第2話 地上の流儀
街が見えてきた。
石造りの城壁に、赤茶色の屋根が連なっている。
空から見下ろすと、道の流れや人の動きがよく分かる。
「ここが……地上の街か」
アリエスは荷馬車の横を歩きながら、周囲をきょろきょろと見回した。
空と違って、視界は低い。建物が多く、翼を広げる余地はほとんどない。
「上から入らなくて正解だったな」
門の前で騒ぎになる未来が、簡単に想像できた。
隣を歩く商人ソウタは、何度もこちらを見ては苦笑している。
「いやあ……本当に助かりました。あんな魔物、普通は護衛を雇わないと」
「護衛?」
「冒険者ですよ。ギルドに登録してる人たちです」
その言葉に、アリエスの耳がぴくりと動いた。
「冒険者ギルド?」
「仕事の斡旋とか、身分証の代わりにもなります。地上を旅するなら必須ですね」
「へえ……便利そう」
強い敵がいそう、という期待も込みで。
⸻
街に入ると、人の多さに少しだけ驚いた。
露店の呼び声。
子どもたちの笑い声。
金属の打ち合う音。
空の都とは、まるで違う。
「慣れるまで大変ですよ」
「大丈夫。見えるから」
「……え?」
「なんでもない」
説明する気はなかった。
⸻
ギルドは、街の中央にあった。
大きな木製の扉に、剣と盾の紋章。
中に入ると、酒場のような空気が広がる。
ざわつく冒険者たち。
依頼票が貼られた掲示板。
そして――視線。
翼に、自然と集まる。
「……天翼族?」
「地上に来るなんて珍しいな」
ひそひそと声が漏れる。
アリエスは気にせず、受付に向かった。
「登録したい」
受付嬢が目を瞬かせる。
「冒険者登録ですね。身分証は……」
「ない」
「え?」
「生まれてからずっと空にいたし」
受付嬢は一瞬固まり、すぐに切り替えた。
「……では、簡易審査を行います。こちらへ」
⸻
水晶球の前に立たされる。
「手を置いてください」
言われるまま、手を置く。
――光。
水晶が強く輝いた。
周囲が、静まり返る。
アリエスの視界に、いつもの表示が走る。
《ステータス・オーバールック》
名前:アリエス
種族:天翼族ハーフ
年齢:15
Lv:1
HP:320
MP:180
STR:100
DEX:60
VIT:70
INT:45
LUK:40
固有スキル:
・ステータス・オーバールック
・最適破壊ルート
「……?」
受付嬢が、固まったまま動かない。
後ろで、誰かが息を呑む音がした。
「す、STR……100?」
「子どもだよな……?」
「嘘だろ……」
ざわつきが、一気に広がる。
アリエスは首を傾げた。
「高いの?」
「た、たか……いえ、規格外です!」
受付嬢は慌てて書類をまとめた。
「ランクは……初期ですが、戦闘試験免除。即、正式登録になります」
「ラッキー」
深く考えていない。
殴れれば、それでいい。
⸻
冒険者証を受け取り、振り返る。
視線が、さらに増えていた。
敵意。
好奇心。
警戒。
全部、見える。
(……面白い)
胸の奥が、少しだけざわついた。
戦っていないときの、あの感じ。
「ねえ」
ソウタに声をかける。
「この街、強い人いる?」
ソウタは苦笑した。
「いますよ。いっぱい」
「じゃあ、しばらく退屈しなさそうだ」
アリエスは、にっと笑った。
地上の流儀は、まだ分からない。
でも――
殴れば、分かる。
そう確信しながら、
天翼族ハーフの冒険者は、ギルドを後にした。




