第3話 ベテランの流儀
ギルドの空気は、昼と夜で違う。
昼は仕事。
夜は酒と自慢話、そして――余計な絡み。
掲示板の前に立った瞬間、アリエスの背中に視線が刺さった。
値踏み、嫉妬、そして露骨な敵意。
「おい、そこの羽付き」
振り向くと、鎧を着た男が三人。
年は三十前後。傷だらけの装備に、慣れた立ち方。
――ベテラン冒険者だ。
視界が切り替わる。
情報が、上から下まで流れた。
《ステータス・オーバールック》
名前:ガルド
種族:人間
年齢:32
職業:重戦士
Lv:22
HP:410 / 410
MP:45 / 45
STR:62
DEX:28
VIT:58
INT:18
LUK:12
スキル:
・重装習熟 Lv3
・挑発 Lv2
・剛力斬 Lv2
・防御姿勢 Lv1
耐性:
・斬撃△
・打撃△
・雷×
弱点:
・側面からの打撃
・連続攻撃に弱い
(……遅い、硬い、当たれば倒れる)
続いて、隣の二人。
名前:ベン
種族:人間
年齢:29
職業:斥候
Lv:19
HP:350 / 350
MP:60 / 60
STR:48
DEX:44
VIT:41
INT:22
LUK:15
スキル:
・奇襲 Lv2
・短剣術 Lv2
・回避 Lv1
耐性:
・斬撃△
・打撃×
名前:ロッカ
種族:人間
年齢:27
職業:戦士
Lv:18
HP:330 / 330
MP:50 / 50
STR:50
DEX:36
VIT:39
INT:20
LUK:14
スキル:
・連携攻撃 Lv2
・剛打 Lv1
耐性:
・斬撃△
・打撃×
アリエスは、心の中で即断した。
(全員、私より弱い。だいぶ)
勝率が、はっきりと表示される。
想定戦闘結果:
・被弾率:低
・討伐時間:8秒
・最適破壊ルート:あり
勝率:98%
「……で?」
アリエスが首を傾げる。
「STR100? ガキの冗談だろ」
ガルドが笑う。
「試すか?」
周囲が、さっと距離を取った。
“よくある光景”だ。
「ここ、殴っていい場所?」
「死ななきゃ問題ねえ」
「了解」
その瞬間、翼が開いた。
――ザッ!
風が巻き、床の埃が舞う。
「屋内だぞ――!」
言い終わる前に、アリエスは真上へ跳んだ。
天井すれすれで一瞬静止。
《最適破壊ルート》
① ベン(DEX高だが打撃弱点)を即落とし
② ロッカを巻き込み処理
③ ガルドを正面粉砕
「まずは――」
急降下。
――ドォンッ!!
拳が、ベンの肩口に直撃。
床に叩きつけられ、気絶。
「なっ――!」
ロッカが振り向いた瞬間、翼で横薙ぎ。
――バギッ!!
二人まとめて吹き飛び、壁に激突。
残るはガルド一人。
「クソッ……!」
剣を構えて突っ込むが、遅い。
弱点表示:側面 → 防御姿勢解除中
「ベテランってさ」
一歩踏み込み、拳を引く。
「当たらない前提で戦いすぎ」
――ゴンッ!!
鎧ごと、胸板を叩き潰す。
ガルドは宙を舞い、酒樽に突っ込んで沈黙。
戦闘終了
討伐時間:6.2秒
被ダメージ:0
ギルド内が、静まり返った。
誰も拍手しない。
誰も笑わない。
ただ、理解した。
「……えっと」
アリエスは周囲を見回す。
「これ、私が悪い?」
受付嬢が遠くで頭を抱える。
ソウタが小声で呟いた。
「……地上のベテランが、子どもに粉砕される日が来るとは」
アリエスは翼を畳み、肩を回した。
胸の奥が、すっと軽い。
(やっぱ、戦うと調子いい)
「次、誰?」
その一言で、噂は確定した。
――空から来た少女に、絡むな。
――空気が戻る。
酒樽の破片が床に転がり、
倒れた三人は、誰一人動かない。
戦闘終了
討伐対象:
・ガルド Lv22(無力化)
・ベン Lv19(無力化)
・ロッカ Lv18(無力化)
アリエスは翼を畳み、軽く首を回した。
(うん。ちょうどいい運動)
胸の奥が、すっと軽い。
いつもの感覚――戦い終えた後の、あの晴れやかさ。
その直後、視界に光が走った。
《経験値獲得》
獲得EXP:1,240
(格上ボーナス適用)
レベルアップ!
Lv 1 → Lv 2
「……あ、上がった」
本人は、拍子抜けするほど平然としている。
だが、周囲は違った。
ざわっ、と音が立つ。
「い、今……光った?」
「レベル、上がったよな……?」
「三人まとめて倒して……?」
受付嬢が、慌てて記録板を確認する。
「えっ……!? ほ、本当に……」
アリエスの視界には、更新された数値が並んでいた。
《ステータス・オーバールック》
名前:アリエス
種族:天翼族ハーフ
年齢:15
Lv:2
HP:350
MP:190
STR:103(+3)
DEX:62(+2)
VIT:73(+3)
INT:46(+1)
LUK:41(+1)
新規獲得:
・打撃熟練 Lv1
「STRも上がってる」
アリエスは、握った拳を見て満足そうに頷く。
「やっぱ、殴ると成長するんだ」
理屈は分からない。
でも、結果は見える。
ソウタが、引きつった笑顔で呟いた。
「……地上で、レベル1が三人のベテラン倒してレベルアップって……」
「ダメだった?」
「い、いや……前代未聞です」
アリエスは肩をすくめた。
「でも、勝ったでしょ?」
その一言で、すべてが片付いた。
ギルドの冒険者たちは、
改めて理解する。
――この少女は、
戦えば戦うほど強くなる。
しかも、
格上を殴って成長するタイプだ。
「次は、もっと強いのがいいな」
アリエスは掲示板へ向き直る。
胸の奥が、また少しだけ騒いだ。
――地上は、思った以上に楽しい。




