第41話 雲の都へ――天翼族の国
雲を、突き抜けた。
《スカイ・ノマド》の船体が高度を上げるたび、
空気は澄み、光は柔らかくなる。
「……見えてきた」
アリエスが、前方を指さした。
雲の海の向こう。
白い塔と浮島が連なる都市が、ゆっくりと姿を現す。
アウレリオン。
天翼族の都。
「でか……」
リィアが、素直に呟く。
「地上の都市とは、スケールが違うね」
セリスが、感嘆混じりに言った。
その瞬間――
空が、騒がしくなった。
上から、横から、
白い影が次々と集まってくる。
「……あれ」
アリエスが、目を瞬かせる。
「迎え、だな」
レオンが、落ち着いた声で言った。
⸻
飛行船が都市の外縁に近づくと、
歓迎の音が鳴り響いた。
鐘。
風鈴のような澄んだ音。
そして、翼の羽音。
「帰ってきたぞー!」
「アリエスだ!」
「踏破者だ!」
空を飛ぶ天翼族たちが、
船の周囲を旋回する。
アリエスは、思わず笑った。
「……大げさじゃない?」
「大げさでいい」
いつの間にか、隣にいたセラフィナが言った。
「誇る日だから」
船が着地すると、
広場にはすでに人が集まっていた。
花びらが舞い、
楽器の音が流れ、
テーブルには料理が並ぶ。
「え、パーティ?」
アリエスが、きょとんとする。
「そうよ」
セラフィナは、当然のように頷いた。
「凱旋なんだから」
⸻
宴は、賑やかだった。
天翼族特有の軽やかな笑い声。
空を渡る風に合わせた音楽。
「地上で破滅級を殴ったって、本当?」
「奈落回廊、消えたって聞いたけど?」
「世界会議が大騒ぎよ!」
次々に声がかかる。
アリエスは、皿を手に持ったまま、肩をすくめた。
「殴ったら、壊れただけだよ」
「それがすごいの!」
周囲が、どっと笑う。
「噂じゃ、
**“神が止めた少女”**って言われてるわよ?」
「えっ」
アリエスは、思わずセラフィナを見る。
「母さん、なにしてくれたの」
セラフィナは、涼しい顔だ。
「止めただけ」
天翼族たちが、楽しそうに頷く。
「神話が一つ増えたわね」
「でも、本人はこの通りだし」
視線が、アリエスに集まる。
料理を頬張っている、
いつものアリエス。
「……見ないで」
「見ちゃうでしょ」
笑いが、また広がった。
⸻
少し落ち着いた頃。
高台から、都を見下ろす。
雲の下には、
さっきまでいた地上が、遠くに見える。
「……不思議だね」
アリエスが、静かに言う。
「地上で戦って、
空で祝われて」
「どちらも、あなたの居場所よ」
セラフィナは、優しく言った。
「そして――」
視線を、空の彼方へ向ける。
「次は、空の試練」
アリエスの胸が、自然と高鳴った。
「空に浮かぶダンジョン、だよね」
「ええ」
「楽しみ」
即答だった。
セラフィナは、くすっと笑う。
「その顔、久しぶりに見た」
⸻
夜。
宴は続き、
星が、雲の上に瞬いている。
《セブン・ブラッド》の面々は、
それぞれに杯を手に、談笑していた。
「ここ、居心地いいな」
レオンが、珍しく言う。
「でも」
アリエスは、拳を軽く握る。
「帰る場所があるって分かると、
もっと遠くに行ける」
皆が、静かに頷いた。
雲の都アウレリオンは、
彼女たちを迎え、
そして送り出す場所。
次は――
空に浮かぶダンジョン。
夜風が、翼を揺らした。




