第24話 破滅級を、用意して
世界は、静かすぎた。
破滅級撃破から数日。
海は穏やかで、空も澄んでいる。
王都も、同盟国も、
何も起きていない。
それが、問題だった。
アリエスは城の高台に立ち、
遠くの地平線を眺めていた。
「……物足りない」
胸の奥が、微妙に落ち着かない。
殴り足りない、というより――
あの感覚が、忘れられない。
破滅級と真正面からぶつかり、
力と力で押し合い、
最後に叩き潰した、あの瞬間。
心臓が跳ね、
世界が軽くなった、あの高揚。
(……また、やりたい)
理由は単純だった。
⸻
同日。
緊急世界会議が、再び招集された。
議題は一つ。
アリエス本人からの要請。
円卓に集まる各国代表の表情は、
困惑と警戒で固まっている。
「……確認する」
老賢者が、慎重に口を開いた。
「アリエス。
君は、こう言ったな」
書類を読み上げる。
「『各国で、破滅級を用意してほしい』――と」
沈黙。
次に来たのは、ざわめきだった。
「正気か……?」
「破滅級は、抑止すべき存在だぞ」
「用意する? 作る……?」
海洋国家の代表が、青い顔で言う。
「我々は、滅びかけたのだぞ……!」
アリエスは、首を傾げた。
「でも、止めたでしょ?」
火に油。
⸻
「理由を、聞かせてもらおう」
王国代表が、深く息を吸った。
アリエスは、少し考えてから答えた。
「楽しかった」
世界が、凍りついた。
「破滅級と戦った時」
拳を握る。
「全部出し切って、
全力で殴って、
勝ったって実感できた」
言葉は、率直だった。
「だからさ」
視線を、円卓全体へ向ける。
「また、やりたい」
沈黙が、さらに深くなる。
⸻
「……君は、破滅級を」
老賢者が、慎重に言葉を選ぶ。
「“敵”ではなく、
“相手”として見ているのかね」
「うん」
即答だった。
「世界が壊れる前に、
私が殴るなら、問題ないでしょ?」
論理としては、通っている。
だが――
発想が、狂っている。
誰もが、そう思った。
⸻
砂漠国家の代表が、呻くように言う。
「破滅級は、管理できない……」
「作った時点で、
取り返しがつかない……」
アリエスは、肩をすくめた。
「完成させればいいじゃん」
代表たちが、同時に顔を上げる。
「完成?」
「うん。
完成したら、すぐ呼んで」
笑顔。
「私が、殴るから」
世界会議は、
ドン引きした。
⸻
「……待て」
王国代表が、低く言う。
「それは、抑止ではない」
「じゃあ何?」
「管理外戦力の量産だ」
アリエスは、少し考える。
「でもさ」
視線が、真っ直ぐだ。
「今の世界、
“私が来る”ってだけで止まってるでしょ?」
誰も、否定できない。
「なら、破滅級が出ても」
拳を鳴らす。
「私が行けば、終わる」
会議室に、重苦しい沈黙が落ちた。
⸻
その日の議事録には、
異例の一文が追加された。
特記事項:
アリエスは、
破滅級存在を
“自らの成長と抑止のための対象”として認識している。
評価:
危険だが、否定できない。
各国は、頭を抱えた。
破滅級を作る?
正気ではない。
だが――
止められない。
作らなければ、
別の誰かが作るかもしれない。
そして、その時も――
彼女は、殴りに来る。
⸻
一方、会議後。
アリエスは、廊下で伸びをした。
「……楽しみだな」
胸の奥が、わくわくしている。
「次は、どんなのが来るんだろ」
世界は、震えながら考える。
破滅級を恐れるか。
破滅級を“呼ぶ少女”を、どう扱うか。
答えは、まだ出ない。
だが一つだけ、確かだった。
世界は、もう後戻りできない。
彼女が、
“次”を待っている限り。




