18.END
僕は本当にクズだ。
昨日の僕は……
逃げることを選んだ。
拒絶もしなかったし。
誰かに返事をしたわけでもない。
暁茵姉と林姉は。
こんな僕に心底落胆しただろう。
今日という日は、昨日と何ら変わりないようでいて。
……徹底的に、取り返しのつかないほど変わってしまった。
僕の視線は抑えきれずに部屋の反対側へと向く。
暁茵姉は、僕のあの簡素な『ベッド』で丸くなっていた。
彼女は僕の、洗濯で少し白茶けた古い上着を羽織っている。
いつもは一筋の乱れもなく整えられている、燃える炎のようなピンクの長髪は、今は肩にだらしなく散らばり、毛先が朝の微風に吹かれて少し絡まっていた。
彼女の眉間には、眠っている間でさえ深い皺が刻まれたままだ。
そして林姉は、疾に姿を消していた。
彼女はまるで、影も形も残さない神秘的で美しい幽霊のように、僕の人生に震度12の大地震を引き起こすほどの重爆弾を投げ込んだ後、軽やかに袖を振って、一片の雲も連れずに去っていった。
後に残されたのは、彼女の『優しさ』と『善意』によって固く縛り付けられた、二人の哀れな……
「私たち三人で、一週間お試しで付き合ってみましょう。どうかしら?」
彼女のあの言葉は、不吉で宿命感に満ちた呪文のように、僕の耳の奥でいつまでも鳴り響いている。
僕は……戦利品になった。
彼女たちが互いに主権を誇示するために使われる、命のない哀れな戦利品。
そして、十数年にも及ぶ嫉妬と独占欲によって歪みきった二人の感情を、無理やり繋ぎ止めている血まみれの……生贄。
僕こそが、彼女たち二人を閉じ込める金ぴかの牢獄の……錠前なのだ。
深圳から香港へ戻る途中、東鉄線の車内には、粘りつくような空気が漂い、息が詰まりそうだった。
僕たち三人は並んで、あの消毒液の匂いが漂う冷たいプラスチックの座席に座っていた。
僕は真ん中に座り、二つの巨大な磁石に挟まれた、身動きの取れないちっぽけな鉄屑のようだった。
左側には、暁茵姉。
彼女は窓に寄りかかり、冷たいガラスに頭を押し当てて、窓外を飛ぶように過ぎ去る単調で画一的な風景を無言で見つめていた。
窓から差し込む灰色の光に照らされた彼女の横顔は、透明に近いほど脆く、そして美しかった。
彼女の体からは、シベリア寒気団のような、人を寄せ付けない冷たい空気が放たれていた。
右側には、林姉。
彼女は俯いて、専念してスマホの画面を見ていた。
彼女の口元には浅く優しい微笑みが浮かんでいる。
指先は画面の上を素早く滑り、何か他愛もない、気楽なメッセージを処理しているかのようだった。
彼女たち二人はまるで氷と炎だ。
そして、氷と炎に挟まれた哀れな緩衝地帯である僕は、二つの相反する、しかし等しく強大な力によって、少しずつ引き裂かれ、粉砕されていた。
璃ちゃんは、僕たちの向かいに座っていた。
僕は、全世界から見捨てられた孤島のような気分だった。
空気が……
気まずすぎる……!
林姉自らが監督した『付つき合』という名の荒唐無稽な劇は、僕たちが学校に戻った瞬間、正式に幕を開けた。
林姉の実行力は、恐怖を感じるほど高かった。
彼女は周囲の視線など全く気にしていないようだし、何の移行期間も準備も必要としていなかった。
彼女は当然のように『本命の彼女』という立場で、僕の生活のあらゆる隅々にまで、全面的かつ徹底的に浸透してきた。
林姉はその完璧なまでの『優しさ』と非の打ち所のない『気配り』で、いとも容易く暁茵姉を僕の世界から少しずつ弾き出していった。
そして僕は、名目的には全校で最も美しい二人の女神を『彼女』に持つ、羨むべき『人生の勝者』のはずだった。
なのに……
僕の体は僕自身のものではない。
僕の意志も僕自身のものではない。
この巨大で息苦しい分裂の苦痛に完全に飲み込まれそうになった時。
林姉が口を開いた。
「洛玖、今週末、香港でコミコンがあるわ」
彼女の顔には期待に満ちた、興奮した微笑みが浮かんでいた。
「日本から、すごく有名なアイドルの木下美羽さんが、特別ゲストとして香港に来るんですって」
木下美羽……アイドルだったかな……でも僕はアニメオタクだし、僕には関係ないことだろう?
