第23話 破滅級の余波は、止まらない
海が、静まり返った。
荒れていた波は嘘のように収まり、
破滅級の残骸は、
深い海の底へと沈んでいく。
アリエスは、海面に立ったまま、深く息を吐いた。
「……うん。完全勝利」
胸の奥は、久しぶりに満ちている。
殴り切った後の、あの澄んだ感覚。
だが――
余波は、ここからだった。
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最初に動いたのは、通信だった。
王国。
ルミナリア。
海洋国家タラッサ。
そして、世界会議の常設監視機関。
破滅級、完全消滅を確認。
再発兆候なし。
海域、通常化。
短い文面。
だが、意味は重い。
破滅級が、討伐された。
しかも――
単独で。
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王都では、緊急会合が開かれていた。
「……前例がない」
誰かが、そう呟いた。
「S級ではない。
破滅級だぞ?」
「しかも、覚醒後」
王国代表は、静かに書類を閉じる。
「もはや、“抑止力”では足りない」
視線が集まる。
「では、何と呼ぶ?」
沈黙。
老賢者が、低く言った。
「基準だ」
その言葉で、全員が理解した。
――アリエスは、
“抑止力”ですらない。
世界の強さの基準になった。
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一方、他国。
歓喜も、恐怖も、同時に広がる。
「味方でよかった……」
「敵対しなくて正解だった……」
だが、同時に――
焦りも生まれる。
「このままでは、力の均衡が崩れる」
「彼女が動く場所が、正義になる」
「……止められないなら、変えるしかない」
表に出ない会話が、裏で加速する。
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そして、闇。
名も持たない場所で、
記録が更新される。
対象:アリエス
評価:破滅級撃破可能
危険度:測定不能
方針変更:
直接排除 → 誘導・分断
誰かが、低く笑った。
「殴れないなら、殴らせなければいい」
世界は、やり方を変え始めた。
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一方その頃。
アリエスは、王国の港で伸びをしていた。
「……なんか、静かだね」
騒ぎになると思っていた。
だが、意外なほど、周囲は落ち着いている。
随行官が、苦笑する。
「騒ぎすぎると、
“あなたが来る”からです」
「え?」
「破滅級が出るたびに、
あなたが来ると思われています」
アリエスは、少し考えた。
「……それ、便利じゃない?」
「便利、ですね……」
だが、同時に、重い。
アリエスは、拳を握る。
胸の奥は、まだ温かい。
(……もっと、強いのが来たらいいな)
恐れはない。
むしろ――期待だ。
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その日の夜。
世界会議の追記が、全加盟国に送られた。
追記:
破滅級案件発生時、
アリエスの判断を最優先とする。
それは、
事実上の宣言だった。
世界は、彼女に委ねられた。
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アリエスは、空を見上げる。
星は、変わらず瞬いている。
「次は……どんなのかな」
ワクワクが、止まらない。
破滅級を倒しても、
彼女の旅は終わらない。
世界が震える限り、
殴る理由は、尽きないのだから。




