第43話 雲上の迷宮、突入――落ちたら終わり
雲は、下にあった。
見上げれば青。
見下ろせば白。
その狭間に、迷宮が浮いている。
《スカイ・ノマド》の甲板で、
《セブン・ブラッド》は並んで立っていた。
誰も、軽口を叩かない。
理由は、単純だ。
「……落ちたら、終わり」
リィアが、ぽつりと呟く。
冗談じゃない。
確認だ。
「戻れない、消える、救出不能」
カイが、淡々と条件を列挙する。
「地上ダンジョンみたいに、
“這い上がる”は存在しない」
エルナが、静かに息を吸う。
「回復も、蘇生も、
落下には間に合いません」
空のダンジョンは、
最初から“命”を賭けさせる。
迷宮の縁は、床がない。
島のような足場が、
不規則に点在しているだけ。
間は、すべて空。
《ステータス・オーバールック》
雲上迷宮・第一層
特性:
・落下=消失
・飛行制限(非天翼)
・足場不安定
「……なるほど」
アリエスは、翼を広げてみせる。
「私だけ、自由」
誰も、それを羨まない。
「自由すぎるのも、
危険だぞ」
レオンが、低く言った。
「全員、
繋がって動く」
「了解」
アリエスは、翼を畳んだ。
飛べるが、飛ばない。
それが、この迷宮への答えだった。
最初の一歩。
石の足場に、
アリエスが降りる。
――カン。
軽い音。
足場は、沈まない。
「大丈夫」
その一言で、
次々に仲間が続く。
ロープ。
魔導固定具。
影の杭。
各自が、
“落ちないための手段”を使う。
全員が足場に乗った、その瞬間――
迷宮が、動いた。
――ギィ……。
低い音。
足場が、ゆっくりと回転する。
「来る!」
ミラの声。
空気が、歪む。
雲の中から、
羽のない影が浮かび上がった。
敵:スカイ・ハンター
Lv:48
特性:
・空間浮遊
・引き落とし
「……落としに来るやつだ」
レオンが、盾を構える。
敵は、狙っている。
足場ではなく、人を。
――シュッ!
影が、
エルナの足元を薙ぐ。
「っ!」
アリエスが、即座に動いた。
――ドンッ!
翼で跳び、
身体ごと、盾になる。
「エルナ、後ろ!」
「ありがとうございます!」
だが、敵は一体ではない。
背後から、
別の影が、ミラを狙う。
「来た」
ミラは、
影に杭を打ち込み、
自分を固定。
――ガンッ!
刃が、敵を弾く。
「今だ!」
セリスが、短詠唱。
――パァン!
雷が走り、
敵の動きが鈍る。
「落とす!」
リィアが、
真正面から跳び込み、
拳で打ち抜く。
――ズガンッ!
スカイ・ハンターは、
霧のように散った。
撃破
光が、全員に届く。
《経験値獲得》
アリエス:Lv30 → Lv31
STR:270 → 276
リィア:Lv42 → Lv43
STR:229 → 235
セリス:Lv45 → Lv46
INT:374 → 380
だが――
足場が、消えた。
「――っ!」
踏み出した先が、空。
一瞬の無音。
アリエスは、
反射で翼を広げた。
だが、飛行制限。
自由には動けない。
「……間に合う!」
レオンが、
盾を投げた。
アリエスは、
それを踏み台にして跳ぶ。
――ガッ!
元の足場に戻る。
落ちなかった。
全員が、息を吐く。
静寂。
迷宮は、
まるで満足したかのように、
次の足場を出現させた。
「……ねえ」
アリエスが、少しだけ笑う。
「ここ、
殴るだけじゃダメだね」
レオンが、頷く。
「落ちないことが、
最優先だ」
カイが、結論を出す。
「この迷宮は、
戦闘より判断を試している」
誰も、異論はない。
雲上の迷宮は、
最初から言っていた。
――落ちたら、終わり。
だからこそ。
七人は、
慎重に、確実に、
前へ進む。
地上の最難関を越えた者たちでも、
空は、容赦しない。
だが――
それでも、進む。
ここが、
次の戦場だから。