「それに……」
林姉は僕の顔に一瞬走った、隠しきれない当惑を見て満足したようだった。
彼女の口角がわずかに上がり、意味深で誘惑的な微笑みを浮かべた。
「彼女が今回コスプレするキャラ、実は……」
彼女は、最終的な謎を解き明かそうとする神秘的な手品師のように、わざと声を長く引いた。
「『愛〇レストラン』と『〇〇アドベンチャー』のキャラなんだって」
!
『愛〇レストラン』……僕が一番好きなゲーム……
『〇〇アドベンチャー』……僕が一番好きなアニメ……
これ……これって……
まるで誰かが僕の心の奥底、最も隠密で卑屈で、誰にも話したことのない夢を覗き見して、それを神業のような不可思議な方法で現実にしたかのようだった。
「どうかしら?」
極度の驚愕と狂喜で少し間抜けな顔になった僕を見て、林姉の笑顔はますます輝きを増した。
「私たち四人で、一緒に行きましょう? 私たちの、最初のデートとして」
彼女はまたしても、この最も優しく、拒絶しがたい方法で、僕に、そして最初から最後まで沈黙を貫いている暁茵姉に、甘い罠を仕掛けたのだ。
僕に拒絶できるだろうか?
……できない
二次元の世界から来る、あの純粋な喜びは、致命的で抗えない毒薬のように、一瞬で僕のすべての理性と……苦痛を麻痺させた。
喉元過ぎれば熱さを忘れる、この哀れで愚かな……中毒者の僕は、またしても刹那の偽りの愉悦のために、毒を仰いで乾きを癒すことを選んだ。
「うん……」
僕は辛うじて一つの音節を絞り出した。
香港会議展覧中心へ向かう道中、地下鉄の車内に漂うあのお馴染みの、セントラルエアコンの冷気と群衆の浮ついた空気が混ざり合った、交通拠点特有の圧迫感が、僕たち四人をしっかりと包み込んでいた。
空気はそれほどまでに気まずく、それほどまでに……息が詰まるものだった。
……
林姉はすべてを掌握する、優しく完璧な『看守長』。
暁茵姉はすべての権力を剥奪された、プライドが高く負けを認めない『前任の看守長』。
璃ちゃんは新主人に忠誠を誓うべく準備を整えた、忠実な『看守』。
そして僕は、三つの複雑で暗流渦巻く勢力の間に挟まれた、何の反抗能力もない哀れな……囚人だった。
この沈黙に完全に押し潰されそうになった時、向かいに座っていた璃ちゃんが、まるで秘密の指令を受けた役者のように、この凝固した静寂を破った。
彼女は自分の小さなバックパックから精巧に包装された紙ナプキンを取り出し、一枚引き抜くと、額にあるはずのない汗を拭った。
「あれ?」
彼女の顔には、わざとらしい驚きの、可愛い表情が浮かんでいた。
「このブランドのティッシュ、手触りが、深圳で使ってたのとちょっと違うみたい」
彼女は『T〇mpo』と書かれたそのティッシュの包みを僕の前に差し出した。いつもは小ハムスターのように澄んで明るいあの瞳が、今は僕には読み解けない、計算高く精明な光を宿していた。
「お兄、見て。このパッケージ、私たちがいつも使ってる『V〇nda』とそっくりだよ。よく見ないと、偽物を買っちゃったのかと思っちゃうところだった」
僕は呆然とした。
この会話は……
あまりにも作為的で、あまりにも……不自然だ。
あらかじめ書かれた、拙劣な脚本のようだった。
そして、役割を指定された役者である僕は、脚本通りに台詞を口にする以外に選択肢はなかった。
僕は深呼吸をし、胸を突き破りそうなほどの凄まじい荒唐無稽さを、強引に押し殺した。
