第34話 奈落回廊・第五層――選択の層
階段を下り切った瞬間、
音が消えた。
風も、足音も、呼吸音さえも、
すっと吸い込まれたように消える。
そこは、白い空間だった。
壁も、床も、天井も、
境界が曖昧で、距離感が狂う。
《ステータス・オーバールック》
ダンジョン:奈落回廊・第五層
特性:
・意思干渉
・選択強制
・結果固定
「……来たね」
アリエスが、小さく笑う。
「嫌なやつ」
正面に、七つの扉が現れた。
同時に、文字が浮かび上がる。
【選べ】
・力を取れ
・仲間を取れ
・安全を取れ
・速度を取れ
・正しさを取れ
・勝利を取れ
・すべてを取れ
「……七つ」
リィアが、低く唸る。
「数、私たちと同じ」
カイが、すぐに反応した。
「一人一つ、
個別選択を強制される可能性が高い」
レオンが、拳を握る。
「分断の、進化形だな」
セリスが、静かに言った。
「今回は……心を見られる」
誰も否定しない。
扉が、それぞれに開き始めた。
引き込むような光。
拒否は、できない。
「……一度、確認」
アリエスが、振り返る。
全員と、目を合わせる。
「選ぶのは、自由」
拳を、軽く鳴らす。
「でも――
後悔する選択は、殴って壊す」
それだけで、十分だった。
七人は、同時に動いた。
アリエスの選択
【すべてを取れ】
扉の向こうは、何もない空間だった。
敵も、道も、出口もない。
ただ、声だけが響く。
「欲張りだな」
アリエスは、首を傾げる。
「全部、欲しいよ」
その瞬間、
空間が敵に変わった。
敵:ジャッジ・オブ・チョイス
Lv:50
特性:
・選択否定
・全能力試練
「なるほど」
アリエスは、笑う。
「全部試す、ってことか」
翼を広げ、
正面から突っ込んだ。
他メンバーの選択(並行)
レオン:仲間を取れ
→ 自身が重傷を負う代わりに、
仲間へのダメージを肩代わり
(VIT上昇)
セリス:正しさを取れ
→ 強力な力を捨て、
仲間の魔力安定化を選択
(支援性能上昇)
ミラ:速度を取れ
→ 影を捨て、
純粋な反応速度を獲得
(DEX大幅上昇)
リィア:勝利を取れ
→ 獣性を完全解放
制御困難だが、圧倒的火力
(STR上昇)
エルナ:安全を取れ
→ 自身を犠牲に、
全員に致死回避付与
(回復・補助強化)
カイ:力を取れ
→ 情報処理能力を極限まで引き上げ
(解析系スキル強化)
アリエス側
敵は、
拳を受け、
翼を裂き、
魔力を奪いに来る。
「……全部来るんだ」
アリエスは、息を整える。
《最適破壊ルート》
・存在そのものを否定
成功率:51%
「……半分超えた」
なら、十分。
全力で殴る。
――ズガァァンッ!!!
空間ごと、粉砕。
選択を強いる“意思”が、砕け散った。
次の瞬間。
七つの空間が、一つに戻る。
全員、膝をついていたが、
誰も欠けていない。
第五層 試練突破
光が、全員を包む。
《経験値獲得》
アリエス:Lv27 → Lv28
STR:247 → 254
レオン:Lv44 → Lv45
VIT:334 → 342
セリス:Lv42 → Lv43
INT:368 → 374
ミラ:Lv40 → Lv41
DEX:336 → 346
リィア:Lv39 → Lv40
STR:221 → 229
エルナ:Lv41 → Lv42
支援持続時間上昇
カイ:Lv35 → Lv36
全体解析共有強化
静寂。
アリエスが、最初に立ち上がった。
「……ね」
皆を見る。
「選んだもの、
全部、正解だったと思う」
誰も、反論しなかった。
それぞれが、
自分の選択に、納得している。
下を見下ろす。
第六層が、待っている。
「……次は」
アリエスは、少しだけ笑った。
「たぶん、
ダンジョンそのものが来るね」
ワクワクは、消えない。
奈落回廊は、
まだ、終わる気がなかった。




