第4話 初指名、空から落とす
ギルドの掲示板は、朝から騒がしかった。
紙の擦れる音、酒杯の鳴る音、依頼の奪い合い。
だが、アリエスの周囲だけ、妙に静かだ。
理由は簡単。
昨日の一件が、もう広まっている。
三人のベテランをまとめて倒し、
その場でレベルアップした少女。
しかも、天翼族ハーフ。
翼付き。
近づく者は、少ない。
(……退屈)
胸の奥が、少しだけざわつく。
戦っていない時間が長いと、どうも落ち着かない。
その時、受付嬢が咳払いをした。
「アリエスさん。……指名依頼です」
「指名?」
初めて聞く言葉に、首を傾げる。
受付嬢は、少し緊張した面持ちで書類を差し出した。
「正式な依頼主からの直接指名です。
対象は……ランクC相当ですが」
そこで、言葉を切る。
「討伐対象のレベルは、推定Lv25以上」
周囲がざわついた。
「Lv2に格上すぎるだろ……」
「昨日のことがあるからって……」
アリエスは、書類を受け取る。
《指名依頼》
依頼主:街道警備隊
内容:魔獣討伐
想定Lv:25〜27
被害:荷馬車複数破壊、死傷者あり
視界が切り替わる。
《ステータス・オーバールック》
対象(情報断片):グレイ・バイター
種族:魔獣(大型)
想定Lv:26
特性:
・高筋力
・突進攻撃
・咬合力強
弱点候補:
・首関節
・下顎基部
・突進後の硬直
(……倒せる)
即断だった。
「受ける」
ざわっ、と空気が動く。
「ま、待ってください!」
受付嬢が慌てて言う。
「単独ですか? 護衛を――」
「いらない」
アリエスは笑った。
「格上の方が、上がりやすいから」
意味を理解できた者だけが、息を呑んだ。
⸻
街道は、昼でも静かだった。
草が踏み荒らされ、車輪の跡が途中で途切れている。
空気が、重い。
アリエスは翼を広げ、上空へ。
(……来る)
次の瞬間、地面が爆ぜた。
――ドゴンッ!!
灰色の巨体が、突き上がるように飛び出す。
《ステータス・オーバールック》
名前:グレイ・バイター
種族:魔獣
Lv:26
HP:820 / 820
MP:— —
STR:92
DEX:34
VIT:88
INT:12
LUK:8
スキル:
・突進
・噛み砕き
・咆哮
耐性:
・斬撃△
・打撃△
・雷△
弱点:
・突進後硬直(1.8秒)
・首関節(被ダメ1.6倍)
「……でっか」
だが、怖くはない。
《最適破壊ルート》
① 突進を誘発
② 硬直に合わせて急降下
③ 首関節を叩き割る
勝率:81%
「十分!」
アリエスは、わざと低空を飛ぶ。
――グオォォッ!!
魔獣が咆哮し、突進。
「来た!」
翼で急上昇。
巨体が地面をえぐり、勢い余って止まる。
――今。
アリエスは翼を畳み、真上から落ちた。
――ズドンッ!!!
拳が首関節に直撃。
骨が砕ける感触が、はっきり伝わる。
魔獣がよろめく。
「まだ!」
二撃目。
――バギィッ!!
首が、完全に落ちる。
巨体が崩れ落ち、地面を揺らした。
戦闘終了
討伐完了
胸の奥が、一気に晴れた。
「……あー、スッキリ」
⸻
視界に、光が走る。
《経験値獲得》
獲得EXP:1,980
(格上討伐ボーナス・単独討伐補正)
レベルアップ!
Lv 2 → Lv 3
「また上がった」
更新された数値が並ぶ。
STR:107(+4)
VIT:77(+4)
DEX:64(+2)
新規獲得:
・空中加速 Lv1
「翼、いい感じ」
アリエスは満足そうに頷いた。
⸻
街に戻ると、警備隊が待っていた。
「……本当に、単独で……?」
「うん。もういないよ」
現場を確認した隊長が、絶句する。
「……報告書、どう書けばいいんだ……」
その日のうちに、
ギルドには新しい札が貼られた。
注意
指名依頼:アリエス
単独可/格上可
噂は、また一段階、広がった。
アリエス本人は、掲示板を見上げて言う。
「次、もっと強いのない?」
格上狩りは、始まったばかりだった。