僕は理解不能な陰謀を孕んだそのティッシュを受け取り、顔に硬い笑顔を張り付かせた。
「これか……」
僕の声はサンドペーパーで削られたように乾いていた。
「香港では、『T〇mpo』っていうブランドの方が主流なんだ。売り上げも『V〇nda』よりずっと高い。パッケージデザインが似ているから、勘違いする人も多いんだよ」
僕は熱心で魂のない役者のように、一字一句違わずに台詞を読み終えた。
暁茵姉の冷たい瞳の奥で、とっくに死に絶えていた灰の中に、微かな、しかし不服そうな火種が再び灯るのが見えた。
この不気味な雰囲気漂う『豆知識タイム』が息詰まる形で終わろうとしたその時、璃ちゃんはまた新しい指令を受けた役者のように、この荒唐無稽な劇に新しいエピソードを加えた。
「あ、そうだ!」
彼女はポンと頭を叩き、ハッとした表情を作った。
「この先に『M〇nning』があるみたい! お兄、嵐姉、林姉、ちょっと待ってて。買いたいものがあるの!」
彼女は有無を言わせず、次の駅で僕たちを降ろした。
そして、この世界に好奇心を抱く無邪気で幸せな小鳥のように、軽やかな足取りで、ドラッグストア特有の薬草の匂いが立ち込めるあの明るい店内に飛び込んでいった。
数分後、彼女はパンパンに膨らんだ巨大なレジ袋を提げて、満足げに出てきた。
「完了!」
彼女は宝物を見せるように、その重そうな袋を僕たちの前に掲げた。
僕は中を覗き込んだ。
そこに入っていたのは……
イギリス産の『P〇nad〇l』。
タイ産の『P〇Y-SI〇N』、『Y〇-H〇m』、『T〇k〇bb』。
中国産の『安宮牛黄丸』。
日本産の『ムヒ〇s』。
……
それはなんと盛大な、地球を跨いだ……薬品博覧会だった。
「香港の薬、すごく安いね」
璃ちゃんは満足げに自分の『戦利品』を眺めながら、無邪気な口調で僕たちに言った。
「家に買って帰れば、備えあれば憂いなしだよ」
備え……あれば……
璃ちゃん……
君は一体、何のために備えているんだ???
この不気味な挿話に満ちた長い旅路を経て、ようやく会展中心へと続く最後の道に足を踏み入れた時、巨大な不安と混乱でとっくにドロドロになっていた僕の心臓は、喉から飛び出しそうだった。
僕は、この息苦しく陰謀に満ちた現実世界から一時的に逃避できる……出口を切実に求めていた。
僕は溺れかけている人間が最後の一藁を掴むように、唯一馴染みがあり、唯一安全だと感じられる……アニメとゲームの世界についてとうとうと語り始めた。
僕は、無数の夢中になれる仮想世界を創造した、神のような……漫画家たちについて語った。
僕は、完璧で非現実的で、それでいて現実世界の誰よりもリアルに感じられる……仮想キャラクターへの、卑屈で、しかしこの上なく熱い……愛を語った。
僕の声は過度の興奮で少し鋭くなり、支離滅裂になっていた。
林姉と璃ちゃんは、ただ微笑んで聞いていた。
彼女たちの眼差しには、幼稚で滑稽な一人芝居を演じている可愛い子供を見るような……温かく寛大な寵愛が込められていた。
そして暁茵姉は……
彼女は、僕のあの狂熱と幻想に満ちた混乱した独白の中から、僕自身さえ気づいていなかった……あるものを捉えたのだ。
「玖」
彼女が突然口を開いた。
彼女の声はとても軽く穏やかだったが、それは温かく聖潔な光のように、データと幻想で構成された僕の混沌とした暗い内面を一瞬で貫いた。
「君は『次元の架け橋』を捉えるのが、すごく上手いね」
「……え?」
僕は呆然とした。
次元の……架け橋?
