第15話 世界会議に、名前だけが立つ
王都の最奥。
普段は閉ざされている大広間に、各国の代表が集まっていた。
円卓。
国章。
魔法で遮断された空間。
ここで交わされるのは、戦争と災害、そして――世界の均衡だ。
「次の議題に入る」
議長役の老賢者が、杖を鳴らした。
「旧封鎖山域における、災害指定S級案件の件だ」
空気が、はっきりと張り詰める。
誰かが、書類を机に滑らせた。
「被害予測:都市壊滅。
実被害:ゼロ」
沈黙。
「討伐者は?」
老賢者が問いかける。
王国代表が、短く答えた。
「――アリエス」
その名が、広間に落ちた。
⸻
「……年齢は?」
「十五」
ざわり、と空気が揺れる。
「種族は?」
「天翼族ハーフ」
別の代表が、鼻で笑った。
「冗談だろう。
S級災害を、十五歳の少女が?」
「単独でだ」
王国代表は、淡々と続ける。
「我々は、現地映像と数値ログを確認している」
魔法映像が展開される。
盆地を砕く一撃。
急降下。
核の粉砕。
言い逃れは、できなかった。
⸻
「問題は、強さではない」
海洋国家の代表が、指を組む。
「制御だ。
その少女は、誰の管理下にある?」
王国代表は、即答する。
「国家専属。
ただし――拘束はしていない」
広間が、ざわつく。
「自由に動けるS級戦力?」
「それは、危険すぎる」
「兵器と何が違う?」
老賢者が、杖を鳴らす。
「落ち着け。
我々が議論すべきは、排除か、共存かだ」
その言葉で、空気がさらに重くなった。
⸻
「接触は?」
砂漠国家の代表が問う。
「まだ、直接はない」
「なら、早急にだ」
別の声。
「囲い込め」
「奪え」
「試せ」
言葉は違えど、目的は同じ。
利用価値の最大化。
王国代表は、眉一つ動かさない。
「忠告しておく」
声は低い。
「彼女は、制御されるタイプではない」
会場の視線が集まる。
「それに――」
王国代表は、はっきりと言った。
「敵に回すと、災害になる」
沈黙。
その一言が、
すべてを物語っていた。
⸻
一方その頃。
アリエスは、王都郊外の訓練場で、拳を振っていた。
――ゴンッ。
――ドンッ。
空気が、揺れる。
「……やっぱ、ちょっと物足りない」
理由は分からない。
ただ、戦っていないと、胸の奥が静かにならない。
近くにいた騎士が、恐る恐る声をかける。
「あの……」
「ん?」
「今、世界会議で……あなたの名前が」
「へえ」
興味なさそうな返事。
「何て言われてるの?」
「……世界の均衡を崩す可能性がある、と」
アリエスは、少し考えた。
そして、にっと笑った。
「殴らなきゃ、壊れないでしょ」
その一言に、騎士は何も返せなかった。
⸻
その日の議事録には、こう記された。
対象:アリエス
分類:未確定戦力
方針:
・直接衝突を避ける
・監視と接触を継続
・決して、敵対しないこと
世界は、名前だけを先に知った。
本人は、まだ知らない。
その名が、すでに“脅威”として刻まれたことを。




