第17話 試合? じゃあ全力でいいね
招待状は、封蝋付きで届いた。
赤でも、王都のものでもない。
深い蒼色の紋章。
「……西方魔導国家?」
アリエスは、封を切りながら首を傾げた。
「国名、かっこいいね」
中身は、やたら丁寧だった。
王国間の友好と均衡のため、
公式模擬戦を提案する。
対象:国家専属戦力 アリエス
相手:ルミナリア代表戦力
形式:一対一
規則:殺害禁止
場所:中立競技都市
「……試合?」
読み終えた瞬間、
胸の奥が、少しだけ騒いだ。
(殴っていい、ってことだよね)
細かい理屈は、どうでもいい。
⸻
中立競技都市は、
国家がぶつからないための“箱庭”だった。
巨大な円形闘技場。
結界、観客席、魔導カメラ。
世界が見ている。
王国側の随行員が、小声で言う。
「相手は、ルミナリア最強格です。
魔導特化……油断は――」
「大丈夫」
アリエスは、翼を軽く広げた。
「試合でしょ?」
随行員は、言葉を失った。
⸻
対戦相手が、入場する。
白銀のローブ。
空中に浮かぶ魔導陣。
女性。
年齢は二十代前半。
観客が、ざわめく。
「《星導のセレス》だ……!」
「国家筆頭魔導士……!」
視界が、切り替わる。
《ステータス・オーバールック》
名前:セレス
所属:ルミナリア
職業:大魔導士
Lv:48
HP:420
MP:1,200
STR:24
DEX:46
VIT:38
INT:160
LUK:52
スキル:
・多重詠唱 Lv5
・結界展開 Lv4
・重力魔法 Lv3
・魔力加速 Lv3
(……紙装甲)
アリエスは、即座に理解した。
(殴れたら勝ち)
司会が、声を張り上げる。
「――試合開始!」
⸻
開始と同時に、空が歪んだ。
無数の魔法陣。
光弾、重力場、拘束結界。
「逃げ場はないわよ!」
セレスの声が、空間に響く。
だが――
「うん。逃げない」
アリエスは、真っ直ぐ前へ。
翼で加速。
――ドンッ!!
重力魔法を、力で突破。
拘束結界を、拳で破壊。
「なっ……!?」
セレスの詠唱が、止まる。
警告:
・詠唱妨害成功
・結界破壊
「近いって」
アリエスは、間合いに入った。
――ゴンッ!!
一撃。
防護結界ごと、吹き飛ばす。
セレスが、地面に転がる。
観客席が、静まり返った。
司会が、慌てて叫ぶ。
「勝者――アリエス!!
試合時間、12秒!!」
⸻
結界内で、セレスが呆然と呟く。
「……理不尽……」
アリエスは、翼を畳み、手を差し出した。
「試合楽しかったよ」
セレスは、その手を見て苦笑した。
「……戦争しなくて、良かったわね」
「うん」
それが、試合の目的だった。
⸻
観客席の上、
各国の代表が、同じ結論に辿り着く。
――この少女とは、戦争できない。
その日の夜、
各国に通達が走った。
ルミナリア代表、完敗。
試合は成立した。
結論:
アリエスに対し、敵対行動を取るべからず。
アリエス本人は、控室で伸びをしていた。
「……もう一回、殴りたいな」
理由は分からない。
でも、胸の奥が、少しだけ物足りない。
試合は終わった。
だが、世界は――
彼女を“基準”に動き始めた。