それは一度も聞いたことのない言葉だった。
「『次元の架け橋』って、何?」
僕は思わず聞き返した。
暁茵姉は僕を見た。いつもは秋の湖のように澄んでいるあの瞳が、今は僕には読み解けない、星々のように煌めく深遠な光を宿していた。
「私の造語だよ」
彼女の口角がわずかに上がり、久しく見ることのなかった自信に満ちた微笑みを浮かべた。
「その意味はね……」
彼女は言葉を切り、最も忍耐強く優しい教師が、最も物覚えが悪く、それでいて最も愛おしい教え子に、深遠な宇宙の真理を説くかのように言った。
「君は、現実世界を尊重しながら、同時に仮想世界を愛することができる」
「君は、仮想キャラクターの完璧さを愛している」
「だからこそ君は、現実の生活におけるすべての不完璧を受け入れることができるんだ」
「それは現実逃避じゃない」
「別の、もっと優しくて、もっと力強い方法で……」
「……この欠落だらけの世界を抱きしめているんだよ」
僕は、ずっと逃げ続けてきたはずなのに……
でも
彼女は……
彼女は、まさか……
目頭が、一瞬で熱くなった。
僕は顔を上げ、陽光の中で聖潔で慈悲深く、直視できないほどの光を放つ彼女の美しい顔を見つめた。
……
僕たちがついに香港会議展覽中心の、別の世界のように巨大な展示ホールに足を踏み入れた時、数万人もの人々の情熱と欲求が合流してできた、巨大で温かな音の波が顔に押し寄せ、風を通さない網のように僕たちをしっかりと包み込んだ。
ここは、僕の天国だ。
僕のメッカ。
僕の約束の地。
目の前には、光と影、色彩と線で構成された、光り輝く煌びやかな海が広がっていた。
無数のブースが、奇想天外なアイデアに満ちた島々のようにそびえ立ち、この広大で果てしない海の上に点在していた。
巨大な液晶画面には最新ゲームのプロモーションアニメが流れていた。
その衝撃的な映像と耳を劈くようなサウンドは、休むことのない人工の太陽のように、空間全体を真昼のように照らし出していた。
耳には、世界各地から来た異なる言語の観光客たちの混ざり合った興奮した喧騒が聞こえる。
ブースのスタッフが拡声器で高らかに売り込む声。
様々な電子ゲームのBGMと効果音が織りなす、壮大な……交響曲。
そして、この仮想の楽園の中を歩いているのは……
現実世界という重い肉体の枷を脱ぎ捨てた、自由な……魂たちだ。
彼らは色とりどりの華やかな、あるいは風変わりな衣装を身にまとっている。
彼らは仮想世界にしか存在しない、完璧で非現実的な……キャラクターを演じている。
彼らは騎士であり、魔術師であり、スーパーヒーローであり、異世界から来た王女だ。
ここでは、自分が誰であるかを一時的に忘れることができる。
現実世界で演じている、あのちっぽけで卑屈で、諦めと妥協に満ちた……役割を忘れることができるのだ。
僕はここにあるすべての空気を貪欲に吸い込んだ。
自分がついに海に戻ってきた一滴の小さな水滴になったような気分だった。
「行こう」
僕は振り返り、目の前の壮観で超現実主義的な光景に言葉を失っている三人に、心の底からの晴れやかな笑顔を見せた。
僕たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。
僕たちは初めてファンタジー世界に迷い込んだ好奇心旺盛な冒険者のように、この迷宮のように巨大な楽園で探索を開始した。
僕たちは、サバ缶のようにぎゅうぎゅう詰めの、人波が押し寄せるメインストリートを通り抜けた。
