第16話 使者は、礼儀正しく強い
王都の外れ、訓練場。
朝の空気は澄んでいて、翼を広げるにはちょうどいい。
アリエスは地面を蹴り、軽く跳んだ。
――ドン。
着地の衝撃で、砂が舞う。
「……やっぱ、もう少し欲しいな」
殴っていない日は、どうにも身体が落ち着かない。
理由は分からない。ただ、戦うと静かになるのは確かだ。
その時、背後で拍手が鳴った。
ぱち、ぱち、と控えめな音。
「見事だ」
振り向くと、三人組が立っていた。
一人は長衣の男。
一人は軽装の女。
そして最後に、無言で佇む大柄な男。
装いは王国のものではない。
視界が切り替わる。
《ステータス・オーバールック》
対象:不明(使者)
所属:北方連合国家
Lv:45
対象:不明(護衛)
Lv:38
対象:不明(護衛)
Lv:52
(……高い)
だが、驚きはない。
アリエスは、翼を畳んだ。
「誰?」
率直な問い。
長衣の男が一歩前に出て、胸に手を当てる。
「北方連合国家より参った使者だ。
あなたに、正式な招待を持ってきた」
「招待?」
「そう。
我が国で、力を振るってほしい」
隠さない。
それが、かえって不気味だった。
⸻
「待遇は?」
アリエスが聞く。
「最高位の権限。
行動の自由。
そして――」
男は、はっきり言った。
「戦い放題だ」
一瞬、胸の奥が反応する。
だが、アリエスはすぐに首を傾げた。
「それって、命令される?」
「必要な時は」
「やだ」
即答だった。
場の空気が、ぴたりと止まる。
軽装の女が、微かに笑った。
「……噂通りだな」
大柄な男が、一歩前に出る。
無言。
だが、圧がある。
警告:
・戦闘意志:有
(試す気だ)
アリエスは、少しだけ嬉しそうに笑った。
「殴っていい?」
返事はない。
次の瞬間、
地面が砕けた。
⸻
――ドォンッ!!
大柄な男の拳が、地面を叩き割る。
だが、当たらない。
アリエスは、すでに上空だ。
「遅いよ」
翼で加速し、背後へ回る。
――ガンッ!!
肩口に一撃。
大柄な男が、数歩下がる。
「……効くか」
低い声。
再び、踏み込む。
《最適破壊ルート》
① 下半身破壊
② 姿勢崩し
③ 無力化
成功率:93%
「一発で終わらせるね」
急降下。
――ズドンッ!!
膝を砕き、
そのまま地面へ叩きつける。
無力化。
無言の護衛が、地面に沈んだ。
膝を砕かれ、体勢を崩したまま、完全に動けない。
訓練場に、静寂が落ちる。
戦闘終了
無力化対象:
・北方連合国家 護衛(Lv52)
アリエスは、軽く息を吐いた。
(……ちゃんと強かった)
胸の奥が、ゆっくりと澄んでいく。
殴り終えた後の、あの静かな感覚。
その直後、視界に光が走った。
《経験値獲得》
獲得EXP:4,900
(高Lv単独無力化・国家級使者補正)
レベルアップ!
Lv 9 → Lv 10
「……あ、また上がった」
本人は淡々としているが、周囲は違った。
騎士たちが、息を呑む。
更新された数値が、はっきりと並ぶ。
《ステータス・オーバールック(更新)》
名前:アリエス
種族:天翼族ハーフ
年齢:15
Lv:10
HP:760(+80)
MP:330(+30)
STR:146(+8)
DEX:86(+5)
VIT:122(+10)
INT:54(+2)
LUK:48(+2)
新規獲得:
・威圧(低) Lv1
「STR、また伸びてる」
拳を握ると、空気が小さく鳴った。
一撃の重さが、確実に増している。
長衣の使者が、深く頭を下げる。
「……理解した。
あなたは、試す存在ではない」
「うん」
アリエスは、にっと笑った。
「殴ったら分かったでしょ」
軽装の女が、苦笑しながら続ける。
「本国には、そう伝える。
不可侵条約は有効だ」
「殴られないなら、いいよ」
それだけで、話は終わった。
⸻
使者たちが去った後、
訓練場に残った者たちは、同じ結論に辿り着く。
――交渉の場でも、殴れる者が最強だ。
アリエスは、空を見上げて伸びをした。
(……世界、広いな)
胸の奥は、静かだ。
だが、次の気配が、もう遠くで動いている。
レベル10。
国家を跨ぐ力は、さらに一段、確かなものになった。




