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空に立つ翼 ― 天翼族の少女は殴り倒す ―  作者: てん


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53/58

第53話:名前のない世界の住人

 足音が、二重に響いた。


 岩を踏む音の“後ろ”に、

 ほんの一拍遅れて、同じ音が重なる。


「……誰か、いる」


 ミラが、影を走らせて気配を探る。


 だが、捕まらない。


 姿は、見えているのに。


 丘の向こうに、

 人影のようなものが立っていた。


 背は、人と同じ。

 手足も、同じ。


 だが――

 輪郭が、定まらない。


《ステータス・オーバールック》

対象:未識別存在

分類:住人(推定)

生命反応:あり

言語:未登録



「……人、だよね?」


 リィアが、小声で聞く。


「多分」


 エルナが、慎重に頷く。


「でも、私たちとは……

 “在り方”が違う」


 その存在が、こちらを向いた。


 顔の位置に、

 光の揺らぎが集まる。


 声が、響いた。


 ――だが、意味にならない。


 音ではある。

 感情も、ある。


 けれど、言葉ではない。


「……通じない」


 カイが、すぐに判断する。


「音声じゃなく、

 概念で話してる」


「概念?」


「感覚の塊、みたいなものだ」


 アリエスは、一歩前に出た。


 武器は、構えない。


「……こんにちは」


 言葉を、投げる。


 反応は、少し遅れて返ってきた。


 揺らぎが、

 ほんのわずかに“丸く”なる。


 それは――

 警戒が、薄れた証だった。


 住人は、手のような形を動かす。


 空間に、

 断片的な映像が浮かぶ。


 黒い大地。

 歪む空。

 崩れる“何か”。


「……世界、壊れかけてる?」


 セリスが、読み取る。


 揺らぎが、強くなる。


 肯定。


「ここは」


 カイが、整理する。


「名前を持たない世界。

 でも、住人はいる」


 レオンが、低く言う。


「……守ってる、のか?」


 また、肯定。


 だが――

 次の映像で、空気が変わった。


 外から来た存在。

 歪み。

 消失。


「……入ってきた者が、消えてる」


 エルナが、息を呑む。


「敵意じゃない」


 アリエスが、静かに言う。


「排除だね。

 世界を守るための」


 住人が、こちらを見る。


 揺らぎが、鋭くなる。


 ――試されている。


 次の瞬間、

 足元の因果が、ズレた。


 地面が、

 “少し先”へ移動する。


「来る!」


 レオンが、前に出る。


 住人が、

 触れてきた。


 攻撃ではない。


 だが、触れられた場所が、

 存在を薄くされる。


「……削られてる」


 リィアが、歯を食いしばる。


「殴る?」


 アリエスが、短く聞く。


 住人は、動かない。


 逃げもしない。


 拒んでいるだけ。


「……最小限で」


 アリエスは、拳を握る。


 全力ではない。


 “通じるか”の確認。


 ――トン。


 軽い一撃。


 揺らぎが、

 はっきりと震えた。


 驚き。


 そして――

 理解。


 住人が、

 後ずさる。


 空間に、新しい映像が浮かぶ。


 道。


 先へ続く、細い光。


「……通れってこと?」


 肯定。


 住人は、

 ゆっくりと“形”を解いた。


 霧のように散り、

 大地へ溶ける。


 そこには、

 何も残らない。


「……住人、だったんだ」


 ミラが、静かに言う。


「敵じゃない」


「でも、甘くもない」


 セリスが、頷く。


 カイが、最後にまとめる。


「この世界は、

 名前を持たない代わりに、

 境界が厳密だ」


 アリエスは、拳を開く。


 胸の奥は、静かだ。


「……嫌いじゃない」


 前を見る。


 示された道の先。


「ちゃんと、理由がある」


 それで、十分だった。


 《セブン・ブラッド》は、

 歩き出す。


 名前のない世界で、

 名前のない住人と出会った。


 敵ではない。

 味方でもない。


 ただ、在るもの。


 その在り方を、

 彼女たちは尊重した。


 ――殴らずに、進むという選択を。


 それもまた、

 強さだった。

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