僕たちは、奇妙な装飾が施された、独創的なアイデアに満ちたブースの一つ一つに潜り込んだ。
限定版のフィギュア、直筆サイン入りの画集、希少なゲーム周辺グッズ……
どの商品も、致命的な誘惑に満ちた美しい悪魔のように僕に手招きし、どんなオタクをも完全に理性を失わせるに足る……呪文を低く囁いていた。
僕の理性が燃えている。
僕の財布が泣いている。
そして暁茵姉、林姉、璃ちゃんは、最も職務に忠実で優しく思いやりのある……守護天使のように、右に左に、前に後ろにと、欲望の奔流に完全に飲み込まれそうになっている僕の哀れな魂を、彼女たちの羽の中にしっかりと守ってくれていた。
分かっている。これはすべて、偽りの、短い……夢に過ぎないことを。
けれど僕は、自ら進んでその中に溺れ、抜け出すことができなかった。
なぜなら、この偽りの温もりは、こんなにも素晴らしいからだ。
現実世界にあるあの息詰まるような、冷たい……絶望を、忘れてしまいそうになるほどに。
僕たちは、商業的な雰囲気漂う騒がしく浮ついた企業展示エリアを通り抜け、ようやく今回の旅の最終目的地へとたどり着いた――
比較的静かで、創造の活力に満ちた、同人作家たちだけの……聖地。
ここには、あの冷たくて金臭い商業宣伝はない
ここにあるのは、最も純粋で、最も熱い、いかなる利益にも駆り立てられない……愛だけだ。
無数の小さく簡素な屋台が、微かだが頑固に独自の光を放つ星々のように集まり、一つの煌びやかで温かく、胸を打つ……銀河を形成していた。
同人誌、イラスト集、ハンドメイド、アクセサリー……
これこそがACGN文化の真の精神だ!
商業とは無関係、利益とは無関係、ただ共有と愛だけに関わる……精神。
僕がこの純粋で温かな、すべてを浄化するほどの感動に完全に溶かされそうになったその時、これまでのどの時よりも激しく巨大な騒ぎが、少し離れたメインステージの方から伝わってきた。
群衆は理性を失った奔流のように、同じ方向へと狂ったように押し寄せていった。
「み、木下美羽だ!」
この偽りの楽園に、神のように降臨した……アイドル。
木下美羽
彼女は、無数のフラッシュとスポットライトに真昼のように照らされた、巨大なステージの上に立っていた。
彼女は僕がよく知っている、『愛〇レストラン』のあのクラシックなピンクと白のメイド服を着ていた。
彼女は二次元の世界から抜け出してきたような、完璧で非現実的な……夢そのものだった。
彼女は、とっくに狂乱に陥っているステージ下の沸き立つ人波に向かって、軽く手を振った。
彼女の声は、冷たいマイクを通して、その場にいる全員の鼓膜に明瞭に届いた。
その声は風鈴のように甘く澄んでいて、それでいて少女特有の、柔らかくて心酔させるような……感覚があった。
彼女は覚えたての広東語で、一生懸命みんなに挨拶をしていた。
「香港のみなさん、おはよう!」
「ドォォォォォン――!」
悲鳴のような歓声が、天地を覆す津波のように、展示ホール全体に狂ったように響き渡った。
僕の目頭は、その瞬間熱くなった。
二つの願いが一度に叶った。
これはまるで、僕のような卑屈でちっぽけで取るに足らないオタクのために用意された……奇跡のようだった。
僕の幸福感は、その瞬間、頂点に達した。
ライブが終わった後は、ファンとの記念撮影の時間だった。
僕は震える手でポケットからスマホを取り出した。
許可を得た後、カメラを起動し、レンズをすぐ目の前にいる、人間とは思えないほど美しい、神のような……アイドルに向けた。
