第49話:世界修復者としての第一要請
要請は、音もなく届いた。
鐘でもなく、使者でもなく、
空気が――揺れた。
アウレリオンの高台で、
アリエスは空を見上げていた。
「……呼ばれてる?」
胸の奥に、
雲上迷宮の“心臓”と同じ感触。
次の瞬間、
視界の端に淡い光が浮かぶ。
《世界干渉通知》
発信元:世界安定機構(暫定)
分類:修復要請(第一例)
緊急度:高
「……ほんとに来た」
セラフィナが、静かに隣へ立つ。
「選んだのだから」
「うん」
アリエスは、短く頷いた。
世界修復者。
そう呼ばれる立場になった自覚は、
まだ薄い。
だが――
呼ばれた理由は、分かる。
《セブン・ブラッド》が集まる。
テーブルの中央に、
光の地図が投影された。
「場所は?」
レオンが、即座に聞く。
「……境界域」
カイが、解析結果を示す。
「国家でも、ダンジョンでもない。
世界の継ぎ目だ」
地図の一点が、
脈打つように明滅している。
異常名:境界崩壊
影響:
・現実と空間の剥離
・破滅級未満/災害級超
「……破滅級じゃない?」
リィアが、眉をひそめる。
「破滅級になる前」
セリスが、静かに補足した。
「放置すれば、
破滅級より厄介になる」
エルナが、息を吸う。
「……修復、ですね」
「うん」
アリエスは、地図を見る。
「殴る?」
全員が、彼女を見る。
「殴る」
即答だった。
「壊れてるなら、殴って直す」
それが、選んだ役割。
出発前。
セラフィナが、アリエスの前に立つ。
「無理は、しないで」
「する」
即答。
だが、
次の言葉が続く。
「……でも、
一人じゃやらない」
セラフィナは、少しだけ目を細めた。
「それなら、いい」
境界域は、奇妙な場所だった。
空が割れ、
地面がずれ、
音が遅れて届く。
存在しているのに、
現実感がない。
《ステータス・オーバールック》
境界域異常点
特性:
・現実剥離
・修復可能(外力要)
「……ここ、
殴る場所、間違えると危ないね」
アリエスが、慎重に言う。
珍しい。
「カイ」
「分かってる」
カイが、即座に指示を出す。
「殴るのは、アリエスだけ。
他は、固定と支援」
「了解」
全員が、即応する。
アリエスは、
崩れかけた“現実の継ぎ目”の前に立つ。
拳を、握る。
胸の奥が、静かだ。
破滅級の時の高揚とは、違う。
「……直す、か」
息を吐く。
一撃。
――ドンッ。
派手な音はない。
だが、
空間が、ゆっくり噛み合っていく。
歪みが、収束する。
剥離が、縫い合わさる。
修復進行:60%
「もう一発」
――ドンッ。
修復完了
境界域が、
静かに、現実へ戻った。
光が、七人を包む。
《経験値獲得》
アリエス:Lv38 → Lv39
STR:320 → 326
レオン:Lv53 → Lv54
VIT上昇
セリス:Lv51 → Lv52
INT上昇
ミラ:Lv48 → Lv49
DEX上昇
リィア:Lv48 → Lv49
STR上昇
エルナ:Lv49 → Lv50
修復支援適性獲得
カイ:Lv43 → Lv44
境界解析権限拡張
世界が、静かになった。
帰路。
アリエスは、雲の上で伸びをする。
「……思ったより、地味」
「修復だからな」
レオンが、頷く。
「でも」
アリエスは、少し笑った。
「ちゃんと直った」
それで、十分だった。
《セブン・ブラッド》は、
世界修復者としての一歩を踏み出した。
破壊するためではなく、
壊れないように殴るために。




