第28話 血は、集まる
雲の都を発ったのは、夜明け前だった。
セラフィナは、翼を広げる前に一度だけ振り返った。
アリエスは、その横で空を見上げている。
「……父さんに、会いに行くの?」
「ええ」
短い返事。
迷いはない。
神と呼ばれ、世界を震わせたその翌日。
セラフィナが選んだのは――家族だった。
「あなたも、一緒に来なさい」
「うん」
アリエスは、理由を聞かなかった。
胸の奥が、少しだけ騒いでいる。
(……なんか、でかいことになりそう)
直感は、だいたい当たる。
辿り着いたのは、王都から離れた高原だった。
結界。
広い屋敷。
畑と訓練場、そして――人の気配が多い。
「……人、いっぱい」
「でしょうね」
セラフィナは、淡々としている。
扉を開ける前に、アリエスの視界が勝手に反応した。
《ステータス・オーバールック》
反応多数:
・高戦闘能力反応 × 複数
・年齢層:10代~20代
・血縁反応:強
「……血縁?」
その瞬間、扉が開いた。
「セラフィナ?」
低く、落ち着いた声。
中に立っていたのは、黒髪の男。
笑っているが、隙がない。
――ユウ。
アリエスの父だった。
《ステータス・オーバールック》
名前:ユウ
種族:人間
Lv:???
特記事項:
・複数契約
・血縁拡張
・適応成長(極)
(……見えないとこ、多すぎ)
それだけで、只者じゃないと分かる。
「久しぶり」
セラフィナの声は、穏やかだった。
「……そうね」
ユウは、アリエスに視線を移す。
「……大きくなったな」
「初めまして」
アリエスは、素直に頭を下げた。
「アリエス。あなたの娘」
「知ってる」
即答。
「ずっと、見てた」
意味深な言葉。
「集まって」
ユウが声をかけると、
奥から人影が次々に現れた。
少年、少女、青年、女性。
年齢も、装備も、雰囲気もバラバラ。
だが――
全員、強い。
視界に、表示が走る。
《ステータス・オーバールック》
血縁反応:確認
・剣士型(高STR)
・魔導特化(高INT)
・獣化能力者
・影操作
・治癒特化
「……多くない?」
「多い」
ユウは、あっさり認めた。
「全員、お前の異母兄弟姉妹だ」
アリエスは、一瞬固まった。
「……え?」
次の瞬間。
「よろしく、妹!」
「噂の破滅級殴り担当か」
「強そうじゃん!」
口々に声が飛ぶ。
混乱より先に、理解が来た。
(……私だけじゃなかったんだ)
「で、だ」
ユウが、手を叩く。
「セラフィナが来た理由は、分かってる」
視線が、集まる。
「世界が、きな臭い」
短く、核心。
「だから――」
にっと笑う。
「全員で組む」
ざわっ、と空気が動く。
「最強の血縁パーティだ」
アリエスの胸が、強く鳴った。
(……楽しそう)
セラフィナは、静かに言う。
「一人で背負わせる気はない」
アリエスを見る。
「あなたには、仲間が必要」
「……うん」
否定しなかった。
周囲を見渡す。
強い。
癖がある。
でも――信頼できそうだ。
「じゃあ」
アリエスは、笑った。
「一緒に、殴りに行こ」
即、合意。
ユウは、地図を広げた。
「行き先は、ここ」
赤く囲まれた地点。
「最難関ダンジョン《奈落回廊》」
世界で、まだ誰も踏破していない場所。
「試運転には、ちょうどいい」
アリエスの拳が、自然と握られる。
胸の奥が、久しぶりに大きく高鳴った。
「……最高じゃん」
血が集まり、
力が揃い、
目的が定まる。
最強の血縁パーティは、ここに誕生した。
その夜。
アリエスは、空を見上げて思った。
(……次は、一人じゃない)
それだけで、
世界の見え方が、少し変わる。
だが――
殴る気持ちは、変わらない。
次は、みんなで。