スマホを取り出し、木下美羽と写真を撮ろうとした、その時だった。
「誰か刃物を持って人を斬ってるぞ、早く逃げろ!」
極度の恐怖に満ちた鋭い叫び声が、晴天の霹靂のように、騒がしい展示ホールの中に轟然と響き渡った。
会場全体が一瞬、不気味で息の詰まるような……短い静寂に包まれた。
次の瞬間、無理やり抑え込まれていた巨大な恐怖が、決壊した洪水のように一気に溢れ出した。
人々は叫び、喚き、恐怖に駆られて四方八方へ逃げ惑い、熱湯に投げ込まれたパニック状態の蟻のように、無秩序に会場の出口へと向かって走り出した。
「人殺しだ!」
悲鳴、泣き叫ぶ声、助けを求める声……
あらゆる恐怖の音が混ざり合い、壮大で、混乱に満ちた、毛のよだつような……地獄の交響詩を奏でていた。
「あぁっ――」
多くの人が傷つき、倒れているようだった。
空気の中には、淡く、甘ったるい、反吐が出るような……血の匂いが漂い始めた。
僕は慌てて周囲を見渡した。
そこでようやく。
自分が彼女たち三人とはぐれてしまったことに気づいた。
暁茵姉……
林姉……
璃……
氷のように冷たい、骨まで凍みる寒気が足の裏から脳天まで突き抜けた。
僕は急いで彼女たちを捜しに向かった。
理性を失った激しい人波に逆らい、巨大な波に飲み込まれそうな哀れな小舟のように、なりふり構わず、さっきまで僕たちがいた方向へと突き進んだ。
『同人作品』エリアで、僕は彼女たちを見つけた。
犯人は……
この場所からわずか十歩の距離にいた。
それは小柄な中年男だった。
彼はすでに汗でぐっしょりと濡れた灰色のTシャツを着ていた。
髪は脂ぎって乱れている。
その顔には、麻痺したような、絶望したような、この世界に対して一筋の希望も抱いていない……狂気が宿っていた。
彼の手には、冷たい光を放つ、鮮血に染まった……果物ナイフが握られていた。
終わった。
どうすればいい。
ダメだ。
冷静になれ。
僕がすべきことは……
明白なはずだ。
どうしてまだ余計なことを考えているんだ?
僕の脳はその瞬間、かつてないほど明晰になり、そしてかつてないほど……冷たくなった。
僕は隣で呆然と立ち尽くしている、はぐれた璃ちゃんをぐいっと引き寄せた。
そして、ほとんど放り投げるようにして、彼女を暁茵姉と林姉の方向へ突き飛ばした。
続いて僕は向き直り、深く息を吸って、凶器を手にしたあの男に向かって歩き出した。
これで時間を稼いで、彼女たち三人が逃げるきっかけを作れる……よね?
これは僕の最後の贖罪だ。
卑屈で哀れな、罪悪感に満ちた詐欺師である僕ができる、唯一の、そして最後の……貢献なんだ。
「あなたも……辛かったんだね……」
僕はナイフを持つ男に対し、記憶を必死に手繰り寄せ、たどたどしい不自然な広東語で話しかけた。
「こっちへ来るな!」
彼は傷ついた野獣のような咆哮を僕に向けた。
「分かってるよ、あなたも、たくさんの辛い思いをしてきたんだろう」
僕の声はとても軽く、穏やかだった。けれど、微かだが確かな暖流のように、冷たい絶望によってとっくに封鎖されてしまった彼の心を溶かそうと試みた。
「お前に何が分かる!俺は今日、命なんていらねぇんだよ。お前らクズども、一人も逃がさねぇぞ!全員道連れだ!共倒れだ!」
彼の目には絶望の、なりふり構わない炎が燃えていた。
「ごめんね、あなたの敵になりたいわけじゃないんだ。あなたを見てると、本当に悲しそうに見えるから」
