんて絶対取れないと思ったから、先に自分のを書き換えて……そしたら、まさか……意外とうまくいって……」


彼女は半秒ほど固まった。世界がその瞬間だけ停止したかのようだ。そして大きく息を吸い込むと、瞳の奥に称賛の光が走った。


「は? あんた……私のフラッグを取れるなんて、自分でも思ってなかったって言うの?」 「そ、そうです……取れるなんて思ってなかった。主な勝因は……その……君が、旧版Ubuntuのsudoの脆弱性に気づいてなかったからで……」


教室に再び、ざわめきが戻ってきた。嵐暁茵はゆっくりと僕の肩から手を離し、小さく咳払いをした。先ほどの荒々しさは瞬時に消え去り、顔には意味深な笑みが浮かんでいた。怒りも驚きも、跡形もなく消え去っている。


その瞬間、世界には僕たち二人しかいないようだった。互いの瞳の中で交差する光――それは競争であり、ある種の奇妙な「絆」の始まりでもあった。


嵐暁茵は顎をわずかに上げ、柔らかながらも抗えない覇気を纏った口調で言った。


「へぇ、そう……ふーん……面白いじゃない……」


彼女の視線が僕の全身をねめ回す。口角が吊り上がり、悪戯っぽい笑みが浮かぶ。


「ねえ、新入生。私と付き合ってよ!」


僕は凍りついた。心臓の鼓動が一拍抜ける。


「え……はい……」


無意識に呟いたが、言葉が出た直後、心の中で大波が巻き起こった。


「え? あれ? ちょっと待って、何言ってるの? なんでいきなりそんな話に? 付き合う? それって恋愛の? ぼ、僕……僕みたいなのはダメだよ……」


慌てて唾を飲み込む。頬が滴り落ちそうなほど熱い。


嵐暁茵は僕の狼狽などお構いなしだ。さらに一歩近づき、身を乗り出して僕と視線を合わせる。その声は柔らかさの中に芯があり、温かい笑みを含んでいるが、拒絶は許さない響きがあった。


「いいのよ。お姉さん、若い妹ちゃんが大好きなんだから。あんたのこと、絶対落としてみせるわ! 私の手から逃げられると思わないことね♪」


彼女は手を伸ばし、人差し指で僕の胸をトンと突いた。見えない印を刻むかのように。 その瞬間、教室の空気は彼女の自信と情熱で微かに震えた。周囲の生徒たちは洪水の縁に立たされたように、この突然の告白に言葉を失っている。僕の頭の中は真っ白だ。唇は震えるが、返す言葉が見つからない。


ゆっくりと視線を落とす。思考は嵐のように吹き荒れている。


こんなにも思考の振れ幅が大きく、強引で、理不尽ですらある人に会ったのは初めてだ。こんな魅力的な生徒会長が、僕みたいな新入生に興味を持つなんて。


僕の心は千々に乱れた。彼女の率直さに驚き、自分の慌てぶりに恥じ入り、そしてこの関係がもたらすであろう波乱に恐怖する。


こんな人が生徒会長だなんて。学校のすべてを左右できる人物だ。そんな彼女の後光の下で、僕はどうやって自分を保てばいい? 深呼吸をして頭を整理しようとするが、混乱は深まるばかりだ。


「でも……」


僕の声は風に散る羽毛のように軽く、どうしようもない迷いが滲んでいた。


今の僕は、二つの平行線の間に立たされているようだ。 一方は、外見や声から「女の子」だと思い込まれている周囲の目。 もう一方は、本当の性別――女性の役回りの中にいるけれど、男性としてのアイデンティティを持つ「男の娘」としての自分。


僕はそっと顔を上げ、嵐暁茵をじっと見つめた。彼女の表情はもう怒りでも、ありふれた優しさでもない。獲物を見つけた狩人のような、興奮と期待に満ちている。


その瞳は輝き、感情によって潤んでいる。彼女はまだ、僕の本当の性別を知らない。 そして僕は今、誠実さと自己に関する重大な選択を迫られている――この胸の奥の秘密を、彼女に告げるべきか、否か。


会場中の注目を浴びながら、僕の心は静まり返り、耳には互いの呼吸と沈黙だけが残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