第58話 境界の上で、彼女たちは笑う
境界線は、見えなかった。
けれど――
確かに、そこにあった。
雲の都アウレリオンの高台。
夜風が、翼と髪を揺らす。
アリエスは、遠くを見ていた。
「……世界、二つあるってさ」
独り言のような声。
「一つ守って、
一つは名前もなくて」
隣で、レオンが腕を組む。
「どちらかを選べ、
って話じゃないな」
「うん」
アリエスは、頷いた。
「両方、在るだけ」
数日前。
世界は、同時に動いた。
地上の世界からは――
“修復者”としての継続要請。
境界の向こうからは――
“守護者”としての静かな同意。
どちらも、命令ではない。
どちらも、拒否ではない。
選択権は、こちらにあった。
「どうする?」
焚き火の前で、
アリエスは仲間たちに聞いた。
誰も、すぐに答えない。
それが、答えだった。
「必要な時に、行く」
セリスが、静かに言った。
「呼ばれたら、考える」
ミラが、短く続ける。
「壊れそうなら、止める」
リィアは、笑う。
「落ちそうなら、引き上げる」
エルナが、優しく締める。
「解析は、いつでもできる」
カイが、頷く。
レオンは、最後に言った。
「……帰る場所は、
ここでいい」
全員の視線が、
アリエスに集まった。
「じゃあ」
アリエスは、立ち上がる。
拳を、軽く握る。
「世界のどこかが壊れそうなら、
殴って直す」
一拍。
「でも」
笑った。
「壊れてない日は、
ちゃんと休む」
誰かが、吹き出した。
誰かが、頷いた。
それで、決まりだった。
セラフィナは、少し離れた場所から、
その様子を見ていた。
「……選んだわね」
声をかける。
アリエスは、振り返る。
「うん」
「後悔は?」
「ない」
即答。
「だって」
仲間を見る。
「一人じゃないから」
セラフィナは、微笑んだ。
「それなら、いい」
夜が、深まる。
星が、雲の上で瞬く。
境界線は、相変わらず見えない。
だが――
越えられることを、
世界は知った。
そして、
越えても壊さない者たちがいることも。
名を持つパーティがある。
《セブン・ブラッド》。
血で繋がり、
選択で繋がり、
境界の上に立つ者たち。
修復者でも、支配者でもない。
ただ、進める者たち。
アリエスは、空を見上げた。
「……次は、どこだろ」
答えは、ない。
だが――
それでいい。
世界は、続く。
境界も、続く。
日常も、冒険も、続く。
そして彼女たちは、
笑いながら、歩いていく。
殴る理由があれば、殴る。
なければ、休む。
それが、
彼女たちの選んだ“在り方”だった。
― 完 ―




