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空に立つ翼 ― 天翼族の少女は殴り倒す ―  作者: てん


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第25話 破滅級計画、始動

 世界会議が終わった翌日。


 表向き、世界は静かだった。


 国境は平穏。

 交易は通常運行。

 魔獣被害も、報告なし。


 だが――

 水面下では、確実に何かが動いていた。



 砂漠国家サハラーム


 地下深層、外部から完全に遮断された研究区画。


「進行度は?」


 白衣の男が、端末を叩く。


「魔力集積率、六十五%。

 このまま行けば、破滅級相当の出力になります」


「制御は?」


「……正直、できません」


 一瞬の沈黙。


「だが、彼女が来る」


 誰かが、ぽつりと言った。


「完成すれば、

 必ず“彼女”が来る」


 それが、計画の前提だった。



 氷雪国家ノルディア


 永久氷床の下。


 巨大な魔導炉が、低く唸っている。


「封印式を三重に重ねろ」


「意味はありますか?」


「意味はない」


 司令官は、冷たく言った。


「殴られる前提だ」


 研究員の顔が、引きつる。


 だが、誰も止めない。


 世界はもう、

 “止められないものを用意する”段階に入っていた。



 森林国家エルヴェイン


 古代樹の根元。


 精霊結界の奥で、

 “育ててはいけないもの”が、静かに脈打つ。


「本当に、これで良いのですか……」


「良くない」


 長老は、目を閉じた。


「だが、他国が作るなら、

 我々も“知っておく”必要がある」


 破滅級を、学習対象として。


 それもまた、狂気だった。



 共通しているのは、一点。


 誰も、破滅級を制御しようとしていない。


 制御するのは――

 アリエスだ。


 完成させ、呼び、殴らせる。


 それが、

 新しい“安全保障”。


 異常だと、分かっている。

 だが、合理的でもある。


 世界は、

 理性と狂気の境界を踏み越えた。



 一方その頃。


 アリエスは、王都郊外で空を飛んでいた。


 何も起きない空。

 何も壊れない地面。


「……暇」


 胸の奥が、むずむずする。


 理由は分からない。

 でも、近いうちに――


(来る)


 そんな気がしていた。



 その予感は、正しかった。


 世界各地で、

 同時に異常値が跳ね上がる。


魔力濃度、異常上昇。

生態系、急激変化。

未確認反応、多数。


 報告は、止まらない。


 世界地図に、

 赤い点が増えていく。


 誰もが、同じ言葉を呟いた。


「……始まった」



 その夜。


 極秘文書が、複数の国で承認される。


破滅級計画

フェーズ1:生成

フェーズ2:完成

フェーズ3:

“彼女”の介入を確認


 名前は、書かれていない。


 だが、誰もが知っている。


 空に立つ翼の少女。


 殴って、終わらせる存在。



 アリエスは、星空を見上げて笑った。


「……来るね、これ」


 ワクワクが、抑えきれない。


「次は、いくつ同時かな」


 世界は、

 破滅級を量産するという選択をした。


 それが、

 救いになるのか、破滅になるのか。


 答えは、まだ出ない。


 ただ一つだけ、確かなことがある。


 もう、後戻りはできない。


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