第38話:名を持つ瞬間――セブン・ブラッド
夜は、静かだった。
踏破の報が世界を駆け巡っているというのに、
高原の屋敷の庭は、いつもと変わらない。
焚き火の音。
木の爆ぜる小さな音。
七人は、円になって座っていた。
「……世界、騒がしいらしいね」
セリスが、火を見つめながら言う。
「当然だろ」
レオンが肩をすくめる。
「最難関ダンジョンを踏破して、
そのダンジョン自体が消えたんだ」
「比べるものが、なくなった」
カイが、淡々と補足する。
「評価基準が消えた以上、
世界は“評価する対象”を求める」
ミラが、くすっと笑った。
「つまり、私たち」
「だね」
アリエスは、膝を抱えた。
「……名前、呼ばれ始めてるって聞いたよ」
「呼ばれ始めてる?」
リィアが、首を傾げる。
「うん」
アリエスは、昼に聞いた噂を思い出す。
「“踏破者”とか、
“血縁の七人”とか」
「長いな」
レオンが、即座に切り捨てた。
「戦場で呼ぶには、不便だ」
エルナが、柔らかく頷く。
「確かに……
呼び名は、大切ですね」
火の向こうで、沈黙が落ちた。
誰も、急がない。
⸻
「……血縁、だよね」
ミラが、ぽつりと呟く。
「私たち」
「うん」
アリエスが、頷く。
「父さんの子で、
母さんの血が混じってて」
「偶然じゃない」
カイが、続ける。
「集まる理由があった」
レオンが、低く言った。
「血で繋がってるから、
連携が成立する」
「血、か」
リィアが、牙を見せて笑う。
「嫌いじゃない」
その言葉に、
自然と視線が集まった。
⸻
「七人」
セリスが、静かに数える。
「今は、七人」
「増えるかもしれないし、
減るかもしれない」
「それでも」
アリエスが、火を見つめる。
「今、この七人で、
あそこまで行った」
焚き火が、ぱちりと弾けた。
⸻
「……《セブン・ブラッド》」
誰かが、言った。
一瞬、誰の声か分からなかった。
「七つの血」
レオンが、噛みしめるように繰り返す。
「血縁で、七人」
「悪くない」
ミラが、頷く。
「覚えやすい」
「意味も、通る」
カイが、即座に評価する。
「外向きの名称としても、
過不足がない」
エルナが、微笑んだ。
「……皆さんらしいですね」
リィアは、拳を軽く打ち鳴らす。
「決まり!」
全員の視線が、
自然とアリエスに集まった。
「……いい?」
「うん」
アリエスは、少しだけ照れたように笑う。
「じゃあ」
立ち上がり、焚き火を背にする。
「私たちは――」
一拍。
「《セブン・ブラッド》」
その瞬間、
夜風が、少しだけ強く吹いた。
まるで、
世界がその名を聞いたかのように。
⸻
翌朝。
王都。
世界会議の追記文書に、
一行が加えられた。
奈落回廊踏破者
正式呼称:
《セブン・ブラッド》
その名は、
瞬く間に広がった。
「……セブン・ブラッドが動いたらしい」
「破滅級を殴り倒す、七人」
「血で繋がった、基準」
畏怖と期待が、同時に混じる。
⸻
一方、その当人たち。
朝食の席で、
アリエスが、のんきに言った。
「……名前ついたね」
「ついたな」
レオンが、パンをかじる。
「責任も、ついた」
「でも」
アリエスは、笑った。
「やることは、変わらない」
拳を、軽く握る。
「強いやつがいたら、
殴る」
全員が、頷いた。
名前は、
縛るためのものじゃない。
世界に知られるための旗だ。
《セブン・ブラッド》。
それは、
これから世界が向き合う
新しい“答え”の名前だった。