「僕も知ってる、分かってるんだ。僕もあなたと同じように、いつもいじめられたり、誤解されたりしてきたから」
僕は話し続けながら、彼が油断した隙に、猛然と突き進んだ。そして、この細くて今にも壊れそうな体で、彼を死ぬ気で抱きしめた。
彼が逃げられないようにするんだ。
そうすれば、彼はもう誰も傷つけることはできない。
そうすれば、璃ちゃんたち三人の安全は保証される。
けれど、相手はパニックになったようだった。
彼の手にあるあの冷たくて鋭いナイフが、僕の体の中に深く突き刺さった。
奇妙な、生暖かい感覚が、腹部から伝わってきた。
僕は構わずに。
そのまま彼をきつく抱きしめ続けた。
「大丈夫だよ、許すから。裁判が始まったら、僕も一緒に情状酌量をお願いしてあげる。あなたはもう……あなたはもう疲れきってるんだ。ナイフを置いて、少し休もう」
僕の突拍子もない言葉に、彼の心理的な防壁が崩れたようだった。
彼がナイフを握る手を緩めたのを感じた。
彼の両手は力なくだらんと垂れ下がった。
やはり、思った通りだった。
彼は生活がうまくいかず、社会への報復を選んだんだ……
はぁ……
苦労している人は、本当に多いんだな……
璃ちゃんたちは、無事に逃げられたかな……
なんだか……温かいものが、体から流れ出してくる……
あぁ……
ねちゃねちゃしてる。
そうか……
僕の人生という茶番劇は、ここで幕引きなんだな……
ははは、これは僕の、自業自得だよね……
脳裏に、これまでの出来事が断片的に浮かび始めた。
母さんの疲れた後ろ姿……
璃ちゃんが楽しそうに学校での出来事を話してくれたこと……
暁茵姉の、いつも秋の湖のように澄んでいたあの瞳……
林姉の、天使のように純潔で優しい、あの微笑み……
どうやら、走馬灯のようだ……
ここでようやく、激痛が走った。
それは絞られるような痛みだった。
その痛みは、真っ赤に焼けた鋭い短刀が体の中で狂ったようにかき回され、すべての内臓を徹底的に切り刻むかのようだった。
痛みに耐えかねて、僕は彼を抱きしめていた手を離した。
全身の力が抜け、床に崩れ落ちた。
なんだか……
結構、気持ちいいな。
激しい痛みの後は、言いようのない、息の詰まるような心地よさがやってきた。
これは……
もう、いいや。
余計なことは考えないでおこう。
すごく眠い。
寝たいな……
うぅ……
僕は床に横たわり、ゆっくりと両目を閉じた。
「お兄!」
「死んじゃダメ!」
「お兄!!!」
なんだか、誰かが……泣いている。
叫んでいる。
まるで……
まるで……璃ちゃん……?
強い衝撃を感じた。誰かが僕の頬を狂ったように叩いている。
とても強く、けれどとても優しく。
でも、僕は本当に眠いんだ。
目を閉じると、本当に……心地いい。
すべてのストレスが消え去ったような気分だ。
「お兄……!」
「嫌だよ……嫌だよ……」
「私のファーストキス……こんな形でなんて……嫌だよ……」
「あなた……」
どうやら璃ちゃんが、何かを言っている。
僕にはもう全く聞き取れない。
ただ、断続的にいくつかの単語が聞こえるだけだ。
あぁ……
僕は本当に罪深い人間だ。
暁茵姉と林姉の生活をめちゃくちゃにして。
璃ちゃんをこんなに苦しませて、心配させて。
神様、早くこの罪深い僕を連れていってください。
これが、僕の最後の、救いなんだ……
なんだか温かいものが、僕の唇を覆った。
失血が多すぎて、僕の体はもう冷たくなっていた。
けれど、唇を覆うこの柔らかいものは、熱くて、少し火傷しそうなほどに感じられた。
人工呼吸……かな?
