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空に立つ翼 ― 天翼族の少女は殴り倒す ―  作者: てん


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27/58

第27話 神が、止めた日。

 王都郊外の訓練場は、いつもより人が多かった。


 破滅級を殴り続け、世界を震わせた少女――

 アリエスの姿を一目見ようと、

 遠巻きに集まる者が増えていたからだ。


 誰もが、空を見上げる。


「……今日は、静かだな」


 アリエスは、雲の流れを目で追っていた。

 胸の奥は満ちている。

 戦い終えた後の、あの澄んだ感覚。


 だが――


 影が、落ちた。


 それは、アリエスの翼よりも大きい。


 次の瞬間、空が叩き割られる。


 ――ドンッ!!


 衝撃波が走り、

 見物人たちが思わず後ずさる。


「な、なんだ……!?」


 白い翼。

 圧倒的な存在感。


 セラフィナだった。


 ただ立っているだけで、

 周囲の空気が重くなる。


 誰かが、震える声で呟く。


「……神……?」



 アリエスは、反射的に身構えた。


 視界が勝手に切り替わる。



《ステータス・オーバールック》

名前:セラフィナ

種族:天翼族(純血)

Lv:100

HP:999 / 999

MP:999 / 999

STR:999

DEX:999

VIT:999

INT:999

LUK:999

特記事項:

・全ステータス上限到達

・概念干渉耐性(極)



「……え」


 理解する前に――


 殴られた。


 ――バシンッ!!



 音は軽い。

 それなのに、身体が弾かれ、地面を滑る。


「――っ!!」


 受け身を取ろうとして、足が震える。


 立てない。


 訓練場が、凍りついた。


「……あの子が……吹き飛ばされた……?」


「破滅級を殴った、あの少女が……?」


 セラフィナは、歩いてくる。


 翼は広げない。

 走らない。


 それでも、誰も近づけない。


「……調子に、乗りすぎ」


 低い声。

 怒りを抑えた、母の声。


「世界を守った?

 破滅級を止めた?」


 一歩、近づく。


「――だから何」


 アリエスは、言い返そうとした。


「だって……私、強いし……」


 声が、震える。


「勝てるし……殴れるし……」


 その言葉に、

 セラフィナの拳が止まった。


 次の一撃は――

 殴らない。


 額に、軽く指を当てる。


 ――コン。


 それだけなのに。


 アリエスの目から、涙が溢れた。


「……っ、いた……」


 自分でも、驚く。


 破滅級と殴り合っても、

 一滴も出なかった涙。


 母の前で、

 初めて零れた。


「……怖かった……」


 その声は、

 十五歳の少女そのものだった。



 セラフィナは、深く息を吐いた。


 そして――

 アリエスを抱きしめた。


「……ばか」


 小さく、呟く。


「強いのは、分かってる。

 でもね」


 背中を、ぽんぽんと叩く。


「無茶をしていい理由には、ならない」


 アリエスは、母の胸に顔を埋める。


「……ごめんなさい……」


 その光景を、

 人々は、息を呑んで見ていた。



 誰かが、膝をついた。


「……神だ……」


 別の誰かが、震える声で言う。


「神が……

 あの少女を、止めた……」


 言葉は、

 勝手に形を持ち始める。


 破滅級を殴る少女。

 その少女を、ただ一撃で止める存在。


 噂は、

 その日のうちに、街を出た。



 王都。


「神が降りてきた?」


「白翼の女神が、

 破滅級の担い手を戒めた……?」


 王国。


「抑止力の上位存在……?」


 他国。


「……あれは、神話だ」


 世界は、

 別の物語を作り始めた。



 その夜。


 訓練場の片隅で、

 アリエスはベンチに座っていた。


 目は赤い。

 鼻も、少し。


 セラフィナが、隣に腰掛ける。


「……世界、騒がしくなるわね」


「……母さんのせい」


「私のせい」


 セラフィナは、あっさり認めた。


「でも」


 アリエスを見る。


「止められるのは、

 今のうちだけ」


 アリエスは、少しだけ笑った。


 まだ、涙目のまま。


「……神って呼ばれてるよ」


「勝手に言わせておきなさい」


 セラフィナは、空を見上げる。


「大事なのは、

 あなたが生きてること」



 その日から、世界に新しい噂が流れた。


破滅級を殴る少女がいる。

だが――

神が、それを止めた。


 それは、

 恐怖を和らげるための物語。


 そして同時に、

 次の神話の始まりだった。


 アリエスは、母の肩にもたれながら、呟く。


「……次は、ちゃんと話してから殴る」


 セラフィナは、微笑んだ。


「それでいい」


 神が止めた日。

 世界は、ほんの少しだけ、安心した。


 ――それが、

 本当の意味での“抑止”だった。



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