第20話 世界会議、再び――矛先が変わる
世界会議は、再び招集された。
前回と同じ円卓。
同じ国章。
だが、空気はまるで違う。
誰もが、結論を知っているからだ。
「議題に入る」
老賢者が杖を鳴らす。
「ヴァルケンによる非公式行動の失敗。
および、対象――アリエスによる制圧について」
“制圧”。
誰も、反論しなかった。
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「問題は、ここからだ」
海洋国家の代表が、指を組む。
「彼女を直接どうこうするのは、不可能だと分かった」
別の代表が、苦く笑う。
「正確には、“割に合わない”だな」
ざわり、と低い同意の気配。
「では、次に狙われるのは何か?」
老賢者が、視線を巡らせる。
答えは、すぐに出た。
「……彼女の属する側だ」
王国代表が、静かに言った。
「同盟国。
支援組織。
補給線。
彼女を“使える状態”にしている全て」
言い換えれば――
アリエス本人ではなく、世界の方が試される。
⸻
「それは、戦争ではないか?」
砂漠国家の代表が問う。
「いいや」
王国代表は、首を振る。
「戦争になる前に、止める」
言葉は短いが、重い。
「我々は、彼女を“盾”にはしない。
だが、矛先を向けられたままにもさせない」
視線が、円卓を一周する。
「つまり?」
「つまり――」
王国代表は、はっきり言った。
「世界の枠組みを変える」
⸻
議題が切り替わる。
「提案がある」
老賢者が続ける。
「アリエスを“個人戦力”として扱うのをやめる」
どよめき。
「代わりに?」
「抑止力として定義する」
空気が、凍りついた。
「彼女が動くこと自体が、
世界にとっての警告になる」
「核抑止と同じ構造か……」
誰かが、呟く。
「そうだ」
老賢者は頷く。
「直接使わない。
だが、使われる可能性があると示す」
それが、最も血を流さない方法だと、
全員が理解していた。
⸻
一方その頃。
王都の訓練場。
アリエスは、拳を振っていた。
――ゴン。
――ドン。
空気が、軽く震える。
「……今日は静かだな」
最近、誰も絡んでこない。
理由は分からないが、
ちょっとだけ、物足りない。
そこへ、王国の随行官が駆けてくる。
「アリエスさん。
世界会議で、方針が決まりました」
「へえ」
「あなたは――」
言葉を選びながら、続ける。
「**“動かないことで、世界を守る存在”**として扱われます」
アリエスは、少し考えた。
「……殴らなくていいの?」
「殴る必要が、減る、という意味です」
「ふーん」
拳を止め、空を見上げる。
「それ、平和?」
「ええ。多分」
アリエスは、肩をすくめた。
「じゃあ、まあいいや」
理解は、していない。
でも、否定もしない。
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世界会議の議事録には、こう記された。
対象:アリエス
定義:抑止力
方針:
・直接干渉を避ける
・周辺への敵対行動を許さない
・敵対した場合の責任は、全面的に相手側に帰属
矛先は、変わった。
だが、消えたわけではない。
力が存在する限り、試す者は現れる。
そして――
アリエスは、その中心に立ち続ける。
殴るためではなく、
殴らせないために。
……たぶん。