「お兄!クソお兄!好きだよ!大好きだよ!お願いだから!死なないで!」
「お兄が死んだら、私も生きていられない!」
「クソお兄!」
「起きてよ!」
「起きてよ!!」
ようやくはっきりと聞こえた。どうやら璃ちゃんがそばにいてくれるみたいだ。
彼女は本当にいい子だね……
バカなことはしないでって、口を開いて伝えてあげたいけれど。
僕の体は言うことを聞かず、目を開けることも、口を動かすこともできない。
意識が少しずつ遠のいていく。
なんだか、とても軽やかで温かな空間に入っていくような感じだ……
「クソお兄!十数年もだよ!」
「十数年も!」
「ずっと言えなかったんだよ」
「兄妹が一緒になっちゃいけないことくらい分かってたから、一生結婚しないつもりだったのに!」
「お兄に幸せになってほしかったから、身を切る思いで暁茵姉と林姉を応援してたのに!」
「それなのに今……」
「こんなふうにいなくなっちゃうなんて許さない!」
「戻ってきなさいよ!」
「彼女たちに責任取りなさい!」
「せめて……」
「私に責任取りなさいよ!」
「愛してるんだよ!」
「本当に愛してるんだよ、お兄!」
「ねぇ、私たちが血がつながってないって知った時、私が何を思ったか分かる?」
「お母さんの実の娘じゃなくてよかったって、ホッとしちゃったんだよ」
「すごく嬉しいって思っちゃったんだよ……」
「お兄が死んじゃったら、私、絶対もうお嫁に行けないよ!」
「私に責任取って!」
「戻ってきなさいよ!」
「お兄!」
「この、バカ!」
「勝手に……勝手に逃げ出すなんて許さないからぁ!!!」
「すみません、先ほど通報されたのはどなたですか?」
どうやら……璃ちゃん以外の、別の誰かの声が聞こえてきた……
「嵐さん、林さんですね?」
「お嬢さん、少し離れていただけますか」
「お嬢さん?」
「お嬢さん!」
「お願いします、警察官さん、救急隊員さん、お願いします。お兄を死なせないでください、お願いします、お願いします……お願い……」
声が消えた。
一瞬、耳鳴りがした。
どうやら……本当に、もうダメみたいだ……
璃ちゃん……君のような立派な子は、もっといい彼氏を見つけるべきだよ……
君のお兄ちゃんじゃ……君には釣り合わない……
ごめんね……
……
ここでプレイヤーの皆様、読者の皆様にお詫びを申し上げます。
大変申し訳ありません(>人<;)
この小説は本来毎日更新する予定でしたが、途中で数日間途切れてしまいました。この数日間、体調を崩して病気になってしまい、皆様を長くお待たせしてしまったことを深くお詫び申し上げます。
この小説は、もともと私が2024年に開始したVRゲームの企画脚本でした。
そのVRゲームは、全行程約2時間の恋愛ゲームになる予定でした。
しかし、1年かけて開発しても、まだ完成させることができませんでした。
最終的に2025年、経済的な問題により継続が困難となり、私は自分のVR機器とPCを売却しました。
ゲームの脚本は、急遽今の形に改編されることになりました。
改編後のAVGゲームが各プラットフォームの審査を通過できなかったため、最終的にこのような駆け足の短編小説という形になりました。
ストーリーの中に、皆様が良くないと感じる点や、不自然な内容がありましたら、どうかご容赦ください。
皆様のご理解とご支援に感謝いたします。
本当に、万分のお詫びを申し上げます。申し訳ありません、申し訳ありません!
何かご質問などがございましたら、send2rinstu@gmail.com までご連絡ください。
また、X(旧Twitter)でも私を見つけることができます:@JustRealRin
そして、ぜひ小説サイトに感想を残してください。皆様のコメントはすべて真剣に読ませていただきます!
この短編小説はここで終わりですが、実はまだ書ききれていない内容がたくさんあります。本来はVRゲームの第2章、第3章で作るつもりでした……。
現在は棚上げ状態ですが、もし皆様が小説という形で続きを希望されるのであれば、メールやXを通じてご連絡いただければ幸いです。皆様のすべてのご意見やご提案を真摯に受け止めさせていただきます。ありがとうございました!本当にありがとうございました!
改めて、ご愛読ありがとうございました!




