第54話:通じない常識、通じる拳
道は、突然――途切れた。
光の筋が、ぷつりと消え、
代わりに現れたのは、円形の広場。
地面は、硬いのに柔らかい。
空は、近いのに遠い。
《ステータス・オーバールック》
区域:未登録・干渉域
特性:
・意志反応増幅
・概念衝突
「……ここ、話し合いできない感じだね」
アリエスが、率直に言う。
返事は、即座だった。
空気が、裂けた。
現れたのは、三つの“形”。
人の輪郭に近い。
だが、完全ではない。
敵:アクシオム・エンフォーサー
Lv:測定不能
特性:
・常識否定
・因果修正
セリスが、息を吸う。
「……概念を守る側」
「守る、というより」
カイが、続ける。
「“外から来たもの”を排除する装置だ」
一体が、前に出た。
言葉はない。
だが、拒絶だけは、はっきり伝わる。
空間が、歪む。
足元の“地面”が、存在しなかったことにされる。
「っ――!」
レオンが、瞬時に前へ。
盾を構え、
存在消去を受け止める。
――ゴォ……ン……
盾が、軋む。
「……受け止めたけど、
理屈が分からない」
「分からなくていい!」
リィアが、叫ぶ。
「通じないなら――」
拳を握る。
「叩くしかない!」
アリエスは、前に出た。
躊躇はない。
「話、通じないね」
敵は、動かない。
次の瞬間――
因果が、反転する。
アリエスの踏み込みが、
“なかったこと”にされる。
「……へえ」
一歩、戻される。
だが――
拳は、握ったままだ。
「常識、消すタイプか」
アリエスは、少しだけ笑った。
「でもさ」
地面を、殴った。
――ドンッ。
派手な音はない。
だが、
因果が、揺れた。
敵の輪郭が、ぶれる。
「……効いた?」
ミラが、驚く。
「因果そのものに、
物理干渉を入れてる」
カイが、即座に理解する。
「常識じゃなく、現象を殴ってる」
「つまり」
アリエスは、拳を構え直す。
「通じる」
《セブン・ブラッド》が、動く。
レオンが、前に立ち続ける。
盾は、“理屈のない攻撃”を受け止める。
セリスが、
因果遅延を逆算して魔法を当てる。
ミラが、
“存在が薄くなる前”を切り取る。
リィアが、
消される前に、叩く。
エルナが、
“戻された傷”を、即座に修復する。
カイが、
次の“否定”を読み切る。
そして――
「今!」
アリエスが、一歩踏み込む。
因果を、殴る。
――ズガァァンッ!!
常識が、割れた。
撃破:アクシオム・エンフォーサー
残り二体が、
同時に後退する。
初めての反応。
恐怖ではない。
理解だ。
――この拳は、危険だ。
最後の一体が、
広場の中心へ下がる。
空間が、収束。
そして――
消えた。
戦闘終了
光が、静かに走る。
《経験値獲得》
アリエス:Lv40 → Lv41
STR:332 → 338
レオン:Lv55 → Lv56
VIT微増
セリス:Lv53 → Lv54
INT微増
ミラ:Lv50 → Lv51
DEX微増
リィア:Lv50 → Lv51
STR微増
エルナ:Lv51 → Lv52
修復干渉耐性
カイ:Lv45 → Lv46
因果解析(進化)
広場は、元の静けさを取り戻した。
何も、語られない。
何も、残らない。
「……通じなかったね」
アリエスが、ぽつりと言う。
「でも」
拳を、開く。
「通じた」
レオンが、短く頷く。
「言葉がなくても、
理解できる相手はいる」
セリスが、微笑む。
「それが、
この世界のルールなのね」
アリエスは、前を見る。
また、道が生まれている。
今度は――
拒絶ではない。
「行こ」
誰も、止めなかった。
常識は、通じない。
だが、拳は通じる。
それで、十分だった。




