第6話 異例の再査定
ギルドの朝は、いつもより早く騒がしかった。
掲示板の前に人が集まり、受付の周囲には冒険者が溜まっている。
その中心にある話題は、ひとつしかない。
「……昨日の件、本当か?」
「“地砕きのバルド”が負けたって……」
「しかも、相手はあの羽付きの少女……」
アリエスは、その渦の外で伸びをしていた。
「朝からうるさいなあ」
理由は分かっている。
だが、本人にとってはもう終わった戦闘だ。
昨日はよく眠れたし、体の調子もいい。
胸の奥も、静かだ。
(……今日は戦わなくていいかも)
そんなことを考えていると、受付嬢がこちらを見つけ、慌てて駆け寄ってきた。
「アリエスさん! す、すみません。至急、ギルド長がお呼びです」
「ギルド長?」
首を傾げる。
「怒られる?」
「い、いえ……多分、その逆です」
受付嬢の声は、どこか震えていた。
⸻
ギルド長室は、奥まった場所にある。
重厚な扉の前で、一度深呼吸。
ノックすると、低い声が返ってきた。
「入れ」
中にいたのは、壮年の男。
鋭い眼差しと、無駄のない姿勢。
――この街のギルドを束ねる人物だ。
アリエスの視界に、表示が走る。
《ステータス・オーバールック》
名前:ハロルド
種族:人間
年齢:52
職業:ギルド長
Lv:35
HP:780
MP:260
STR:85
DEX:62
VIT:88
INT:91
LUK:48
スキル:
・統率 Lv5
・危険察知 Lv4
・鑑定 Lv3
(……この人、普通に強い)
内心で評価していると、ギルド長――ハロルドが口を開いた。
「アリエス。まず聞く。
昨日、バルドと戦ったな」
「うん」
「勝ったな」
「うん」
即答だった。
ハロルドは、深く息を吐く。
「……事実確認は済んでいる。
単独。正面。無力化。
嘘はない」
机の上に、書類が置かれた。
「そこでだ。ランク再査定を行う」
周囲の空気が、少し重くなる。
アリエスは、首を傾げた。
「昨日、もう上がったけど?」
「それは“レベル”だ。
今回は“ランク”の話だ」
ハロルドは、はっきりと言った。
「結論から言う。
お前をBランク冒険者に昇格させる」
部屋の外で、誰かが息を呑む音がした。
⸻
「……え?」
アリエスは、一拍遅れて反応した。
「Bって、結構上だよね?」
「上だ。異例だ」
ハロルドは頷く。
「通常、Bランク昇格には
・Cランクでの実績
・複数回の高難度依頼達成
・推薦
が必要だ」
「へえ」
アリエスは興味なさそうだ。
「だが、お前はBランク最上位を単独で倒した。
それも、無傷でな」
反論の余地はない。
「よって、例外適用。
正式Bランク昇格だ」
机の上に、新しい冒険者証が置かれた。
銀色に近い金属。
刻まれた紋章が、明らかに違う。
アリエスはそれを手に取り、眺めた。
「……殴れる相手、増える?」
ハロルドは、思わず笑った。
「増える。確実にな」
「じゃあ、いいや」
その返事に、ハロルドは苦笑する。
「忠告しておく。
Bランク以上になると、敵も本気で来る」
「うん」
アリエスは、にっと笑った。
「それ、楽しみ」
⸻
ギルドを出ると、空気が一変した。
視線の質が、明らかに違う。
畏怖。
警戒。
そして――距離。
「……Bランクだって?」
「十五歳で……?」
アリエスは、気にせず掲示板を見る。
張り替えられた札の中に、ひときわ目立つものがあった。
Bランク以上指名可
「……あ」
胸の奥が、少しだけ騒ぐ。
(やっぱ、まだ殴り足りない)
理由は分からない。
でも、事実だ。
アリエスは翼を広げ、軽く伸びをした。
「次、もっと強いの来るよね」
誰に言うでもなく、そう呟く。
天翼族ハーフ、十五歳。
Bランク冒険者アリエス。
地上の常識は、
また一つ、塗り替えられた。




