第5話 強者は、名乗らずに来る
昼のギルドは、騒がしかった。
だが、その喧騒の中に、不自然な静けさが混じっている。
アリエスはベンチに腰掛け、冒険者証を指で弄びながら、その違和感に気づいた。
(……来てる)
理由は分からない。
でも、胸の奥が少しだけ高鳴る。
視線を上げると、
扉の前に立つ影があった。
大柄。
装備は簡素。
だが、隙がない。
その男が一歩踏み出した瞬間、
ギルド全体の空気が、はっきりと変わった。
――強い。
アリエスの視界が、即座に切り替わる。
《ステータス・オーバールック》
名前:バルド
種族:人間
年齢:推定30代
職業:格闘家
Lv:31
HP:960 / 960
MP:110 / 110
STR:118
DEX:82
VIT:95
INT:34
LUK:22
スキル:
・体術極 Lv4
・剛拳 Lv3
・気迫 Lv3
・戦闘集中 Lv2
耐性:
・打撃△
・斬撃△
・雷△
特記事項:
・致命打を受けにくい体構造
(……へえ)
アリエスの口元が、自然と緩む。
(私よりSTR高いじゃん)
久しぶりだ。
ちゃんと強い相手。
男は、まっすぐこちらを見た。
「お前が、アリエスか」
「そうだけど?」
軽い返事。
だが、周囲は息を呑んでいる。
「あの人……知ってるぞ……」
「“地砕きのバルド”だ……」
「Bランク最上位……!」
ざわめきが広がる。
男――バルドは、腕を組んだ。
「指名依頼の噂を聞いた。
格上を殴り倒す、空から来た少女……らしいな」
「うん。だいたい合ってる」
バルドは、口の端を上げた。
「なら、確かめる」
剣も、槍も抜かない。
素手だ。
「場所を借りる。
外だ」
拒否する理由は、ない。
「いいよ」
アリエスは立ち上がり、翼を広げた。
「壊してもいい場所の方が、楽だし」
⸻
ギルド裏の訓練広場。
人だかりができるのは、早かった。
バルドは地面に足を踏みしめ、拳を構える。
アリエスは、上空へ。
(……最適破壊ルート)
《最適破壊ルート》
① 正面打ち合い(非推奨)
② 高速接近→側面連撃(成功率67%)
③ 上空急降下→連撃→硬直誘発(成功率89%)
(③で行こ)
「来ないのか?」
バルドが挑発する。
「行くよ」
次の瞬間、アリエスは消えた。
――バンッ!!
空中加速。
音が遅れて届く。
バルドが地面を蹴り、迎撃に出る。
「速い……!」
拳と拳がぶつかる。
――ガッ!!
衝撃が走る。
だが、アリエスは止まらない。
二撃、三撃。
翼で姿勢を制御し、
空中で連打。
バルドが歯を食いしばる。
「面白い……!」
だが、次の瞬間――
アリエスは、真上へ跳んだ。
「上、取った」
影が、落ちる。
――ドォォンッ!!!
急降下の一撃が、
バルドの肩口を直撃。
地面が割れ、土煙が舞う。
バルドが膝をついた。
状態異常:
・体勢崩れ
・右肩機能低下
(今)
アリエスは、最後の一撃を叩き込む。
――ゴンッ!!
バルドの意識が、完全に途切れた。
――静寂。
訓練広場に、風の音だけが残った。
倒れ伏す男――
“地砕きのバルド”。
Bランク最上位。
地上では名の通った強者。
その男が、
今は仰向けに転がり、動かない。
戦闘終了
討伐対象:
・バルド Lv31(無力化)
アリエスは、ゆっくりと息を吐いた。
(……強かった)
胸の奥が、じんわりと軽い。
戦い終えた後の、あの感覚。
その直後――
視界に、はっきりとした光が走った。
《経験値獲得》
獲得EXP:2,860
(格上討伐ボーナス・単独撃破補正・指名戦闘補正)
レベルアップ!
Lv 3 → Lv 4
「……お、また上がった」
アリエスは、あっけらかんと呟く。
だが、周囲はそうはいかなかった。
「い、今の見たか……?」
「Bランク倒して……レベルアップ……?」
「どんな成長速度だよ……」
ざわめきが、どよめきへ変わる。
アリエスの視界には、更新された数値が並んでいた。
《ステータス・オーバールック》
名前:アリエス
種族:天翼族ハーフ
年齢:15
Lv:4
HP:420
MP:210
STR:112(+5)
DEX:68(+2)
VIT:82(+5)
INT:47(+1)
LUK:42(+1)
新規獲得:
・剛撃強化 Lv1
・対格上補正 Lv1
「STR、また伸びてる」
拳を握ると、
空気がわずかに鳴った。
「やっぱりさ」
アリエスは、倒れたバルドを一瞥し、にっと笑う。
「強いのを殴る方が、成長するよね」
誰も、否定できなかった。
⸻
しばらくして、バルドが目を覚ました。
起き上がろうとして、苦笑する。
「……参った」
アリエスは翼を畳み、近づいた。
「強かったよ」
それは、嘘じゃない。
バルドは、短く笑った。
「次は……もっと上を連れてくる」
「うん。待ってる」
そのやり取りを見て、
周囲は確信した。
――この少女は、
格上を倒すたびに、さらに強くなる。
街に現れた“強者狩り”は、
もう止まらない。




